第七十二審 『指名手配』
失踪です。
とあるゲームのストーリーを追っていたのですが、ノベルゲームにあそこまで泣かされたのは初めてです。
そこまでノベルゲームを深く知らないのもあるかもしれませんが。
「イザナギ、戻ったぞ─────」
シャッターが半分閉じていた店の入り口から中に入ってみるが、そこに彼の姿はなかった。
電気はつけっぱなしなのだが、何度か呼びかけても返事どころか、気配すら感じ取ることができない。
「……外出しているのか?」
店の裏を覗いてみるが、やはりそこには何者の姿もない。
席を外しているだけ、と自分の中で結論を出して、一度店の中を見回して、近くの椅子に腰を下ろそうと思った……が。
……なんとなく、電気を消してみた。
月の光が差し込む入口を眺めながら、そのままゆっくりと壁にもたれかかる形で地面に腰を下ろす。
睨むように月の光を見つめながら、大きく深く呼吸をする。
静寂が訪れ、時の流れを全身で感じ取る。
その瞬間、こちらに向かってくる何者かの気配を入口の外から感じ取った。
だが、刀を抜こうとした刹那、聞き覚えのある声が頭の中を反響する。
『ハルサ、逃げるんだ』
何故か、僕にはそこの言葉通りに行動した方が良いような気がした。
瞬時に動作を中断して、片手で近くの椅子を掴んで入口に向かって放り投げる。
宙を舞ったそれはまるで読めていたかのように、店の中に足を踏み入れた何者かに直撃し、その隙に僕は裏口に向かって走り出す。
あいつらが何者なのか、何故イザナギの姿がこの場所に無かったのか、脳内に語りかけてきた声はルナに酷似していたが、あれは異能力によるものだったのだろうか。
思考を巡らせながら裏口の扉を蹴破って外へ出る。来訪者の手はまだここまで回っていないようだ。
夜明けが近づきつつある時間帯、僕は行く先も分からないままとにかく走り続けることしか出来なかった。
ℵ
「目標は全員確保したか?」
「いや、二人取り逃した。現在捜索を進めているところだ」
「よりにもよって、奴らの対処で追われているこんな時に別件が舞い込んでくるとは、俺達には運がないな」
「さっさと行くぞ、無駄話なら仕事が片付いたら幾らでも聞いてやる」
……
「……行ったか。全く……今度は何なんだ」
僕は路地裏の影に溶け込んで、周囲の様子を伺っていた。
取り逃した二人のうち一人が僕なら、もう一人はイザナギか?だとすればあの店の様子を見に来たことにも納得がいく。
それなら、イザナギは前もって安全な場所へ移動していたのかもしれない。
そして、ルナ達と連絡もとれない。無事だといいのだが。
とりあえず、ルナ達が泊まっていた場所の様子を見に行ってみるか……。
そう考えた僕は路地裏のさらに奥へ歩き出そうとしたが、直後に何かの気配が迫っていることに気がつく。
「止まれ」
反射的に足を止めると、頭上から何者かが降下してきた。
着地するや否や即座にそいつは持っていた黒塗りの得物の刃先を僕の喉元に突きつけてくる。
追っ手に気づかれたか……と、身動きが取れず固まっていると、そいつは上着のフードから鋭い目つきを覗かせ、僕を睨みながら語りかけてきた。
「お前……名前は?」
「ハルサ……だ」
そう答えると数秒の沈黙の後、握っていた刃物を下ろした。
「こりゃ失礼。俺はBetter Tomorrowの行動隊β所属の『ファントム』だ。本名は秘匿させて貰ってる。先程の無礼、謝罪させて欲しいね」
「いや……それは気にしなくていい。この状況だし、念を押して確認するのは悪いことじゃない。それより、聞きたいことが幾つかあるんだが」
「いいよ、幾らでもどうぞ」
「まず聞きたいのが、ルナ達の行方だ」
「あぁ、捕まったよ」
食い気味かつ淡々とそう言うファントムと名乗ったそいつに、一瞬思考が固まってしまう。
「捕まった、って……」
「そのまんまの意味さ。君も見ていただろう、俺らも君と同じく追われていた訳だ。他の三人は泊まっていた場所に侵入してきた奴らにそのまま捕まった。それで外の見張りをしていた俺だけがその存在にいち早く気づいて逃げ延びたってこと。ただ、見捨てようとしていた訳じゃない。ルナ達は意図して抵抗しなかったんだろうし、事が大きくなるのを防ぎたかったのなら、俺はその場から退避して、戦闘は避けるべきだと考えたのさ。それに、逃げろってルナからのお告げもあったしね」
「やっぱり、あの時に聞こえた声はルナのものだったのか……。なら、『取り逃した二人』って、つまりは僕とお前のことなのか?」
「そうなるね。向こうがBetter Tomorrowとして一度も表に顔を出してない僕の存在を認知しているのが、些か不思議ではあるけどね。『空間に干渉する』妖者がいたのかも」
お楽しみいただけましたか?
風がある日はそんなに暑さは感じませんね。
では、次は第七十三審でお会いしましょう。




