第46話 席次七十
三日後、白装束が来た。
下町の広場に、いきなり立っていた。
「――ロイ様」
「……どうも」
「席次の再編が終わりました」
彼は、石の名簿を出した。
「予選通過者五十名により、席次を組み直しました」
彼は、指を滑らせた。
「――ロイ様。第七十席です」
◇
「――七十?」
「はい」
「百番でしたよね」
「はい」
「三十上がったんですか」
「はい」
俺は、フィナを見た。
彼女が、紙束をめくっていた。
「――予選の勝ち方で、席次が変動します」
彼女は、言った。
「ヴェイルさんは八十七番でした。八十七番を倒した百番は、通常、八十七番の一つ上――八十六番あたりになります」
彼女は、顔を上げた。
「――三十も上がるのは、異例です」
◇
「――なぜですか」
俺が聞くと、白装束は答えた。
「席次は、才能の総量と、内容の評価で決まります」
「内容?」
「はい」
彼は、名簿を閉じた。
「予選の記録は、五十試合すべてが会戦本部に提出されます。……本部は、それを読みます」
彼は、言った。
「あなたの試合は、四十七分でした。五十試合中、最長です」
「――長いだけですよね」
「二番目に長い試合は、十一分です」
◇
俺は、言葉に詰まった。
「――四倍」
「はい」
白装束は、頷いた。
「そして、本部が最も注目したのは、四十一分以降です」
「――四十一分」
「二重掛けが三回目に切れ、ヴェイル様が倒れた時刻です」
彼は、言った。
「あなたは、そこから六分、待ちました」
◇
「――待った理由を、本部が聞いております」
「――言いましたよ、あの時」
「記録には残っていますが、本部は『信じがたい』と」
「――信じがたい」
「はい」
白装束は、名簿をしまった。
「勝利を六分遅らせる理由が、『相手と同じだけ待ちたかった』では、説明にならない、と」
「――説明になってないですか」
「――なっておりません」
彼は、あっさり言った。
「ですので、本部は、こう結論しました」
彼は、言った。
「――『第七十席・ロイの才能は、未解明である』」
◇
俺は、フィナを見た。
彼女は、口を押さえていた。
「――どうしました」
「――やられました」
「え?」
「解析されないことが、評価になっています」
彼女は、紙束を握りしめた。
「才牌一枚、【不屈】。……これだけなら、席次は九十台のはずです」
彼女は、俺を見た。
「――ですが本部は、『わからないもの』を高く置きました」
◇
白装束が、頭を下げた。
「本戦は、二か月後」
彼は、言った。
「開催地が決定いたしましたので、お伝えします」
「――どこですか」
「――神々の浮島」
俺は、フィナを見た。
彼女の顔から、血の気が引いていた。
◇
「――浮島!?」
「ご存じでしたか」
「知識としては」
彼女は、掠れた声で言った。
「――空に、浮いている島です」
「――空!?」
「はい」
彼女は、頷いた。
「三百年前に、一度だけ、地上から観測された記録があります。……ですが、以降、誰も見ていません」
彼女は、白装束を見た。
「――実在するんですか」
「本日、浮上いたしました」
◇
俺たちは、同時に、空を見上げた。
――何もなかった。
いつも通りの、青い空。
「――見えないですけど」
「王都の上空です」
白装束は、言った。
「下町からは、山に隠れて見えません」
彼は、頭を下げた。
「――二か月後、百人の候補が、あそこに集まります」
◇
白装束が去ったあと、俺たちは、しばらく空を見ていた。
「――フィナさん」
「はい」
「行くしかないですよね」
「――行くしかないです」
彼女は、紙束を抱え直した。
「――ですが、その前に」
「はい」
「二か月あります」
彼女は、俺を見た。
目が、光っていた。
「――仕様書、第三巻を作ります」
◇
その夜、ガルド爺の店に行った。
爺さんは、椅子に座っていなかった。
店の奥にいた。
――炉に、火が入っていた。
十年、消えていた火が。
「――爺さん」
「おう」
彼は、振り返らなかった。
「――なにしてるんですか」
「見りゃわかるだろ」
彼は、鉄を叩いていた。
真っ赤に焼けた、細長い鉄を。
「――剣、打ってるんですか」
「打ってねえ」
「打ってますよね」
「――棒だ」
◇
爺さんは、それを、水に沈めた。
じゅう、と音がした。
「――坊主」
「はい」
「浮島に行くんだってな」
「――もう知ってるんですか」
「白いのが、朝来た」
彼は、水から鉄を引き上げた。
――剣だった。
飾りのない、まっすぐな、鉄の剣。
「――お前、剣は下手だ」
「はい」
「才能もねえ」
「はい」
「――だから、軽くした」
彼は、それを、俺に投げた。
「持て」




