↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/100

第11話 同時に三つ

 決闘まで、あと六日。


 仮説の裏取りは、地味で、細かくて、途方もない作業だった。


「披露式典の新聞記事、十四本。観客の目撃談の載った瓦版、二十二枚。全部に出てくる才能の名前と、『同時に起きていた現象』を突き合わせます」


「了解です、参謀」


 たとえば、三年前の建国祭。王子が【火焔】で空に火の花を描いた記事。その同じ瞬間、王子は【俊足】の演武をしていたか? していない。火の花の「前」に走り、止まってから、火を出している。


 たとえば、御前試合の二回目。【火焔】と【氷結】を「同時に」使ったように書かれた名場面。だが目撃談を細かく並べると、炎と氷の間には、必ず一拍の間がある。同時じゃない。高速の切り替えだ。


「……ほら。ここも。【鉄壁】で防いだ瞬間は、【雷鳴】が消えてる。撃ち合いながら守った場面が、一つもない」


「守るときは守る、撃つときは撃つ、走るときは走る……」


「そして常時つけっぱなしらしいのが【危険感知】と【心身剛健】。この二つはたぶん枠を食ってます。だから実際に切り替えて使える『動く枠』は――」


 フィナは指を折った。


「実質、一つか二つ。多く見積もっても、合計三つ。仮説、裏が取れました」


 板の上の『仮説』の文字が消され、『確定』と書き直された。


 俺は思わず、拳を握った。


「すごい……! すごいですよ参謀! 三十七が三つだ!」


「ふっふっふ。もっと褒めていいですよ」


「王都一です! 雨漏りどころか大発見じゃないですか!」


「えへへ……いや待って、調子に乗るところでした。ロイさん、冷静に聞いてください」


 フィナはチョークを置いて、真顔に戻った。


「三つでも、無理なんです」


「……ですよね」


「【剣聖】一つで、近衛騎士団の剣術指南が子ども扱いされました。【火焔】一つで、石壁が溶けた記録があります。三十七が三つになっても、ゼロ対三です。ゼロは何回足してもゼロです」


 その通りだった。穴を見つけた高揚が、すっと冷える。


 でも、不思議と、絶望はしなかった。だって、昨日までは「ゼロ対三十七」だったんだ。一日で三十四も減った。この調子で毎日探せば――いや、そういう計算じゃないのはわかってるけど、それでも。


「……もう一回、記録を読み直しましょう。三つの『中身』が崩せないなら、次は三つの『継ぎ目』です」


「継ぎ目?」


「切り替えです。才能を入れ替える瞬間。決まり事Aを引っ込めて、決まり事Bを言い張り直す瞬間。そこって、どうなってるんですか?」


 フィナは目を見開いた。


「……盲点でした。鑑定士は『何の才能か』ばかり視るので、『切り替わる瞬間』の記録なんて……いえ、待って。あるかも。観客の目撃談なら、素人目線だから、かえって変なことが書いてあるかも」


 俺たちはまた瓦版の山に潜った。


 深夜。蝋燭が二本目に替わった頃、フィナがぽつりと読み上げた。


「『殿下は炎を収められると、御髪を払い、一呼吸ののち氷雪を呼ばれた』……『御髪を払い、一呼吸』」


「こっちのにも似たのがあります。『殿下は一度剣を下げ、優雅に構え直された』……構え直し」


「……切り替えの前に、必ず『何か』を挟んでる」


「癖、ですかね」


「癖か、それとも切り替えに必要な『溜め』か。どっちにしても」


 フィナは板に、三つ目の発見を書いた。


『切り替えの瞬間、王子は素に戻る(要検証)』


「継ぎ目の間、王子様は才能に守られてない。ほんの一瞬でしょうけど、確実に、ただの十七歳になる瞬間がある。……問題は、その一瞬に何ができるかですけど」


 フィナはちらりと俺を見た。


「ロイさん、一瞬で人を倒す技とか」


「ないです」


「即答」


「でも」


 俺は、壁の三十七枚を見ながら言った。


「一瞬をずっと待ち続けるのなら、できます。何百回打たれても、その間、立ってることなら。……それだけは、多分、王都の誰よりも」


 フィナはしばらく俺を見て、それから、ふっと笑った。


「じゃあ、作戦の骨子はこうです。――『倒れないで、待つ』。単純明快、実行不能って言われそうな作戦ですけど」


「いえ」


 俺は首を振った。


「俺の十五年、まるごとそれです。得意分野です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。