第八十二審 『劣等感』
失踪です。
遊撃部隊の名前未判明はあとひとりになりましたね。
「目的は不明だが、現在、領土内の施設に展開されていた結界が例外なく全て消滅している。重要度に関わらず、全て、だ。そんな環境の中、お前らの組織のリーダーともあろう重要人物を、無防備な施設に放り込んでおくと思うか?」
「確かに……それでは私たちと同様、ただ投獄されただけ。私たちと場所を分けた理由が意味が無いように見えます。時間稼ぎをするにももっと良い方法があったでしょうし」
「そうなれば、領主はお前らのリーダーを手元に置いとくしか選択肢が無くなる訳だ」
「だが、僕らは領主の居場所に関する情報を持っていない。今から捜索するのは途方も無い時間がかかる上に、追われている身である以上リスクが伴う」
「忘れるな、俺が何の為にここまで来たと思っている。領主の居場所は既に把握済み。案内してやる代わりに、ひとつ条件がある。『俺と協力すること』だ」
「何でRebellonであるお前と……」
「Rebellionではなく一個人としての、お前たちへの頼みだ。これは組織への裏切りではないが、今回のあいつらの計画に俺は協力できない」
「あなたの目的は、一体何ですか?」
「Rebellionの計画の阻止、及び領主の計画の阻止だ」
「何故、自分たちの組織の計画の邪魔をしようとしているんですか?」
「今回は組織と俺の意向に相違が生じた。簡単に言えば、あいつらが招こうとしている事態が、俺にとっては良い物だとは思えなかった」
「ハルサさん、どうしますか?」
声量を絞って、小声で僕に問いかけてくるアゼムに、僕は小さく頷く。
どの道、そこまで時間はかけられない。断って遠回りをするよりも、条件を飲んで近道ができる可能性に賭けた方がいいと思った。
「そもそも、お前は何でそんな情報を持っているんだ」
そう問いかけると、そいつは表情を変えずに淡々と続ける。
「簡単な話だ。俺の兄貴がここの領主だからな」
ℵ
太陽が昇り、影が一番小さくなるはずの時間帯。
一度降り止んでいたはずの雪が降り出し、気温は昨日以上に低下していた。
空には分厚い雲がかかっている。
依然として人気が全くない街中を歩き、僕らはとある一軒家を訪れていた。
「オルタ、ここは……?」
「昔住んでた家だ。帰ってくることも無くなったから、今はもうほとんど使っちゃいない」
オルタは玄関を開錠して中へと入っていく。
「入りな」
そう短く告げた彼に続いて、僕らも家に上がって行った。
リビングのような場所に辿り着き、目の前の彼は電気をつけてテーブルや椅子の周りに散乱していた物を片付け始める。
外装も内装も普通の一軒家だ。
しばらく帰っていなかったにしては、物が多いように感じるが。
電球の光は弱く、まだ薄暗さが残っている。長らく交換していないのだろう。
部屋を見回しながらそんなことを考えているうちに、彼はどこからかキャスター付きのホワイトボードを引っ張り出してきた。
「時間がないんだ。早く座れ」
急かされるように僕らは椅子に座ると、オルタはホワイトボードの前に立ってマーカーを手に取った。
「まず、俺とシーカ領の領主はさっきも言った通り兄弟だ。俺は弟だったから、親から後継に選ばれたのは兄であるあいつの方だった。そもそも俺は後継なんて御免だったけどな。それで、お前らに頼みたいのは、領主の計画の阻止だ」
「待て、さっきはRebellionの計画がどうとか言ってなかったか?」
「今回のRebellionの計画は、領主の計画を利用して初めて成立する。だから、領主さえ何とかすれば連鎖的にRebellionの計画も潰えることになる。だから、最優先は領主の計画の阻止になる」
彼はホワイトボードに筆を走らせながら、僕の問いに答えていく。
「じゃあ、領主の目的っていうのはなんなんだ?」
「本人と会えば分かる。あいつの居場所は恐らくここだ」
言いながらホワイトボードに地図を貼り付け、とある場所にマーカーで丸をつけた。
「『シーカ領港湾天文台』。この領土随一の観光名所であり、この島国で一番巨大な天文台だ。あいつが計画を実行するにあたって、この場所の設備が必要になってくる。同時に、お前らの組織のリーダーもここにいる可能性が高い」
お楽しみいただけましたか?
衝撃の事実。知り合いの身内が領主。
では、また次回。




