第九審 『より良い明日』
失踪です。
危うく更新し忘れるところでした。
「……ん?待て、今Better Tomorrowって言ったか?」
「うん、言った。私はそこのメンバーだし」
「なんだよ……それならそうと言ってくれ。だがどちらにしろ僕はお前のことは知らないがな」
「まぁ、私が一方的に知ってるだけだからね。君、初任務で妖者数十人とAランクの妖者を片付けたんだって?私たちの行動隊の中で噂されてたよ」
「そんなに凄いことなのか……?今までランクなんて気にしたことが無かったからいまいちよく分かっていないんだが」
「かなりの戦闘経験がないと難しいと思うよ。君のランクは甘く見積ってもAランクの中の上くらいかな?」
「……なら、お前のランクは幾つなんだ」
「私?私はAランクだよ。あの組織にいる人たちの八割くらいはAランクを超えてると思う。でも、ルナだけは謎なんだよね。戦ってるところをあんまり見る機会が無いし。任務には出たりすることはあるっぽいんだけど、どういう異能力なのかも全くわかんない。あの組織のリーダー的存在だし、相当な実力を持っててもおかしくは無いと思うんだけどね」
確かに、ルナに関しては出会った時から謎が多い。
独特な雰囲気。特に気になるのがその気配だ。
そこにいるのは彼女一人であるはずなのに、複数の気配を感じ取ることがある。
「そういえば、君記憶喪失なんでしょ?自分の異能力も覚えてないなんて不便じゃない?」
「それが案外そうでも無い。戦い方が体に染み付いてるからか、戦闘において不都合を感じることはあまり無いんだ。無意識下で異能力を使ってるのかもしれないが」
「そういう感じなんだ……。話変わるけど、君、これから予定は?」
「いや、特にないな。もう帰ろうかと思っていたくらいだ」
「なら一緒に帰ろっか。私もちょうど帰るところだったんだよね」
そう言って立ち上がり、歩き出す彼女に手招きされ、後を追うように帰路に着いた。
歩きながら、隣で彼女は再び話し始める。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私の名前は『炬 フレア』。行動隊βのメンバーで、アクトチーム所属、よろしくね。君のことはよく耳にするから知ってるよ。アクトチーム所属のまだ結成したばっかりの行動隊γのメンバー。名前はハルサだね」
「あぁ、正解だ。別の行動隊の人間と会うのは初めてだな」
「ホタルとは仲良くしてる?あの子も入ってきたばっかりだし。それに、元気で可愛いもんなぁ、あの子。思わせぶりな態度に、君はもうとっくに心を奪われちゃってたりして……なんてね」
だるいなこいつ。
心の中でつい本音が漏れてしまうが、口には出さないように押さえ込んだ。
歩きながらそんな話をしていた時、僕は唐突に目の前に現れたそれにぶつかってしまった。
反射的に顔を上げると、そこには……。
「おや、申し訳ありません。私としたことが、気を取られてしまっていたみたいです。しかし、君は─────」
言いかけていたところに、フレアは僕らの間に割って入った。
「ごめんなさい、私たちの不注意ね。次からはちゃんと前を見て歩くことにするわ。それとも、私たちに何か用でもあるの?」
「いえ、別になんでもありませんよ。では、私は失礼しますね。お邪魔してしまい申し訳ありません」
そう言って男は去っていく。
不気味なやつだったな……。そう感じると同時に、あいつからはどこかで感じた雰囲気と似たものを感じた。
「なんでわざわざ間に入ってきたんだ。あの程度、一人で何とかなっただろう」
「……いや、なんとなく危機察知能力が働いて。あの男、少し嫌な感じがしたんだよね。気づいたら体が動いちゃってた」
……まぁ、なんとなく言いたいことは分かる。
そんな会話をしながら、僕らは再び帰路を辿り始めるが、僕はそこでとあることを思い出した。
あいつから感じた気配……。あれは森で鉢合わせた、パラサイトと名乗った男から感じたものと似ている、強者たる威圧感だった。
ℵ
「あっ、ハルサ。おかえり」
「あぁ、ただいま」
拠点に戻り、休憩所に立ち寄った僕はそう声をかけられるが、それより他に気になる人物が視界に映っていた。
その人物はエナと話していたようだったが、僕に気がつくと立ち上がって近寄ってくる。
「君が噂のハルサだね。私は『漣 エレオ』。行動隊βのアクトチーム所属。よろしく」
そいつがそう言ったかと思えば、唐突に僕の後ろに回り込んで括っていた髪を触ってくる。
「綺麗な髪……。どうやって手入れしてるの?」
「いや少し前までスラムにいたしな……。風呂に入らない日なんてザラにあったし、別に何も手入れなんてしてないが」
「えぇ嘘?!そんなはずは……」
「エレオはいつもそんな感じだから、気にしないであげて」
怪訝そうに僕の背後でボソボソ喋っているそいつを横目に、ホタルは苦笑いを浮かべていた。
そんな時、その後ろから顔を覗かせるエナの姿に気がつく。
「どうした、エナ。人見知りか?」
「ち、ちがうもん……!」
「え!何この子!こんな可愛い子うちにいたっけ?」
少し遅れて部屋に入ってきたフレアは、エナの姿を見るなりそいつの元に駆け寄り、屈んで目線を合わせた。
「この子はホタルとハルサの行動隊の子?」
「そうだな。組織に加入したのもつい先日だ。うちの行動隊で引き抜くことになっている」
「この子、部屋はどうしてるの?一人じゃ流石に不安じゃない?」
「それに関しては大丈夫だ。こいつは自分の家に居たいらしい。一人で家にいるわけでもないらしいし、心配ないだろう」
エナに視線を奪われているそいつは、僕のその言葉など既に聞いていなさそうだった。
……これ、僕場違いじゃないか?この組織の男女比率はかなり偏っていそうな気がしてきたのだが。
そう考えていた時、唐突に通信機から声が響いた。
それは周囲の彼女らも同じだったらしく、その場には一瞬にして静寂が訪れる。
「緊急連絡。急を要する任務が舞い込んで来た。今拠点にいる人だけでいいから、すぐに会議室に集まって欲しい」
短くそう告げると通信は途絶え、一同会議室へ向かう準備をし始める。
いち早く立ち上がり、入口前で足を止めたエレオは、こちらを確認しながら扉を開けた。
「行こうか。急ぐよ」
お楽しみいただけましたか?
物語の節目です。βのキャラも出てきて、女性に囲まれるハルサは苦労しているように見えますね。
では、次は第十審でお会いしましょう。




