第九十一審 『違えた道筋』
失踪です。
課題。(一部の人を刺す言葉)
一気に引き抜き、激しい輝きを放つ刀を勢いのまま振り上げ、振り下ろし、数発の斬撃を打ち出すと同時に三秒が経過。浮かんでいたオーブが消滅する。
唐突に自分の元へ向かってくる斬撃が目の前に現れたそいつは、慌てる様子もなく悠々と柔軟に体を使ってそれらを回避していく。
軈て、進路を変更してこちらへ向かって来ようとするそいつは、声を大にしてそれを唱えた。
「『放雷』《ディス・チャージ》!!」
ℵ
強引に距離を詰めた私から放たれる鎌の一振りが、彼女の鼻先を通過し、靡いた髪の末端を切り落としていく。
戦況は開始時から全く動かず、完全に互角。
……まぁ、手を抜かれている可能性も否定できないのだが。
私自身、他の七聖と比べるとどうしても戦闘力が足りていないと思ってしまうことが多い。
対応できる間合いの問題、判断力の問題など、挙げれば枚挙に遑がない。なんで私なんかが七聖に選ばれたんだろう。
……でも。
そんな私に対して、今目の前にいるのは七聖最強格の一人。
正直、自分から貧乏籤を引きに行ってしまったという自覚はあった。
こんなことをするなんて、私の柄じゃないし。
「『漆獄龍』《イル》、出番だ」
その瞬間、開かれていた裂け目から巨大な黒い龍が凄まじい咆哮と共に、その姿を現した。
私と目が合うや否や、翼をはためかせて一気に距離を詰めてくる。
私は咄嗟に鎌で振るわれた巨大な鉤爪を受け止めながらも、徐々にそれを押し返していった。
「邪魔だよ……!」
一度鎌を振り抜くと、その龍は大きく体勢を崩す。
足元にあったサッカーボール程の大きさのコンクリートのような瓦礫を思い切り蹴り上げると、それは一直線に空を切った。
……いや、正確には放たれる衝撃波で体の大部分を消し飛ばしてしまったため、何にも当たることなくその場を通過して行った、と言う方が正しいだろうか。
そのまま、龍だったものは塵となって消滅。
瞬時に距離を詰め、鎌を大きく振りかぶった。
でも、近接戦は完全に私が優位に立てる……!
立て続けに鎌を振るっていくが、いとも容易く回避されてしまう。
そのうちの一撃が彼女の頬を正確に捉え、軈て振り下ろされる鎌が直撃するかに思われたが、何かに阻まれるように突然動きを止めた。
力を緩めることはなく、私は歯を食い縛る。
「……わからない」
同時に、彼女の背後の空間が引き裂かれ、黒い触手のようなものが飛び出してくる。
咄嗟に後退し、迫り来るそれらを迎撃していくが……。
視界が黒一色に染まってしまう程、凄まじい密度。一撃一撃にそこまで重みはないが、速度共に武器一本で捌き切るのはかなりかなり厳しいと言えるだろう。
もう何度鎌を振るったかわからない。
漸く視界が晴れていくと、先ほどと変わらぬ様子でそこに彼女が佇んでいた。
「わからない。お前の、考えが」
息も切らさず、私はその場で彼女を睨むように見つめる。
「これでも、貴様は、私たちと、根本は『同じ思想』であると言うのに」
杖を数回、地面に叩きつける音が響き渡った。
「なぜ、貴様は私たちと、道を違えるのだ?」
同時に、先ほどと同じような空間の裂け目が、数箇所に追加で展開される。
そこからはまたしても黒い触手が飛び出してくるが、これまでとは違う挙動をとっているように見えた。
「私は、あなたたちとは違う……!!」
そう叫ぶと、集合し、何かを模っていく黒い塊に向かって駆け出す。
軈て、その姿は巨大な手の形を成していった。
駆け寄る私に掴みかかろうとするそれに飛びかかって容易く蹴破り、再び彼女との距離を詰めていく。
瞬時に薙ぎ払うように鎌を振るうが、一歩後退した彼女は裂け目の中に身を投げ、少し離れた場所に姿を現した。
「無駄、か……」
ため息混じりにそんなことを言う彼女は、杖を握り直して構えを取る。
「回りくどいことを、する必要は、無いな」
固く握られた手元……杖の元に、裂け目から流れ出てきた黒い粒子のようなものが集まっていき、それを覆っていく。
「私が、この手で、貴様の首を……貰い受けよう」
お楽しみいただけましたか?
最近は朝も暑いですね。
では、また次回。




