↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/100

第75話 どっちも取れ

 八日目の夜、俺はガルド爺の店にいた。


 炉に、火が入っていた。


 爺さんは、鉄を打っていた。


 ――音が、【鍛える】が戻ってからずっと、重い。


「――爺さん」


「なんだ」


「――相談があります」


「――金か」


「金です」


「――ない」


   ◇


 爺さんは、鎚を止めなかった。


「――違います」


「じゃあ何だ」


「――撤回するかどうかです」


   ◇


 鎚が、止まった。


 爺さんは、鉄を炉に戻した。


 それから、床几に座った。


「――話せ」


   ◇


 俺は、全部話した。


 二万九千四百人。十四日。撤回すれば十年分割に戻る。撤回しなければ差押え。


 金貨十二万枚の査定書。


 ――売れば、下町だけは残る。


 爺さんは、最後まで黙って聞いていた。


 聞き終わって、酒を一口飲んだ。


「坊主」


「はい」


「――お前、どっちを選ぶつもりだ」


「撤回はしないです」


「――理由は」


「マーサおばさんが、怒ります」


「――そうだな」


 爺さんは、あっさり同意した。


「――あいつは怒る。……で?」


「で、っていうのは」


「撤回せんかったら、二万七千二百人が家を失う」


 爺さんは、言った。


「――そっちは、怒らんのか」


   ◇


 俺は、答えられなかった。


「――怒ります」


「だろうな」


「でも」


「でも、じゃねえ」


   ◇


 爺さんは、酒瓶を置いた。


「――坊主。お前、今、何をしとる」


「――……選んでます」


「そうだ」


 彼は、言った。


「――選ぶってのはな。片方を、諦めるってことだ」


   ◇


 俺は、その言葉を、聞いた。


「――諦める」


「そうだ」


 爺さんは、俺を見た。


「――お前の才牌、なんて書いてある」


   ◇


 俺は、胸元を出した。


 【不撓不屈】。


「――一文字目は、なんだった」


「【諦めない】です」


「そうだろうが」


   ◇


 爺さんは、鼻を鳴らした。


「――お前が選ぶな。選ぶのは、才能のある奴の仕事だ。三十七枚持ってりゃ、三十七のうち一つを選ぶ。十枚なら十のうち一つだ」


 彼は、俺を指した。


「――お前は一枚だ。選ぶ余地がねえ」


「じゃあ、どうすればいいんですか」


「――どっちも取れ」


   ◇


 俺は、その言葉を、二回聞いた。


「――両方ですか」


「両方だ」


「無理ですよ」


「無理だな」


 爺さんは、あっさり言った。


「だが、お前、無理を十五年やっとるだろ」


   ◇


 彼は、炉を見た。


「――坊主。わしはな、十年、才牌なしで打った」


「はい」


「才牌がないから、いい鉄が買えん。いい鉄が買えんから、いい剣が打てん。普通は、そこで、どっちかを選ぶ。どっちかって。安い鉄で数を打つか、打つのをやめるかだ。わしは、打つのをやめた」


   ◇


 俺は、顔を上げた。


「――十年、打ってなかったんですね」


「――打ってなかった」


 彼は、そう言った。


「炉に火を入れんかった。……道具は毎日磨いた。鉄も見に行った。だが、打たんかった」


 彼は、そこで、少し黙った。


「――選んだんだ、わしは」


 彼は、酒瓶を持ち上げて、また置いた。


「――五日前だ」


「俺の剣ですね」


「――そうだ」


 彼は、言った。


「お前が、決闘に出ると言った。……剣がないと言った」


 彼は、鼻を鳴らした。


「安い鉄しかなかった」


「でも、打ちましたよね」


「――打った」


「――なんでですか」


 爺さんは、しばらく答えなかった。


 それから、言った。


「選ばんかったからだ」


「――安い鉄で、いい剣を打つ方法を、考えた。三日かかった。三日、寝とらん」


 彼は、俺を見た。


「――選ばんと決めたら、考えるしかなくなる」


 俺は、その炉を、見ていた。


「爺さん」


「なんだ」


「どっちも取る方法、思いつきますか」


「――思いつかん」


「即答ですね」


「わしは鍛冶屋だ」


 彼は、酒を飲んだ。


「――だが、お前んとこの鑑定士は、四百十二ページ書いとるんだろ」


 俺は、頷いた。


「――四百十二です」


「なら、あと十ページ書かせろ。十ページで、穴は見つかる」


   ◇


 俺は、立ち上がった。


「――爺さん」


「なんだ」


「――ありがとうございます」


「――礼はいらん」


 彼は、鎚を取った。


「十四日後に、店が残ってたら、その時に言え」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。