第八十九審 『寒暖差』
失踪です。
おはようございます。(現在時刻 朝五時)か
各所に付着していた血液が一気に発火する。もちろん、私が被ったものも例外ではない。
あまりの熱さで反射的に顔に付着していたそれを払い、火の手が上がる衣服を鎮火する。
尚、燃え盛る火の中に立ち、地面に放り出されていた自身の腕を、糸のように伸びた血液で引き寄せ、もとあった部位に接続した。
慣れた手つきで動作を確認し、再度ナイフを握りしめるその様子にすら、私は狂気を覚えてしまう。何度もこれを経験していると、語っているようにすら見えた。
普通に考えれば、欠損した部位を接続するだけで再度動作するようになるのはおかしい。
そのため、体を再生するための異能力も持ち合わせていると仮定するのが妥当だ。
ただ、一般的に言えば、欠損した部位を再生するのは極めて難しい。
しかし、自身の血を操る異能力と組み合わせて再生を試みているのなら、難易度はそれなりに下がるのかもしれない。
「お兄さん、強いね」
「……お互い様です」
杖を振るって追撃を用意しながらその言葉に答えた。
放った術を回避しながらこちらに向かってくる彼女と一定の距離を保とうとしながら、氷塊を打ち出し続けるが、徐々に詰められているのが感覚でわかる。
予想は出来ていたことだが、機動力ではさすがに勝てそうにない。
それに、彼女の異能力はかなり持久力が高く、燃費もかなり良さそうに見えるため、消耗線に持ち込んでも恐らく勝つことは不可能だろう。
だが、私の負け筋もかなり細く、妖力切れか行動不可能レベルの損傷を負うかの二択。お互いに、一気に勝ち切るのは難しい。
とは言え、勝利条件もかなり厳しい。
損傷を与えて戦意を削ぐのは、この様子を見る限りまず不可能。
有力な策としては、頭部などの部位を質量で叩き潰して再生不可能にする。もしくは……。
「燃えろ!!」
「『裁冰』《アイシクル・ジャッジ》!!」
叫び声が反響すると共に、動きの度に滴らせていた血液がそこら中で発火する。
後を追うようにこちらに飛び散ってきた血液を、吹雪の風向きを操って軌道を捻じ曲げた。
杖を振るった隙を見計らったかのように瞬時に距離を詰めてきて、こちらに向かってくるナイフを、杖でなんとか受け止め、対応していく。
その一瞬、顔を貫こうと迫ってきたナイフに咄嗟に杖を添え、僅かに軌道を逸らした。
「『連生水星』《ブリザード・オブ・マーキュリー》……!」
こちらに伸ばしてきた彼女の腕は、一瞬にして地面から生成された氷柱に飲み込まれ、自由を奪われる。
それで時間を稼ぎ、一旦距離を取ることに成功した。
数秒もしないうちにそれを破り、またしてもこちらに距離を詰めてこようとする彼女の姿を見て、私はそれを見計らっていたかのように杖を片手に持ち替え、拳を握りしめて大きく振りかぶる。
それが放たれるまでにの一瞬のうちに、構えていた手の周りには巻き上がった氷の欠片が集まっていき、軈てそれを完全に覆い隠した。
迫ってくる彼女の顔に狙いを定め、全体重をかけて思い切り拳を振るう。
直撃。
目にも止まらぬ速度で弾き飛ばされた彼女が地面を転がるのを確認すると同時に、私は依然として発動状態にある『裁冰』《アイシクル・ジャッジ》の出力上昇に全神経を注ぎ込んだ。
既に血塗れの彼女の体からは瞬く間に体温が奪い取られ、勢いを殺すために屈んだ体勢のまま、体の各所、片腕の大部分が凍てついた。
「……不用意に動いたら、体が割れますよ」
息を切らしながらそう告げる私に返ってきたのは、荒くなった彼女の息遣いだけ。流石に堪えているのだろう。
彼女の再生を阻害するために私が導き出した回答としては、欠損した部位が粉々になってしまえばいいのではないかと言うもの。
患部と接続する箇所が消失してしまえば、条件を満たさなくなるのではないかと踏んだのだ。
杖を擡げたまま、片手を覆っていた氷は頽落する。
「この程度で、私を止めたと……思っているの……?」
お楽しみいただけましたか?
スカーことスカーレッドは、作者的には実は盛りすぎた側です。
では、また次回。




