↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/100

第61話 下り階段

 階段が、戻っていた。


 朝、目を覚まして島の縁に出たら、そこに生えていた。


 九万九千九百九十九段。上ってきた時と、同じものだ。石の色も、幅も、一段の高さも変わっていない。


 違うのは、向きだけだった。


   ◇


「下りですね」


「下りです」


 フィナが、紙束を抱え直した。三百十二ページが、四冊に増えている。


「ロイさん、ご存じですか」


「なんですか」


「――下りは、上りより、きついです」


「嘘でしょ」


「本当です」


   ◇


 彼女は、指を立てた。こういう時の彼女は、鑑定士というより教師だった。


「上りは、心臓が音を上げます。下りは、膝が音を上げます」


「――どっちも音を上げるんですね」


「はい」


 彼女は、あっさり頷いた。


「ただ、心臓は根性でなんとかなります。膝は、なりません」


「――根性で、なんとかならないんですか」


「なりません」


 彼女は、断言した。


「膝は、部品です。使えば減ります。減った分は、戻りません」


「――才牌みたいですね」


「才牌は戻ります。膝は戻りません」


   ◇


 俺たちは、下り始めた。


 一段。二段。三段。


 ――百段で、俺は理解した。


「フィナさん」


「はい」


「膝が、笑ってます」


「まだ百段です」


「百段です」


「九万九千八百九十九段、残っています」


「――言わないでください」


   ◇


 上りの時、俺は一人だった。


 正確には、途中からドルガが来た。それでも、二人だ。


 ――今日は、違った。


 俺の前を、ドルガが下りていた。


 俺の後ろを、シャノンが下りていた。九枚の鎧が、一段ごとにがしゃがしゃ鳴った。


「その鎧、重くないですか」


「重いわよ」


「脱ぎませんか」


「脱ぎ方を、忘れたの」


 彼女は、あっさり言った。


「八歳から着てるのよ」


 その後ろに、才牌を返された九人が、ぞろぞろと続いていた。


 全部で、十二人。


   ◇


「――なあ、七十席」


 ドルガが、振り返らずに言った。


「はい」


「――お前、この階段、上る時は一人だったな」


「そうですね」


「――今、何人だ」


 俺は、数えた。


「――十二人です」


「そうだ」


 彼は、それだけ言って、また下り始めた。


 五十段ほど下りたところで、もう一度、言った。


「――上りの時、俺はお前の荷物を持った」


「持ってもらいました」


「――今日は、持たん」


「――なんでですか」


「持つほど遅くねえだろうが」


 俺は、その言葉に、少し笑った。


   ◇


 三千段で、二日目の老人が座り込んだ。


 八十歳だ。庭木の才能を十四枚持っていた人だ。


「――すまん。少し待て」


「休みましょう」


「――いや、行け。わしは日暮れまでに着けばよい」


「階段、消えますよ」


「消えたら、その時考える」


 彼は、そう言って笑った。


「わしはな、八十年、庭木ばかり見てきた」


 彼は、雲を指した。


「――上から下を見るのは、初めてだ」


 結局、俺たちは全員で座った。


   ◇


 三千段目からの景色は、妙だった。


 下を見ると、雲だ。


 上を見ると、島だ。


 ――どっちも、行ける気がしなかった。


「フィナさん」


「はい」


「――俺、優勝したんですよね」


「しました」


「実感が、ないです」


「――ないですね」


 彼女も、あっさり認めた。


「わたしも、鑑定士として同行しただけのつもりでした」


「違うんですか」


「委嘱状には、公認鑑定士と書いてあります」


 彼女は、紙を出した。石ではなく、普通の紙だ。


「――この紙、まだ持ってるんですか」


「持っています」


   ◇


「――優勝したのに、才牌は一枚のままです」


 俺は、胸元を出した。


 【不撓不屈】。


 五つの升目が、全部繋がっている。


「賞品も、もらってないです」


「辞退しましたので」


「――辞退しました」


 俺は、それを見た。


「――代わりに、条文を一つ書いてもらいました」


「あれ、効きますかね」


「効きます」


 フィナは、即答した。


「――なんで、そう言い切れるんですか」


「会戦の規則は、地上の法に優先します」


 彼女は、紙束をめくった。


「セン様が、そう仰いました。……そして、あの方は百年、規則しか読んでいません」


「――規則しか読んでない人の言うことって、信用していいんですかね」


「規則の話なら、世界で一番信用できます」


   ◇


 俺は、雲を見た。


 ――王都は、どうなっているだろう。


 才牌を担保に取られていた人が、何万人いるのか、俺は知らない。


 ガルド爺。ヴェイルさんの親父さん。


 ――たぶん、もっといる。


「フィナさん」


「はい」


「――何人くらい、返るんですかね」


「――計算しました」


「してたんですか」


「昨日の夜に」


 彼女は、紙束の後ろの方をめくった。


「金貸し組合の公表資料から、担保として保有されている才牌の枚数を逆算しました」


「――何枚ですか」


 彼女は、顔を上げた。


「四万一千二百枚です」


「四万」


「はい」


「――人数だと」


「三万人前後かと」


 俺は、その数字を、飲み込んだ。


 三万人。


 下町の全住民より、多い。


   ◇


「フィナさん」


「はい」


「――三万人が、才能を取り戻すんですよね」


「はい」


「――それって」


 俺は、言った。


「――いいことですよね」


   ◇


 フィナは、答えなかった。


 紙束を、抱え直しただけだった。


「フィナさん?」


「――たぶん、いいことです」


 彼女は、そう言った。


「――たぶん?」


「たぶんです」


「――そこ、断言しないんですね」


「断言できることしか、断言しません」


   ◇


 彼女は、雲を見ていた。


「ロイさん。条文には、才牌を返せ、と書いてあります」


「はい」


「借金を返せ、とは書いてありません」


「――借金の話、してないですよね」


「していません」


 彼女は、そう言った。


「――書かなかったことは、起きないわけではありません」


   ◇


 俺は、その言葉の意味を、その時はまだ、わかっていなかった。


 わかったのは、三日後だ。


 ――地上に、着いた日だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。