第九十五審 『シーカ』
失踪です。
超重要回。しっかり読んでください。
「御明答。僕の本名は『粼 シド』、君の知るイザナギは、この領土の領主だった訳さ」
頭の中に残った疑問が頭の中で渦巻く中、僕は絞り出すように彼に問いかける。
「なら、お前の計画は……?」
「その様子だと、君、何も知らないだろう。どうせここで終わるんだ、聞かせてあげるよ」
体をこちらに向けると、雲間から微かに漏れ出る光が彼を後ろから照らした。
「ここに辿り着いた、という事は、恐らく『あいつ』が一枚噛んでるんだろう。現在時刻からして、君らが思うタイムリミットまでは、まだ数時間あるように見えるね。何せ、『落陽の刻』と呼ばれるあの刻が訪れるのは、日付変更後の曙。そう考えるのも当然だけど、事態はそう簡単でも、単純でもない。だから僕が今ここに居るんだ」
その場を動かず、ただ語り続ける彼を一点に見つめる僕は、最早衝撃で動けなくなってしまっていた。
「君たちを頼っていた僕の弟が持っていた情報は古かったんだ。あいつがこの地を離れてから、『落陽の刻』が訪れるとされていた時間に、少しずつズレが生じ始めた。それは数秒間、数分間、と。ゆっくりだけど、確実に元の予定時刻から『早まって』いった。積み重なった時間のズレより、今となっては『落陽の刻』は予定より数時間早く訪れることが確定してしまっている。……もう、時間が無いんだ」
「『落陽の刻』……?」
「……」
一度俯いてから、雲に覆われた空から溢れるように漏れ出ている明かりを、振り返って再度眺め始める。
「僕ら粼の一族は、代々受け継ぎ続けているものがあるんだ。決して良いものなんかじゃないけどね。異能力というものが発達し始めてから、この領土、即ち僕の一族は、この星の天文学の発展に多大な貢献をしてきた。宇宙空間の謎を次々と追求していく中、ある時、とあるものを研究対象に絞り込んだ」
僕も彼につられて、ドーム状の天窓から空を眺め始める。
「……『太陽』。当時からずっと、そう呼ばれていたかな。今や観光名所となってしまったこの建物で、先代の領主やその周辺人物達はそれに関する研究に取り組んでいた。この領土は天文学の発展に長い間協力してきて、その上で、異能力発祥の地であるこの島国ならではの、ここにしかないような特殊な設備が揃っている。それこそ異能力がないと実現できないような代物がね。順調に研究を進めていたある時、事件が起きたんだ」
話終わる前に彼は歩き始め、近くにあった一際大きな機械に手を触れ、少し摩ってみせた。
「当時、データの分析のために太陽に照準を合わせていた照射機が暴走。制御不能となった照射機は一部の機能を誤作動させ、太陽の『核』となる部分を破壊してしまった。それにより、太陽は崩壊。人類は光を失ったのさ。僕と血縁関係にある当代領主は、全ての責任を負って事態の改善を図った。その方法というのが、『自らの命を代償に、新たな太陽を作り出す』こと。しかし、命という極めて重い代価を払ったが、望みを実現するには更なる条件が要求された」
僕は彼から視線を外し、何度目か、空を見上げた。
差し込んでいた光は、何故か少しずつ強くなっているように感じたのだ。
「『周期的に太陽が落下してくる』こと。これがその条件。周期的と言っても、詳細な情報は分からない。大まかな周期を把握出来たとしても、何らかの要因でズレが生じることもあるし、それも信用に値しない。でも、その刻が近づいてくるにつれて、気配を感じ取れるようになってくるんだよね。だがら、いつか訪れる『落陽の刻』に備えて策を練らないといけない」
彼のサングラスが、雲間から差し込む光を反射して真っ白に染る。
「片時も、僕は鍛錬を怠ったことは無かった。これまで『結界術』を磨いてきたのは、今、この時のためさ。領土全体を覆うように展開された結界は、降ってくる太陽を受け止めるためのもの。だけど、成功する確証はないんだ。流石に、落ちてくる太陽を受け止めたことなんて無いからね。申し訳ないけど、君の命も保証できない。まぁ、この領土にいる全ての人間に言えたことだけど」
そこまで言ったと同時に、差し込んでいた光が一気に赤みを帯び、まるで夕日に照らされているかのような風景を作り出す。
「僕の行く手を阻むのなら、邪魔をするのなら」
イザナギから放たれる異様な雰囲気に、僕は刀を握る力を強める。
「君の最期を、華やかに彩って見せるよ!!捧げよう、死に行く僕らへの『詩歌』を!!」
お楽しみいただけましたか?
第三章、ラスボス戦の開幕です。
では、また次回。




