第51話 神々の浮島
浮島は、思ったより、静かだった。
岩の島だ。差し渡し、たぶん二キロ。中央に、白い建物が一つ。
草も、木も、なかった。ただ、岩と、風と、星。
――そして、九十七人。
◇
「――九十七?」
俺は、フィナに聞いた。
「はい」
彼女は、紙束を数えていた。
「階段で、三人、脱落しました」
「――脱落」
「日没に間に合わなかった者は、資格を失います」
彼女は、静かに言った。
「――一人は、六万段で足を折りました。二人は、九万段で座り込みました」
「――どうなったんですか」
「――階段が、消えました」
◇
俺は、来た方を振り返った。
――何もなかった。
島の縁は、そのまま、崖だった。
九万九千九百九十九段の階段は、跡形もなかった。
「――帰れないんですか」
「――会戦が終わるまでは」
彼女は、あっさり言った。
◇
白い建物は、宿舎だった。
石造りの、大きな箱。中は、百人分の部屋に区切られている。
俺の部屋には、番号が書いてあった。
『七十』
中は、簡素だった。寝台と、机と、水差し。
窓から、崖が見えた。
◇
夜、俺は、宿舎の広間に呼ばれた。
九十七人が、集まっていた。
中央に、白装束が立っていた。
「――規則を、説明いたします」
彼は、名簿を掲げた。
「本戦は、明日より、七日間」
「――七日」
「一日一戦。組み合わせは、毎朝、抽選で決まります」
彼は、言った。
「七日間で、勝ち残った者が、優勝です」
◇
「――七戦」
俺は、指を折った。
九十七人が、一日一戦。七日。
――計算が、合わない。
「――あの」
俺は、手を挙げた。
九十七人が、一斉に俺を見た。
「はい、七十席」
「七日で、九十七人が一人になりますか」
「なりません」
白装束は、あっさり言った。
「――敗者は、脱落しません」
◇
広間が、ざわめいた。
「――どういう意味だ!」
誰かが、叫んだ。
「敗者は、才牌を勝者に渡します。ですが、候補資格は失いません」
白装束は、言った。
「翌日も、戦います」
「――才牌がなくても、か!?」
「はい」
彼は、頷いた。
「――才牌ゼロの者も、七日間、戦い続けます」
◇
俺は、その意味を、飲み込んだ。
――七日間、毎日、才能を賭けて戦う。
負けたら、才能を失う。
――でも、抜けられない。
「――優勝の条件は」
俺は、聞いた。
「七日目の終了時点で、最も多くの才牌を持つ者です」
白装束は、言った。
「――それだけです」
◇
広間が、静かになった。
それから、誰かが、笑った。
「――そりゃ、簡単だ」
声のした方を見た。
背の高い男が、壁にもたれていた。
黒い外套。年齢は、三十くらい。
――才牌の枚数が、異常だった。
首から下げているのは、鎧だった。才牌を、鎖で編んで、胸当てにしていた。
◇
「――第三席、カイル」
フィナが、震える声で言った。
「――才牌、推定百二十枚」
「――百二十!?」
「――王族の三倍です」
カイルは、壁から背を離した。
「七日間、毎日勝てばいい」
彼は、言った。
「――俺は、そうする」
彼は、広間を見回した。
「――お前らは、俺の才牌を増やす材料だ」
◇
誰も、言い返さなかった。
――言い返せなかった。
百二十枚。
この場の誰も、その枚数に届いていない。
「――第三席」
白装束が、言った。
「一つ、訂正いたします」
「なんだ」
「――一位と二位は、本日、到着しておりません」
◇
カイルの顔が、変わった。
「――なんだと?」
「第一席、第二席は、階段を使っておりません」
白装束は、あっさり言った。
「――お二方は、明日、直接お越しになります」
「――階段を使わずに、どうやって」
「――規則の管轄外です」
◇
解散のあと、俺は、部屋に戻った。
フィナが、廊下でついてきた。
「――ロイさん」
「はい」
「――七日、生き残れますか」
「――わからないです」
俺は、正直に言った。
「――でも」
俺は、胸元の才牌を出した。
【不屈】。
三つ目の升目の黒が、まだ、剥がれかけている。
「――あと三回です」
俺は、言った。
「三回、あの日と同じことをすれば、全部ほどけます」
◇
「――七日あります」
俺は、言った。
「――三回なら、たぶん、足ります」
フィナは、しばらく黙っていた。
それから、彼女は、紙束を抱え直した。
「――明日の朝、抽選です」
「はい」
「――誰と当たっても」
彼女は、顔を上げた。
「――私が、仕様の穴を見つけます」




