↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/100

第28話 三日後の下町

 三日、寝込んだ。


 起きたら、街が変わっていた。


   ◇


 まず、賭け元が潰れていた。


 王子の勝ちに王都中の銅貨が積まれていたのだから、当然といえば当然だ。唯一の的中者であるフィナに金貨五枚を払った時点で、あの店の金庫は空になったらしい。


「潰れちゃいました」


 フィナは、金貨五枚を布に包んで持ってきて、そう言った。


「これ、たぶん、王都で一番後味の悪い金貨です」


「じゃあ、半分ください」


「え」


「半分あれば後味も半分です」


「そういう計算じゃないです!」


 結局、その金貨は、三枚が東門の花売りの婆ちゃんの新しい荷車になり、一枚が孤児院の屋根の修理になり、残りの一枚で、俺とフィナはマーサおばさんの食堂で、いちばん高い肉を食べた。


 肉は、うまかった。


 皿は、割らなかった。


   ◇


 次に、朝稽古が変わっていた。


 自警団の広場に行くと、俺の列だけ、妙に人が並んでいた。


「……ドズさん。これ、なんですか」


「知らん。勝手に集まってきやがった」


 ドズさんは苦い顔で言った。


「お前の『転び方』を習いたいんだと。……俺の剣術指南より人気があるんだが、これは何かの間違いだと思わんか」


「思います」


 その日、俺の剣は八回飛んだ。


 誰も笑わなかった。かわりに、剣を拾いに行く人間が七人増えた。


 やりにくかった。


   ◇


 ピノは、あれから、何かにつけて「もう一回」と言うようになった。


 パンを落としても、もう一回。喧嘩に負けても、もう一回。字を間違えても、もう一回。


 孤児院の院長先生に「うるさい」と怒られていた。


 俺のせいだった。


「ロイ兄、これ、いつまで言えばいいの?」


「そうだな……」


 俺は、しばらく考えて答えた。


「うまくいくまで」


「いつまで?」


「うまくいくまで」


「そればっかじゃん!」


 ピノは笑った。


 俺も笑った。


 笑ったら、肋骨がまだ痛かった。


   ◇


 そして、噂は、街を出た。


 三日目には隣町に届き、五日目には街道の宿場町に届き、七日目には、国境を越えたという話が入ってきた。


『三十七の王子を破った、才牌一枚の少年』


『才能を、喰う才能』


 後者の噂の広まり方が、異常に速かった。


 誰が言い出したのかもわからない。俺が【値切り】を喰わせたのを見ていたのは、広場の連中だけのはずだ。


 でも、噂は、走った。


 まるで――待っていた誰かがいたみたいに。


   ◇


「爺さん」


 俺は、ガルド爺の雑貨屋のカウンターに座って、聞いた。


「才能が才能を喰うって、聞いたことありますか」


 爺さんは、煙管をふかしていた。


 しばらく、答えなかった。


「……あるぞ」


「あるんですか!?」


「昔話でな」


 爺さんは、煙を吐いた。


「才牌の文字ってのはな、坊主。全部『名前』だ。【火焔】は火の名前、【剣聖】は剣の名前。名前ってのは、世界に対する言い張りだ。『これはこうである』という宣言だな」


「はい」


「で、ごく稀に、名前が強すぎる牌が生まれる。他の名前を、名前ごと飲み込んじまうくらいに強い名前がな」


 爺さんは、俺の胸元を、煙管の先で指した。


「そういうのを、昔は『概念』と呼んだ」


「がいねん」


「意味はわからんでいい。覚えとけ。……そんで、そういう牌が出ると、必ず、拾いに来る奴らがいる」


「……拾いに?」


「そうだ」


 爺さんは、煙管を灰皿に打ちつけた。


 こん、と乾いた音がした。


「坊主。ここ数日、街に見ない顔が増えとる。気づいとるか」


   ◇


 気づいていなかった。


 言われて、店の窓から通りを見た。


 ――いた。


 通りの向かいの軒下に、旅装の男が二人。こちらを見ていない。見ていないふりが、あまりに上手すぎた。


 その先の角に、行商人らしき女。荷を広げているのに、一度も客を呼んでいない。


「……いつからです」


「決闘の翌日からだ」


 爺さんは言った。


「坊主。よく聞け。お前は三日前、王子に勝ったんじゃない」


 煙が、天井へ細く上がっていった。


「――見つかったんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。