第九十二審 『徒し事』
失踪です。
詠唱を考えるのも結構難しいんですよ。(n回目)
粒子は軈て杖を取り込み、大ぶりで黒塗りの刃物を模った。
私の前では、取って付けたような小細工など意味をなさないことを認めたようだ。
どれだけ腐っても、私も七聖。そんなものは使うだけ無駄、私もそう考えていた。
だが、私が優位に立ち回れるような間合いに自分から飛び込んでくるのは、いくら普段の戦略が通じづらい私相手と言えど不自然なように思える。何か策があるのかもしれない。
「さぁ、来い」
挑発的かつ嘲笑的にそう告げる彼女に向き直り、地面を踏みしめる足に力を込めた。
直後、彼女の視界に映ったであろう光景は、場面を繋ぎ合わせたかのように目の前に突然現れた、鎌を振りかぶる私の姿。
勢いのままに振るった鎌は、寸前で屈んだ彼女の頭上を通過。そのままの流れで彼女から放たれる斬撃を瞬時に後退して回避すると、逃さんと言わんばかりに詰めてくる。
咄嗟に鎌で防御を行い、接点からは激しく火花が散った。
それを受け流し、隙を見て鎌を薙ぎ払おうとするが、やはり直撃する寸前でピタリと動きを止めてしまう。
先程から、私と物理的な押し合いにならないように立ち回られている気がする。
流石に力比べでは私に勝てないと判断したのだろうか。接近戦に切り替えてきてはいるのだが、絶妙な距離感を保たれているように感じてしまう。
隙を晒した私の顔目掛けて薙がれた刃が頬を深く切り付け、血が飛び散った。
「……!!」
勢いのまま再度動き出そうとするが、鎌が何かに引っかかるような違和感を感じて、反射的に動きを止めてしまう。
力ずくで鎌を引くが、ビクともしない。まるで空中に磔にされてしまったかのようだった。
刹那、目と鼻の先に迫った彼女の気配に勘づいたが、少し気づくのが遅れてしまった。
既に振り上げられた刃物を防御する手段を奪われ、自身の咄嗟の判断に身を任せて反射的にとった私の行動は──────。
刃が肉を裂く音。
飛び散る血液。
激しい痛みに耐える私の、乱れた息遣い。
血みどろになった、刃を握りしめる私の両手。
彼女は表情ひとつ崩さず、ただ私の目を見つめている。
私を斬ろうとする彼女の力は、弱まることなど無く。今まさに刃を受け止めている私の両手からは、血が滴ってきた。
私は、振り下ろされた刃を両手で握るように受け止めた。
痛い。確かに、痛い。
だが私は更に手に力を込め続け、同時に、流れ出る血の量もだんだんと多くなっていく。
「この程度……っ!!」
パキン……と。
握っていたそれが砕け散る音が響く。
同時に私は体を旋回させて、勢いままに彼女に蹴りかかる。
全体重をかけたそれは、腹部に直撃。
流石に想定外だったのかもしれない。防御は間に合わなかったのだろう。
血が流れでる手を握りしめ、地面を転がって倒れた彼女にさらに詰め寄ろうとするが、目の前に生じた違和感に気がつく。
これは、『裂け目』……?
咄嗟に対応しようとするが気づいた時にはもう遅く、刹那、腹部に激しい痛みが迸った。
刃物が私を貫いた感覚と、間もなくして、そこから何かが流れ出る感覚が肌を伝う。
見下ろすと、そこにあった裂け目から飛び出してきた黒塗りの刃が、私の体を貫いていた。
ℵ
振るわれる両者の刀は、いずれも違った輝きを見せていた。
僕の刀からは、普段通り紫色のオーラが溢れんばかりに流れ出ており、目の前のそいつの赤と黒の刀は電気を纏っている。
異能力の特性上、恐らくこれ以上近づいたり、刀が僕に接触したりすると一発アウト……とまでは行かないだろうが、かなりの致命傷を受ける可能性が高い。
だが、それはこいつにも同じことが言える。
僕が打ち出した斬撃、そして刀に直接触れても致命傷になり得るのは変わらない。
まぁそれは、互いに回復能力を持っていなかった場合の話なのだが。
それもあり、僕は放たれる攻撃をできる限り『防御』することにしていた。回避するよりも刀との距離を保つことができるからだ。
「飛べっ……!!」
空間が歪み、刀の軌道が形を成して打ち出され、そいつに向かっていく。
目にも止まらぬ速さで通過して行ったそれは、即座に反応したそいつの首元を切り裂いた。
「『奔極』《ライズ・オブ・ボルテージ》!!」
お楽しみいただけましたか?
最近、時間があるようでないんですよね。
では、また次回。




