第八十七審 『創世と終焉』
失踪です。
あ、おはようございます。
その瞬間、匂いが一気に濃くなっていく。
「私のこと、覚えててくれたの?嬉しいな」
どこからか声がしたかと思えば、視界に映っていた数箇所が一瞬赤く輝いた。
直後、地面に残されていた血痕は燃え盛り始め、僕らの行手を阻む。
即座に全員が足を止め、この吹雪の中、身体を揺らすその炎に困惑する。
声の主は炎に溶け込むような明るい茶髪を靡かせながら、目の前に広がった炎の壁を突っ切り、ゆっくりと姿を現した。
「驚いた?君に会いに来たよ」
その顔、両手に携えられたナイフを見て、確信した。
「お前も……『あの時の』だな」
「そう、私の名前は『スカーレッド』。君が領主様を助けた時以来かな?」
こいつにはあの時一度勝っている。
一対一の状況であの結果だったのだから、ここまで人数差があってこちらが負けるとは到底思えなかった。
……ただ、面倒な相手なのは間違いない。
さっさと片付けられるとも到底思えないため、ここは戦った経験のある僕がこの場を引き受けるべきだろう。
そう考えて前へ進み出ようとした瞬間、静止をかけるように僕の前にアゼムの手が翳される。
「ここは私が引き受けます。あなた方は先に進んでください」
「でも─────」
「わかっています。私も彼女についての情報は持っているので。彼女との異能力の相性からして、最も勝率が高いのは私だと思います。それにこのメンバーであれば、アカネさんとファントムさん、そしてあなたで遠距離と近距離共に隙はありません。あなたがここに残ってしまうと、この先でもし再びドゥームズデイが現れた場合に、その状況を打開できる人が居なくなってしまいます。あなたを除いた私たち三人が残ったところで、ドゥームズデイには勝てないでしょう」
確かに、アゼムであればこいつに負けるビジョンはまず見えなかった。
ドゥームズデイに関しては……まだ、わからない点が多いが、僕の攻撃が有効打になり得るというのは先日の戦闘時に感じていたことではある。
一度口を噤んでいる二人の顔を伺うと、目が合った。
「……分かった。ここは任せる」
「ご理解頂き感謝致します。では、ご武運を」
いい切る前に彼は杖を手元に顕現させ、大きく振り上げた。
その瞬間から、周辺に巨大な氷塊が乱立し始め、氷のフィールドを作り上げていく。
それに乗じて駆け出した僕らは、依然として燃え盛る炎を振り払い、一直線に目的地を目指していく。
最後に聞こえたのは、波の音に紛れた彼の声だった。
「あなたの相手は私です!スカーレッド!!」
ℵ
「お前は、何故、あいつらに、肩入れ、するんだ」
「あなた達の味方をしたくないと思ったから。それだけ」
人気のない街に吹き荒れる吹雪が、私の髪を靡かせる。
さっきは目の前の彼女と知り合いだと言ってしまったが、実際のところそこまで関わりはない。というか、関わらないようにしていた。
私は『他の人たち』とは合わない。意見も、思想も、何もかも。
だから、私は群れて行動する他の人たちを横目に、一人を選んだ。
「お前は、『私たち』の、汚点だ。自分の異能力すら、制御出来ない、妖者が、『この地位』に立っているという事実が、不思議でならない」
「私だってあなた達と一緒にされたくない。自分たちが今まで何をしてきたのか分かってるの?」
「あぁ、十分、理解している。全ては、目的の完遂に、必要なことだ」
表情は崩さず、ただ声のトーンを少しあげて、煽るように続けた。
「貴様には、分からぬことよ。痴れ者」
なんと思われていようがどうでもよかったはずなのだが、その言い方は少し癪に障る。
にやりと口角を上げ、そう吐き捨てると、唐突に彼女の表情は温度を失う。
「……そもそも、私達がこの領土で、何を、しようとしているかも、知らないだろう。介入するべきでは、無いんだ。お前は」
「そうはいかない。これ以上好き勝手させる訳にもいかない。これまで、あなた達が引き起こしてきた問題が、良い結果を導いたことはあった?」
「あぁ、あった。私たちにとっては……な。お前も、『私たちと同じ』だというのに、何故、これが、理解できない?」
「理解したくもない。根元は同じかもしれないけど、私はあなた達とは違う」
「いいや、同じだ。私としても、認め難いが。『神』が、そうだと言っている以上は、私としても、そうだとしか言うことが、できない」
聞きたくなかった、それに続く言葉は。
私が『そうなった』のは、完全に不本意だ。
決して、なりたくてなった訳では無い。
ただ、理から、運命から、逃れられなかっただけ。
だから私は、自ら腫れ物になることを選んだ。
あぁ、せめて『他の人たち』が、こんなじゃなかったら良かったのに。
「お前が、『壮聖』の名を担う、『フェルテ』である以上はな」
お楽しみいただけましたか?
月末まで何もなければこの時間帯に投稿していく予定なのでよろしくお願いします。
では、また次回。




