↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/100

第66話 手を離れる

 三日後の夜、フィナが数え終わった。


 彼女は、食堂の卓に、紙を七枚並べた。


 全部、数字で埋まっていた。


 字が、細かかった。


 ――三日、寝ていない字だった。


「ロイさん」


「はい」


「報告します」


   ◇


「才牌の返還を受けた者、王都および周辺で、二万九千四百人」


 彼女は、一枚目を指した。


「――四万一千二百枚。ほぼ、私の推計通りです」


「――当たりましたね」


「当たりました」


「すごいですね」


「――すごくありません」


 彼女は、二枚目に指を移した。


「――問題は、こちらです」


   ◇


「即時全額返済の対象となった債務者、二万九千四百人」


「――同じ数ですね」


「同じ人です」


 彼女は、言った。


「才牌が返った人が、そのまま、借金を一括請求されています」


「――全員ですか」


「全員です」


 彼女は、三枚目をめくった。


「うち、十四日以内に完済できる見込みのある者――二千二百人」


   ◇


 俺は、その数字を見た。


「残りは」


「――二万七千二百人」


 彼女は、言った。


「差押えです」


 俺は、卓の数字を見ていた。


 二万七千二百。


 ――人数だ。


 皿の枚数でも、階段の段数でもない。


「フィナさん」


「はい」


「そのうち、下町は」


「三千二百人です」


 彼女は、四枚目をめくった。


「下町の世帯数は千百。……そのうち、九百二十世帯が対象です」


「――九割ですか」


「九割です」


「マーサおばさんの店も」


「入っています」


「――ガルド爺の店も」


「入っています」


「――ドズさんは」


「自警団の宿舎は、王家の持ち物です」


 彼女は、あっさり言った。


「ですが、団員のうち十四人が、対象です」


「――孤児院は」


   ◇


 フィナは、五枚目を、少しの間、めくらなかった。


「孤児院は、建物が教会の名義です」


「じゃあ」


「――ですが、運営費の借入が、金貨百八十枚あります」


 彼女は、顔を上げた。


「院長先生が、七年前に、【慈育】という才牌を担保に入れています」


   ◇


 俺は、その言葉で、初めて息が詰まった。


 ――院長先生。


 俺を、十五年、育てた人だ。


 ――才牌を、持っていなかったはずだ。


 俺は、そう思っていた。


「先生、才能なしだって、言ってました」


「――嘘です」


 フィナは、静かに言った。


「――七年前に、預けたんです」


 彼女は、記録を見た。


「借入の目的欄に、こう書いてあります」


   ◇


 彼女は、読み上げた。


『屋根の修繕、および、冬季の薪』


 俺は、それを聞いた。


 ――七年前。


 俺は、八つだった。


 あの冬、孤児院は、寒くなかった。


 ――そういえば、寒くなかった。


 その前の冬は、寒かった。


 ――寝る時、子供が六人で固まっていた。


 七年前の冬から、それをしなくなった。


「フィナさん」


「はい」


「俺、何をしたんですかね」


   ◇


 フィナは、紙を揃えた。


 七枚を、きれいに重ねた。


「ロイさん。あなたは、正しいことをしました」


「――結果、二万七千二百人が家を失います」


「はい」


「正しくないです」


「正しかったです」


 彼女は、言い張った。


「――才牌を担保に取るのは、間違っています。……それは、人の一生を質草にすることです」


 彼女は、俺を見た。


「だから、禁じたのは、正しいです」


「でも」


「でも、足りませんでした」


 彼女は、そこで、初めて声を落とした。


「――ロイさん。規則というものは」


 彼女は、紙束を撫でた。


「――書いた瞬間に、書いた人の手を離れます」


   ◇


「離れる」


「はい」


 彼女は、言った。


「あなたは『才牌を返せ』と書きました。組合は『では借金を今すぐ返せ』と読みました」


 彼女は、続けた。


「――どちらも、条文の通りです」


「――嘘をついてないんですか、あいつら」


「ついていません」


 彼女は、あっさり言った。


「規約第九条は、二百年前からあります。今日作った条文ではありません」


「じゃあ」


「――待っていたんです」


   ◇


 俺は、顔を上げた。


「――待ってた?」


「たぶん」


 彼女は、言った。


「担保を返せと言われた時に、即時全額請求に切り替える。……この手は、規約に最初から書いてあります」


 彼女は、その条文の写しを見せた。


 紙が、黄ばんでいた。


「――二百年、一度も使われていません」


「――使われなかったのは、なんでですか」


「才牌を返せと言った人が、いなかったからです」


 彼女は、あっさり言った。


「――二百年、一人もです」


   ◇


「――使う日が、来たんですね」


「来ました」


 彼女は、言った。


「――誰かが、才牌を返させる日が」


   ◇


 俺は、その紙を、しばらく見ていた。


 ――二百年前の誰かが、書いた文だ。


 ――百年前のガルドの父さんが、負けた相手かもしれない。


「フィナさん」


「はい」


「俺、条文を、もう一つ書けますか」


「――書けます」


 彼女は、即答した。


「――優勝者は、規則を書けます。……セン様が、そう仰いました」


 彼女は、そこで、顔を上げた。


「ですが」


「――ですが?」


「――一度書いた人間は、二度目を、必ず甘く書きます」


 彼女は、言った。


「一度目でうまくいったと思っているからです」


「――うまくいってないですよ」


「ええ」


 彼女は、あっさり言った。


「――ですので、今度は、二文では書かせません」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。