↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/100

第39話 斬らない理由

 ヴェイルは、答えなかった。


 答えないまま、消えた。


「――いち!」


 フィナの声。


「――に!」


 俺は、左に跳んだ。


 ――外した。


 彼の剣は、俺の跳んだ先で、待っていた。


 右の肩が、深く切れた。


 今までで、一番深かった。


   ◇


「――十六」


 彼は、着地しながら言った。


「余計なことを言うな」


「――言いますよ」


 俺は、肩を押さえた。


 血が、指の間から溢れた。


「四十七分あるんで、話す時間はたっぷりあります」


「――黙れ」


 彼は、また消えた。


「――いち! ――に!」


 俺は、避けた。避けきれなかった。


 背中が、切れた。


 十七。


 膝が、落ちた。


 ――二回目。


   ◇


 立った。


 二秒八。


「――ヴェイルさん」


「黙れと言った」


「なんで、斬らないんですか」


 彼の剣が、震えた。


「――九人、全員生きてますよね」


 俺は、言った。


「失血で戦闘不能。でも、死者はゼロです」


 俺は、彼を見た。


「四十七分かけて、削って、削って、相手が『もう無理だ』って言うまで待って」


 俺は、息を吸った。


「――殺さないように、そうしてるんですよね」


   ◇


 闘技場が、静かになった。


 二千五百人の観客が、黙った。


 ヴェイルは、剣を下ろしていた。


「……余計な」


 彼の声が、掠れていた。


「余計な、詮索を」


「詮索してません。記録を読んだだけです」


「――記録に、そんなことは」


「書いてないです」


 俺は、言った。


「書いてないから、変なんですよ」


   ◇


「才能決闘の記録には、必ず『致命傷の有無』の欄があります」


 俺は、フィナに教わったことを、そのまま言った。


「ヴェイルさんの九戦、全部『なし』です。……九回連続で『なし』は、確率的におかしいって、うちの鑑定士が言ってました」


 俺は、鑑定士席を見た。


 フィナが、頷いていた。


「――狙ってやらないと、こうはならないです」


   ◇


 ヴェイルは、長いこと、黙っていた。


 それから、彼は言った。


「――俺は、平民だ」


 観客席が、ざわめいた。


「才牌二枚で、八十七番の席をもらった。……普通、平民は候補にならねえ」


 彼は、剣を持ち直した。


「うちは、借金があった」


「――借金」


「親父が、才能を担保に金を借りた」


 彼は、あっさり言った。


「返せなくて、取られた。……親父の才牌は、今、金貸しの手元にある」


 彼は、俺を見た。


「――取り返すには、金がいる。金を作るには、勝つしかねえ」


   ◇


「だから、俺は、勝ち続けてる」


 彼は、言った。


「――だが、殺したら、そこで終わりだ」


 彼の声が、少しだけ、震えた。


「殺人者になったら、賞金は出ねえ。候補資格も剥奪だ。……俺は、勝ち続けなきゃならねえのに、殺したら終わる」


 彼は、剣を構えた。


「だから、削る。四十七分かけて、相手が諦めるまで」


 彼は、笑った。


 ひどく、疲れた笑い方だった。


「――しんどいか、って聞いたな」


「聞きました」


「――しんどいよ」


   ◇


 俺は、その場に立っていた。


 全身、血まみれで。十七か所斬られて。二回転んで。


 ――それでも。


「――ヴェイルさん」


「なんだ」


「俺、あなたに勝ちます」


「――だろうな」


「でも、一つだけ、言わせてください」


 俺は、彼を見た。


「四十七分かけて、九人を生かしたのは」


 俺は、言った。


「――才能じゃないです」


   ◇


 ヴェイルの手が、止まった。


「あなたの才牌には、【加速】と【出血】しか書いてないです」


 俺は、言った。


「殺さないでおく、なんて才能、書いてないですよね」


 俺は、拳を握った。


「――それ、あなたが自分で決めたことです」


   ◇


 闘技場が、静かだった。


 ヴェイルは、剣を持ったまま、動かなかった。


 やがて、彼は、言った。


「――ロイ」


「はい」


「お前、才牌一枚だったな」


「はい」


「――なんで、それで、そんなに喋れる」


 彼は、剣を構え直した。


 その構えが、さっきまでと、違った。


「――喋る才能でもあるのか」


「ないです」


 俺は、言った。


「ただ、思ったことを言ってるだけです」


「――それだ」


 ヴェイルは、言った。


「――それが、いちばん、腹が立つ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。