第七十六審 『もう一人の僕』
失踪です。
みなさんもう夏休み始まりました?
握る手に力を込めると、応えるように刀は激しく輝きを放った。
その直後、思い切り刀を弾き返し、晒された隙を捉える。
握った拳を思い切り振りかぶり放たれた一撃は、そいつの顔面に直撃。
何かが砕け散る音と感覚と共に、そいつは大きく吹き飛ばされて地面を転がる。
追撃を仕掛けようと再び刀を構えた瞬間、唐突な浮遊感を全身に感じた。
次の瞬間、地面だと思っていた自分の足元からとてつもない風が吹き出し、同時に地面は崩れて瞬きする間もなく僕はその先へ落下していく。
「嘘だろ……?!」
そのまま落ち続けるかと思われたが、僕はその一瞬のうちに気づけば瓦礫が散らばった地面に横たわっていた。軈てけたたましくブザーが鳴り始める。
体を起こして周囲を見回してみるが、その場所に明かりはなく、僕が落ちてきた穴から光が差し込んでいる程度で、まるでスポットライトに当てられている感覚。
とりあえず立ちあがろうとした瞬間、どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お待たせ致しました。ハルサさん、よくぞご無事で」
「アゼム?!こんなところにいたのか?!」
「はい。この建物の構造及びその地図はフェイクで、捕らえた人間を拘置しておくための場所は秘匿されていた。それだけの話です。あなたがこの場所まで来てくれて助かりました。杖を奪われてしまったので戦力になるかは分かりませんが、お力添え致します。今は戦闘に集中しましょう」
そう言われてハッと穴が空いた天井を見上げると、地面に倒れていたはずのそいつが、こちらを見下ろしているのが目に入った。
炎のような色合いの明かりがそいつの後ろから照り、はっきりと確認することは叶わなかったが、嘲るような笑顔を浮かべるその姿は紛れもない─────。
「下がりなさい。私から杖を奪った程度で勝った気になるだなんて言語道断。飛んだ慢心でしたね」
そいつに向かって氷塊が射出されると、当然のようにそれらを回避して、再度こちらを一瞥した。
人数不利ということもあってか、間もなくしてそいつは姿を消した。
「……ハルサさん、今のは……」
「分からない。あいつに関する記憶が無いだけかもしれないが、僕には何も分からない」
「なるほど、今はもう大丈夫です。とりあえず、これからどう行動するべきか考えましょう。アカネさんもここにいらっしゃいますから、一度会って話してみましょうか」
「分かった、だが時間が無い。僕からも話したいことがあるから、さっさと済ませよう」
戦っていたあいつに張り付いていたのは紛れもない、僕自身の顔だった。
ℵ
「こんなところに乗り込んでくるだなんて、お前も命知らずだな」
「それは褒めてるのか?」
顔を合わせるなりそういうアカネにため息混じりにそう答えると、座っていた彼女は立ち上がって僕と目を合わせた。
「聞きたいことはいくつかあるが、できるだけ手短に聞こう。まず、ルナはどこだ」
「ルナさんならここにはいませんよ。Better Tomorrowのリーダーと言うだけあってか、どうにも警戒されるようで。私たちがここに放り込まれた時には既に彼女の姿は見当たりませんでした」
「なら、ルナは今どこに……」
「少なくともこの建物じゃないな。私たちはここへ連れてこられる段階で既に二手に分かれていた。片方がアゼムと私、もう片方がルナだ」
「また他を捜索しなければならないか……。なら、それよりも先に急ぎの要件がある。僕はファントムと名乗る男に協力を持ち掛けられてここまで来た」
「彼に会ったんですか?!確かにあの夜、彼は外へ出ていたので私たちが捕まった段階では姿がありませんでした。なら、彼は今何処にいるんですか?」
「あいつも今この建物のどこかにいる。二人で別々のルートで侵入する手立てだったから、あいつが今何処にいるのかは分からない。ただ、どうにも作戦通りに行っているようには見えなかったから、今もどこかで刺客と戦っているかもしれない」
「通信は繋がりますか」
「何度も試しているが繋がらない」
「あいつがどこに向かったのかも分からないのか?」
「警備システムを落とすためにセキュリティルームに向かっていたはずだ」
「でしたらまずそこに向かってみましょう。アカネさんは武器がないと戦えないと思うのでこれを受け取ってください」
「チッ、気に入らない言い方だな」
そう言いながらも、アゼムの手元に氷で生成された刀を手渡され、それを受け取った。
「とりあえず彼の安否を確認するのが最優先です。急ぎましょう」
お楽しみいただけましたか?
ルナどこ行っちゃったの
では、また次回。




