第七十審 『妄執』
失踪です。
重要回?
「ハルサ、もしかしたら君はここに戻ってきたことを後悔することになるかもしれない。それを前提として聞いて欲しい。まず、目の前のあの黒い龍は極めて高い再生能力を有している。生半可な攻撃は通れどダメージにならない。そして君も目にしただろう。こいつを倒さないと周辺に展開されている『裂け目』の稼働を止めることは出来ない。更に、こいつを食い止められなければ恐らく周辺一帯は更地になる。軽く、君たちが避難を呼びかけた数倍の範囲には被害が及ぶだろう」
「そんなものをあの女が……?今まで接触してきた七聖の中でも段違いに脅威じゃないか」
「そう感じるのも無理ないよ。ちなみに、白い龍は私が使役しているものだ。私の指示通り動くから、巻き込まれないようにしな」
そう言いきった瞬間黒い龍は、衝撃音と共に風を切って頭上を通過し、その先にあった建物に打ち付けられる。
「近衛塔奪還作戦の時を思い出すんだ。私は後衛に回る。君は『食屍龍』と一緒に前へ出てくれ。大丈夫だ。君への攻撃は一発たりとも私が通させはしない。君が防ぎきれなかった攻撃は全て私が対応するよ」
彼女の視界の先には再度立ち上がる黒い龍の姿。それを前にして大きく手を挙げた。
「さぁ、着いてきな……!役目を果たせ、『食屍龍』」
直後に、凄まじい咆哮が僕の近くを通過していき、直後に二匹の龍は再びぶつかり合い始めた。
それを見た僕も同じく地面を蹴飛ばし、それらとの距離を保ちながらその周りを駆け出した。
この体格差の相手と戦うだなんて、とても簡単なことでは無い。現に僕も全く経験が無いため動き方を模索する必要があるだろう。
手始めに、大きく振りかぶった刀を思い切り振りかざし、斬撃を打ち出した。
横槍という形だったからか、それはそいつの首元に直撃し、衝撃音と共に痛みを訴えるような唸り声が周囲に反響する。
これくらいであれば流石に攻撃は通るか……。
再び駆け出そうとした瞬間、そいつは組み合っていた白い龍を大きく弾き飛ばし、間髪入れずに僕に向き直り襲いかかってくる。
それを確認した刹那、動こうとしていた足を止め、即座に刀を構え直した。
動きを見る限り、おそらく僕はこいつの攻撃を受ければ一発アウトだと考えていいだろう。
故に、僕は防御よりも回避を優先した方がいい。避けきれなかったものはルナが対処してくれると信じるしかない。
襲ってくる攻撃を正確に読み取れ……。僕はそれに当たらないよう動くだけだ。正面から戦うのは無謀。となればルナの白い龍が戦っているところに横槍を入れ続けるのが懸命か。
振り下ろされる鉤爪を避け、距離を取るべく走り出した。
「ハルサ!手上げな!!」
言われるがまま片手を上げると、ルナの近くの歪んだ空間から鎖が勢い良く姿を現し、僕の元に向かってきた。
僕の挙げていた片手に絡みつく鎖。その瞬間にルナは鎖を引いて、手を引かれた僕は飛ぶように一気に移動する。
着地した僕から鎖は解け、それと同時にルナは鎖の発射口を周囲にいくつか配置し、迫る黒色の龍に向かって同時に鎖を放った。
それらは対象と複雑に絡み合い、動きを拘束することに成功する。
「『食屍龍』!!ハルサ!!」
「分かってる……!」
続いて返事をするように咆哮が轟く。
しかし、距離を詰めようと駆け出した瞬間に、その龍は鎖を振り払おうとするように頭を振り回し、鎖に繋がれた前足を強引に地面に叩き付け、咆哮を轟かせる。
同時に、その上空に魔法陣のようなものが展開されたのが視界に映った。
一連の流れからすると、恐らく狙いは────。
「ルナ!上だ!!」
「そう来たか……『牽域』《サンクチュアリ・エレメント》……!」
それを唱えるよりも早く、展開された魔法陣からは光線が降り注ぎ、それらはとてつもない速さで地面に到達すると、轟音と共に砂埃が舞い上がる。
だが軈て砂埃が晴れたその場所には、結界を構え、息を切らしたルナが変わらず立っていた。
「『食屍龍』!放て!!」
声がかかると同時に地面が揺れ動き、その震源となっていた龍の開いた口元に蓄えられていたエネルギーが打ち出された。
それは周囲に光を撒き散らしながら、鎖に縛り続けられていた龍の首元から胴体を貫通する。
胴体の大部分を欠損した黒い龍に絡みついていた鎖は解かれ、糸が切れたように地面に倒れ込んだ。
それを確認すると僕は大きくため息をついて構えを解いた。
振り返ってルナがいる方向を確認すると、彼女は言葉では言い表せないような表情でこちらを見ている。
「ハルサ────!」
直後、背後からたった今消えたはずの巨大な気配を再び感じとった。
瞬時に振り向いて刀を構えようとするが、その時点でほとんど負った損傷が再生されきっていたそいつの攻撃が直撃する方が早いのは明確だった。
衝撃を覚悟した僕にその攻撃が目と鼻の先に迫った瞬間、僕は右側から突っ込んできた何かに大きく吹き飛ばされ、宙を舞う。
そして、それが白い龍の身体に直撃するのを、僕は視界の中心に抑えていた。
軈て、白かったはずの龍だったものは、黒い塵となって風に乗って消えていく。
次の瞬間、地面との接触に伴う強烈な衝撃に襲われ、僕の意識は途切れた。
ℵ
「ハルサ、自分の父親のこと、覚えているか?」
お楽しみいただけましたか?
やばめの終わり方をしておきます。
では、次は第七十一審でお会いしましょう。




