↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/100

第4話 王子さまの見世物

詰所の石壁は、座っていると尻から冷えた。


「……で、だ。ロイ。おめえ、自分が何をしたか、わかってんのか」


 鉄格子の向こうで頭を抱えているのは、自警団のドズさんだった。朝稽古で俺の剣が七回飛ぶのを見届けた、あのドズさんだ。下町の詰所勤めだから、俺の身柄はまずここに運ばれたのだった。


「行列を止めました」


「そうだよ! 王家のだよ! なんでよりによってお前なんだよ!」


「花が落ちてたので」


「花あぁ?」


 事情を全部話すと、ドズさんは長い長いため息をついた。


「……お前らしいっちゃ、お前らしいがな。いいか、不敬罪ってのはシャレにならん。鞭打ち五十が相場だ。悪けりゃ北の鉱山で十年。もっと悪けりゃ――」


「処罰はなし、って王子様は言ってました」


「は? そんな都合のいい話があるか」


 あった。その日の夕方に。


 詰所の扉が乱暴に開いて、白銀の騎士が入ってきた時、詰所の全員が跳ね上がるように敬礼した。騎士は羊皮紙を広げ、鉄格子の前で読み上げた。


「下町の民、ロイ。王族への不敬の咎、その処罰について、アルディス殿下より恩情ある御沙汰である」


 ドズさんが「ほら来た、鞭打ちだ」という顔で目をつぶった。


「――十日後、中央広場において、殿下と公開の才能決闘を行うべし」


「……は?」


 声を出したのは、ドズさんだった。俺も似たような顔をしていたと思う。


「才能決闘(タレント・デュエル)。国法に定められた、才能の使用を許される公式の決闘である。貴様が受ければ不敬の罪は不問。拒めば、罪は元のまま裁かれる」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 ドズさんが鉄格子越しに食ってかかった。


「才能決闘っつったら、勝った側が負けた側の才能を一つ、才牌ごと持ってける決闘だろう! 殿下は三十七、こいつは文字化けの一枚きり! 決闘もクソもあるか、公開処刑じゃねえか!」


「言葉を慎め、団長殿」


 騎士は無表情のまま、しかし、ほんの一瞬だけ目を伏せた。この人も内心では同じことを思ってるんだな、と俺は思った。


「……殿下の御意向である。『席なしの魂に、席というものを教えてやる』と」


 ああ、なるほど。


 あの「遊べ」は、これか。


 王族に逆らった文字化けを、大観衆の前で、三十七の才能で完膚なきまでに潰す。処刑よりよっぽど効く見せしめだ。ついでに王子様は「慈悲深く決闘の作法に則った」ことになる。頭のいい人の考える意地悪は、造りが丁寧で嫌になる。


「受けるか、拒むか。返答は今この場で――」


「受けます」


「……おい、ロイ!?」


「即答であるか。……後悔するぞ、下民」


「あの、一つ聞いていいですか」


 俺は立ち上がって、鉄格子に近寄った。


「決闘って、途中で気絶したり、参ったって言ったりしたら負けなんですよね」


「無論だ」


「逆に言うと――立って、続けてる限りは、負けじゃないんですよね?」


 騎士は、初めて俺の顔をまともに見た。


「……規定上は、そうなるな。審判が続行不能と判断するまでは」


「わかりました。じゃあ大丈夫です。続けるのだけは、得意なので」


 騎士は何か言いかけて、やめて、羊皮紙を巻いた。帰り際、独り言みたいな小さな声が落ちた。


「――十日、生き延びる工夫をしろ。殿下は、本気で潰す気だ」


   ◇


 釈放されて詰所を出ると、外はもう夜だった。


 のに、通りがやけに騒がしい。


「おい聞いたか、文字化けのロイが王子様と決闘だと!」


「決闘っていうか処刑だろ」


「賭場はもう札を開いたぞ! 王子様の勝ちが一・〇一倍!」


「ロイの勝ちは?」


「三百倍! でも誰も買わねえから意味ねえよ!」


 ……耳が早いにも程がある。下町の噂は、俺が牢にいる間に王都を一周してきたらしい。


 通りの向こうから、聞き慣れた下駄の音がした。


 煙管の煙。ガルド爺だった。爺さんは俺の顔をじろりと見て、頭のてっぺんから爪先まで確かめて、それから一言だけ言った。


「……飯は食ったのか」


「まだです」


「来い。話はそれからだ」


 先に立って歩き出した爺さんの背中は、いつもより少しだけ、怒っているように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。