↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/100

第34話 ガルド爺の忠告

 ガルド爺は、下町の外れで、鍛冶屋をやっている。


 やっている、というのは正確じゃない。もう十年、何も打っていない。


 炉には火が入っておらず、店先には錆びた農具が並んでいて、爺さんは一日中、店の前の椅子に座って、通りを眺めている。


 俺が皿を割るたびに、この人は笑う。


「――百才会戦だと?」


 俺が話すと、爺さんは、椅子から身を起こした。


 初めて、この人の背中がまっすぐになるのを見た。


「本当か、坊主」


「本当です」


「――誰から聞いた」


「白い人が来ました。顔の見えない」


 ガルド爺の顔から、血の気が引いた。


「……使者か」


   ◇


 爺さんは、店の奥に入って、しばらく戻ってこなかった。


 戻ってきた時、手に、酒瓶を持っていた。


 昼間から飲む人じゃない。


「――坊主」


「はい」


「会戦に出た平民は、百年で二人しかおらん」


 爺さんは、椅子に座り直した。


「そのうち、帰ってきたのは、一人だ」


 俺は、フィナと顔を見合わせた。


「……もう一人は」


「帰ってこなんだ」


 爺さんは、酒を一口飲んだ。


「才牌を取られて、才能なしになって、それでも生きて帰ったのが一人。……もう一人は、記録がない」


「――死んだんですか」


「わからん」


 爺さんは、そう言った。


「わからんのだ。……名前も、顔も、誰も覚えとらん」


   ◇


 フィナが、身を乗り出した。


「――ガルドさん。なぜ、そんなに詳しいんですか」


「昔、調べたことがある」


「なぜ」


「――理由は言わん」


 爺さんは、あっさり断った。


「言わんが、一つだけ教えてやる」


 彼は、俺を見た。


「会戦の候補百人はな、坊主。全員が、才能で選ばれとるわけじゃない」


「――え?」


「席次を見ろ。お前は百番だ。八十七番のヴェイルは、九戦九勝だそうだな」


「はい」


「――九戦九勝で、八十七番だぞ」


   ◇


 俺は、その意味を、飲み込むのに時間がかかった。


「……上の連中は」


「化け物だ」


 爺さんは、あっさり言った。


「一桁台は、たぶん、国が動く。三番手あたりで、軍がまるごと相手にならん。……そういう連中の集まりだ」


 彼は、酒瓶を置いた。


「そこに、才牌一枚の下町の小僧が放り込まれる」


「――なんでですか」


「知らん」


 爺さんは、首を振った。


「ただ、百年に一度、必ず一人か二人、そういうのが混じっとる」


 彼は、俺を見た。


「――お前みたいなのが、な」


   ◇


 俺は、しばらく黙っていた。


「――ガルドさん」


「なんだ」


「俺、勝てますか」


「勝てんな」


 即答だった。


「――即答」


「即答だ」


 爺さんは、鼻を鳴らした。


「才牌一枚で、九戦九勝に勝つ方法は、俺は知らん」


 彼は、酒を飲み干した。


「――だが」


 彼は、立ち上がった。


 店の奥に入って、また戻ってきた。


 手に、木の棒を持っていた。剣の形をした、ただの棒だ。


「勝てんことと、負けることは、別だ」


 彼は、その棒を、俺に投げた。


「――鍛えてやる」


   ◇


「え」


「聞こえんかったか」


「いや、聞こえましたけど」


 俺は、棒を持ったまま、固まった。


「――ガルドさん、鍛冶屋ですよね」


「そうだ」


「剣、教えられるんですか」


「教えられん」


「教えられないんですか!?」


「剣は教えられん」


 爺さんは、椅子に座った。


「――俺が教えるのは、立ち方だ」


   ◇


「立ち方」


「そうだ」


 彼は、俺を指した。


「坊主。お前の才能は、倒れても続けられることだろう」


「はい」


「なら、大事なのは、倒れんことじゃない」


 彼は、指を一本立てた。


「――倒れてから、何秒で立てるかだ」


 俺は、その言葉を、頭の中で繰り返した。


「今のお前は、五秒かかる」


 爺さんは、言った。


「二秒にしろ。……三秒縮めば、九戦九勝相手でも、殴れる回数が三倍になる」


   ◇


 フィナが、猛烈な勢いでペンを走らせていた。


「――ガルドさん、それ、仕様書に書いていいですか」


「好きにしろ」


「立ち上がり時間の短縮……回転数の増加……」


 彼女は、ぶつぶつ言いながら書いていた。


「――ロイさん」


「はい」


「これ、勝ち筋です」


 彼女は、顔を上げた。


 目が、光っていた。


「ヴェイルは、九戦九勝です。全部、相手の失血による戦闘不能」


 彼女は、紙束を掲げた。


「――つまり、あの人は、相手を倒しきったことが一度もないんです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。