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16 指名手配の神官戦士

 とりあえず食事をしようという話になる。道中でフォスさんの持っていた硬いビスケットのような携帯食を食べはしたが、それだけで足りるはずもなくもうすでに空腹で辛かった。


 大通りを歩いて‘‘そういう‘‘商売と紐づいていなさそうな食堂を探してみるが一向に見つけられない。


 それにしても皆カラフルな頭しているな。こっちの赤毛はまんまリンゴ色で向こうの人はオーロラみたいな髪をしてる!

 

 コンロ村でも住民の髪は色とりどりだったが頭巾をしていたりくすんでいたり、何より俺がそれどころではなくて気にしていられなかった。

 しかしこの町では艶やかな長髪に輝く装飾品を挿した女性たちで溢れていた。

 

 どこを見ても造りが同じような銀灰色の宿が並ぶ街並みは町というよりも砦のようだがその雰囲気は華やいでいる。浮かれた男たちとそれを誘う女たち。嗅いだことのない料理の匂いが漂ってきて異世界にいるんだなと強く実感させられた。


 奥に進むにつれ一階が開け放たれた酒場になっている宿が減り始めた。人足も減ってきて賑わいが薄れる。


「ルラ様、あそこの店に寄りましょう」


 フォスさんが薄暗い路地を指さしながら言ってきた。よく見るとそこには露店が開かれており、宝飾品や服が売られている。


「その服は目立ちます。物取りにあいかねません」


「わかった」


 正直空腹がピークに達していたので早く何かを食べたかったが、道行く人々の視線を感じていたのも事実。揉め事が起こらないに越したことはないのだ。


 大通りを外れて路地に入る。宿屋の陰に入ると奥までずらりと露店が開かれていた。

 露店といっても粗末な店は一つもなく売られている品も皆、造りがしっかりといている物ばかりだった。


 陰に入ると外の喧騒とも隔絶されたように感じられ、大げさだが別の世界に迷い込んだような感じがした。


 というかどの店も店主が強面過ぎる。俺たちが入った服屋の店主など顔に深い傷が三本も走っていた。目つきも到底かたぎだとは思えない。


「手早く選んでしまいましょう。ここは闇市のようです」


 フォスさんがひそめた声で言ってきた。異世界にも闇市ってあるんだなと思う。


「じゃあこれにする」


 俺は適当に目についた黒い上下に分かれた服を手にする。首元に金の刺繍が入っているだけでシンプルなデザインだ。今着ているものと違って着やすそうなのもいい。


「それはいけません。こちらにしましょう」


 フォスさんに却下されてしまいクリーム色のだるだる衣装を手渡される。多くの人が着ているあの哲学者チックな服だ。


「下は、まあそのままでもいいでしょう。どうせ隠れます。あと上の着替えをもう一着と外套もあるといい」


 同じような服をフォスさんに選ばれてしまい手渡される。まあ服にこだわりはないのでいいけれども。黒い服ばかり着るような男だからいいけれども。


 彼女も自分に服を買う気のようで男物ばかりを物色している。


「なんであっちじゃダメなんだ?」


「あれは島外の民族のものです。無用な荒事を招きます」


 だんだんとこの島の排他的な性質が明るみになっていく。


 フォスさんは最終的に青いだるだるの服とフード付きの外套を選んだ。もちろん男物である。女性ものはもっと裾がゆったりしている。


「うちじゃ金貨は使えないよ」


 俺が自分の支払いを不愛想な店主にビビりつつ済ませた後、店主はフォスさんの差し出した金貨を見てそう言った。それは俺が道案内の報酬としてフォスさんに前払いしていた金貨だった。


「これしか持ち合わせがない。どうにかならないか?」


 衝撃の一言だった。この人ずっと無一文だったのか。どうりで村長にあそこまで圧をかけていたわけである。あれは切迫した一文無しの微笑みだったのだ。


「ならないね。俺みたいなのが金貨なんざ持っていた日にはそれだけで衛兵に怪しまれる。そうでなくとも釣りがない」


 仕方がないのでここは一旦俺が払うと言おうとしたとき、店主がフォスさんの手を指さして言った。


「その指輪となら交換してもいい。もちろん釣りは返す。大銀貨五枚だ」


 指輪とはフォスさんが唯一身につけている宝飾品の黄金の指輪だ。それは今も彼女の指の上で赤みを帯びた輝きを放っている。

 フォスさんはそれを店主の視線から隠すように反対の手でおさえた。


「これは売れるものではない」


「知ってるよ、その輝きオリハルコンだろ?いいじゃないか無くしたってことにして新しいのを神殿で買いな。銀貨五枚でちょうど同じような物が買えるだろう」


「許可証のない者に売ることはできない。無くしただけでも罰を受けることになる。聞けない相談だ」


 フォスさんは店主の睨みに怯まず毅然と言い返した。


 俺の発した「あの、俺が払うから」という言葉は店主によってたやすく無視されてしまう。


「大銀貨六枚」


「無理なものは無理だ。ルラ様、申し訳ありません」


 フォスさんは揺るがない。俺がお釣りで得た銅貨を店主に差し出すがまたも無視。


「大銀貨七枚」


「……しつこい」


 揺らぎ始めたな。


「わかった、大銀貨八枚だ。これ以上はない!」


「~~っ、売らないと言っている!」


 えらいぞフォスさん、てっきり売るのかと思ったわ。


 フォスさんは俺が店主に差し出していた大銅貨二枚をひったくると横の台に叩きつけ店を後にする。その肩は弱冠震えていた。


 露店を出てこれでやっと食事ができると飢えた腹おさえたとき、「ちょっと待ちな」と声をかけられた。

 それは今服を買った店の隣で動物の牙やらの毛皮やらを売っている露店の男だった。骨ばった顔に眼帯をしていてこちらもガラが悪い。


「あんた、それは本当に自分の指輪なのかい?」


 男は自分の店から出てきて俺たちの前に立ちふさがる。完全に因縁をつけに来ていた。


「そうに決まってるだろう」


 フォスさんがどす聞いた声で応戦した。

 なんだか彼女はこの場の雰囲気になじんでいっている気がする。


「の、割には売るか迷っていたよな?高潔な神官様が金で金属器を売ろうとするなんておかしいだろ」


 金属器。神官が神聖術を使う時、自然の魔力を操るための媒介として必要な金属。神聖な金属であるオリハルコンでできている。

 

「おいやめろニュロス。客を強請るのはここのルール違反だ。コレギウムに始末されるぞ」


 コレギウムとは同職団体のこと。つまりはギルドだ。

 

 服屋の店主にいさめられてもエスニック店主は引かなかった。むしろ予想外の獲物を見つけた獣のような目でフォスさんを見る。


「いいや、俺はそのコレギウムの奴から聞いたんだ。神殿が狩りを依頼してきたってな。獲物の特徴は青緑の髪に青い目、そして彫像のような顔と体」


 服屋の店主が沈黙する。


「名前はクリオ・リムニ。冒涜者の神官戦士に賭けられた賞金は金貨五枚だ。あんた名前は?」


 フォスさんは答えなかった。無言で剣の柄に手をかける。と、同時にエスニック店主が叫んだ。


「おめぇら手伝え、賞金は山分けだ!」


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