第八十八審 『Riot!!』
失踪です。
夏終わりました?
僕らはあの後も、波が打ちつける波止場を進み、軈てドーム状の天窓が特徴的な建物が前方に現れる。
「見えるかな?あれが目的地。時間的には後五時間くらい余裕があるけど、オルタはもう到着してるかもね」
そのファントムの言葉を聞き流しながら、僕は雲で覆われている空を見上げていた。
今日、オルタの家を出てからは欠片も天候は変わっておらず、寧ろ酷くなっているはずなのだが、空にどこか違和感がある。
……いや、明確に何がとは言えない。
ただ、勘が囀っている。僕が見たことのある空はこんな感じだっただろうか。
これだけ分厚い雲に覆われているのに、光が点々と貫通してきている。それが少し不気味に見えてしまったのかもしれない。
「二人とも、そろそろ着くよ」
「オルタの姿は見当たらないな。どうする、入り口で待つか」
「いや、ここで待つのはRebellionの目に付く可能性もあるから、あまりいい選択肢ではないだろう。それに、あいつを待つのに時間を潰している場合でもないかもしれない」
「そうだな。『あいつが来なかった』場合のことも考えて動かにゃならん」
言いながら、天文台が目の前に迫った時、更なる違和感に勘づいて反射的に体が動いた。
この感覚は……知っている。
だからこそ、迫ってくるその気配に過剰に反応してしまう。
「避けろ!!」
即座に詠唱。
これまでとは一線を画す程の紫色の輝きがあたりに満ちる。
そのままこちらに向かってこようとしていたそいつとの距離を一気に詰め、刀を振りかざした。
三秒間が経過。しかし、目の前に立つそいつは何事もなかったかのようにそこに佇んでおり、変わらぬにやけ面を浮かべている。
……まだ『二回目』だと言うのに、もう完全に攻略されている気分だ。
「やあ、また会ったね。すごい警戒心だこと」
またお前か、と正直言いたくなってしまう。
何が起こっているのか分からないと言った様子だったアカネとファントムも、懐から武器を取り出して構えながら、僕に並んで立った。
「おっと、君たちとは初めましてだね。僕の名前は『アウトレイジ』、『暴聖』の名を冠する者さ」
ℵ
氷を掻い潜り、距離を詰めてきた彼女の二本の刃を杖で次々に弾き返し、降りかかる攻撃をいなしていく。
戦ってみてわかったが、彼女は私たち四人で束になってかかったとしても、楽に片付けられるような敵ではない。
機動力は申し分ない、その上、私の攻撃に対して毎度、最適解に近い回答を押し付けてくる。
そして、最たる問題はこの打たれ強さ。
どれだけの損傷を与えても、まるで痛みを感じていないかのように立ち上がる。常識的に考えて、ここまで出血すればとっくに意識を失っているだろう。
何かそれをカバーする機能が、異能力そのものに備わっていると考えるのが自然だ。
さらに、攻撃に伴って飛び散った血液すら裏目になるのがかなり厄介で、いつどこから攻撃を加えられるのかが読みづらい。
致命傷は避けているが、もう既に何ヶ所も刃が体を浅く切り裂き、火傷も負っている。
「どこに行った……?!」
霧と、聳え立つ氷塊の合間を縫って移動する彼女の姿が私の視界から抜け出し、一瞬にして見失ってしまう。
四方に視線を移動させていた次の瞬間、霧の中に現れた人影から大量の血液を打ち付けられ、視界は真っ赤に染まる。
「ここだよ」
勢いよくその姿を表し、ナイフを振りかぶって私との距離を詰めてくる彼女をなんとか視界の中心に捉え、杖を構えた。
「『醒蒼晶』《クリスタル・グレイス》!!」
唱えると間もなくして、彼女の元へ刃物のように研ぎ澄まされた鋭利な氷塊が飛来する。
それはナイフを抱えていた彼女の片腕に直撃し、勢いをそのままに溢れた鮮血を纏ってその先の建物の壁に突き刺さった。
打ち上げられた彼女の片手が地面に転がるが、それに見向きもせず、肘から先が無い腕を振るって周囲に血液を撒き散らした。
「『朱血』《ブラッド・ナスティ》」
お楽しみいただけましたか?
アゼムと互角に戦えてるのが正直信じられないんじゃないでしょうか。
では、また次回。




