↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/100

第16話 開幕

 舞台の上は、思ったより広かった。


 石畳を三十歩四方に切り出しただけの、飾りのない台。四隅に審判役の神官が立ち、その外側を、ぐるりと群衆が囲んでいる。見上げれば、屋根という屋根、窓という窓に人がぶら下がっていた。


 王都に、こんなに人がいたのか。


 その全員が、俺が負けるところを見に来ている。


「――下町のロイ! 才牌一枚、【■■■■■】!」


 呼び出しの声が響いた瞬間、広場が笑いに沸いた。


 文字化けの読み上げようがないから、係の神官が「ええと」と口ごもって、結局「一枚」とだけ言った。それがまた受けた。


「――第三王子アルディス殿下! 才牌、三十七!」


 地鳴りのような歓声。


 その中を、白い決闘装束が進んでくる。


   ◇


 近くで見る王子は、思っていたより、若かった。


 十七歳。俺の二つ上。背は俺より頭半分高くて、姿勢がまっすぐで、腰に巻いた才牌の帯が朝日を弾いて、金色に燃えていた。


 顔立ちは、綺麗だった。作り物みたいに。


 その顔が、俺を見て、少しだけ眉を寄せた。


「よく、逃げなかったな」


 最初の一言が、それだった。


「逃げてくれてもよかった。国境まで見逃す手筈は整えてあった」


「……え」


「無才を潰しても、余の格は上がらん。逃げた者を追い散らした方が、絵になる」


 王子は淡々と言った。嘘をついている顔ではなかった。


「なぜ、来た」


 俺は、少し考えて、正直に答えた。


「拾い終わったので」


 王子の目が、す、と細くなった。


「あの日、荷を拾い終わったら退きますって、言いました。拾い終わったので、退いて、それで――届け出があったので、来ました。順番通りです」


「……順番」


「はい」


 王子は、しばらく俺を見ていた。


 それから、笑った。愉快そうにではなく、何か、ひどく苦いものを飲み込むみたいに。


「余は、貴様のような者が、一番嫌いだ」


   ◇


 審判の神官が、規定を読み上げた。


 一、決闘は、審判が続行不能と判断するまで続く。

 二、勝者は、敗者の才牌より一枚を、その場で譲り受ける。

 三、命を奪うことは禁じられる。


 三つ目のところで、群衆がまた沸いた。「殿下、手加減してやってくれー!」と誰かが叫んで、大笑いが起きた。


 俺は、観客席の方をちらりと見た。


 最前列の柵に、フィナがしがみつくようにして立っていた。解析の束を胸に抱えたままだ。目が合うと、彼女は口だけを動かした。


 ――た・お・れ・な・い・で・ま・つ。


 俺は頷いた。


 その隣の隣、人垣の隙間に、ピノの頭が見えた。マーサおばさんの大きな肩と、ドズさんの制服も。そのさらに後ろ、屋根の上に、煙管の煙が一筋、細く上がっていた。


 ……ああ、来てるのか。爺さん。


 なんだか、少しだけ、息がしやすくなった。


「両者、構え」


   ◇


 俺は、拳を握った。


 剣は持ってこなかった。持っても飛ぶからだ。ガルド爺に「持っていくか」と聞かれて、「いえ、二本目を拾いに行く時間がもったいないので」と答えたら、爺さんは腹を抱えて笑っていた。


 だから、俺の装備は拳一つと、擦り切れた服と、十五年ぶんの転び方だ。


 王子は、構えなかった。


 両手を下ろしたまま、まっすぐ立っている。腰の帯の才牌のうち、二枚が、うっすらと熱を持ったのがわかった。


 ――【危険感知】と【心身剛健】。常時点灯の二枚。フィナの解析通りだ。


 合ってる。俺たちの読みは、合ってる。


「始め!」


   ◇


 視界が、消えた。


 何が起きたのかは、わからなかった。


 わかったのは、背中に石畳の感触があって、口の中が鉄の味で、耳が鳴っていて、広場がわあっと沸いている、ということだけだった。


 ――【俊足】と【剛力】。


 たぶん、そうだ。踏み込まれて、殴られた。それだけのことが、俺の目には一度も映らなかった。


 舞台の端まで転がっていた。三十歩ぶんを、体一つで飛んだらしい。


「一撃だ! 終わりだぞ!」


「早すぎだろ、賭けにもならねえ!」


 ……ああ。


 なるほど。


 これが、三十七か。


 俺は、石畳に手をついた。


 ガルド爺の声が、頭の中で鳴った。――立つってのはな、元の場所に戻ることじゃねえ。前に出ることだ。


 斜めに、半歩前へ。


 俺は、立ち上がった。


 広場の笑い声が、少しだけ、小さくなった。


「……もう一回」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。