第六十五審 『奏でる戦慄』
失踪です。
戦闘描写の難しさを感じる。
「お前の顔、見たことが、ある……。どこかで、私と、会ったことがあるか?」
「何のことでしょうか。私にはそのような記憶は無いのですが」
そう返されると、ドゥームズデイと名乗った女は語るのをやめ、杖を構え直す。先程まで空中に描かれていた亀裂は、氷塊に上書きされてしまったのか、姿を消していた。
「ハルサさん。今回は相手が相手です。なので二人で役割を分担しましょうか。後方支援はできますか?」
「残念ながら、僕はこの一生を刀一本で生き抜いてきたんだ。後方、ましてや支援だなんて無縁だね」
「わかりました。であれば私が後ろから支援致しましょう。あなたは前方をお願いします」
「あぁ。任せろ」
そう言って、アゼムの横を通過し、数歩前に進み出て刀を構える。
間もなく、目の前のそいつが振りかざした杖が紫色に輝き、同時に僕は地面を蹴って走り出す。
刀を振るうと、杖と交わり、激しく火花が散った。
数回打ち合い、唐突に杖の先端が刺突された瞬間、咄嗟に防御した僕は体勢を崩してしまう。
続けて迫るそいつの蹴りを両腕で受け止めるが、あまりの衝撃に大きく吹き飛ばされて一時的に宙を舞った。
何とか建て直して地面を滑りながら着地すると、間髪入れずに再度僕は走り出す。
「足元!!飛んでください!!」
背後から聞こえてきたその指示を言葉通り実行すると、地面を踏みしめた瞬間足元から氷が背を伸ばし、その勢いで僕はそいつの頭上数米を飛び上がった。
大きく刀を振りかぶり、数回に渡って斬撃を打ち出すと、一度そいつは受け止めようと構えていたのだが、何かを察したような素振りを見せ、瞬時に体を反らせてそれらを回避する。その際、掠めた頬からは血が溢れ出ていた。
地面が近づいてきて着地に備えると、真下の地面には再び氷が生成されていることに気がつく。それは軈て坂のような形を象った。
流れに身を任せてそれを滑り、更に増したスピードをそのままに、僕はそいつに斬りかかる。
だが、刀を振り下ろそうとした瞬間にそいつは唐突に屈んで僕の視界の外に出ていき、僕の視界に代わりに映りこんだのは、一つの『亀裂』だった。
「左に逸れてください!!」
そう言われて咄嗟に左に避けた瞬間、コンクリートブロックよりも一回り以上大きい氷塊が僕の隣を横切った。
それが僕の目の前を通過した瞬間に、そこにあったはずの亀裂は消失していた。
何が起きたのか考える間もなく、そこにいるそいつが振るった杖が目の前に迫る。
瞬時に振り上げた刀がそれを弾き返すと、後退することなく更にそいつとの距離を詰めようと地面を蹴った。
追撃を狙う刀をそいつが杖で受け止め、激しく火花が散っていく。
……それとなく、見える。
露骨では無いが、あいつは僕と距離を取りたがっているように感じる。
僕の間合いから逃れたい、というよりかは、自分が得意とする間合いに僕を収めたいのだろう。
だがそれを簡単に行わせる訳にはいかない。
そいつが後退しようと踏み切った瞬間、その背後に突如として氷の壁が現れる。
当然そいつはそれに行く手を阻まれ足を止めるが、表情は一切変わらない。
今に限った話では無いが、こいつからは感情がほとんど読み取れない。故に、何をしようと効いている気がしない。
握り方を変え、そいつに向かって大きく振りかぶった刀を刺突させるが、既のところで回避され、氷に突き刺さる音が響いた。
再度刀を振るおうとするが、唐突な浮遊感が全身を襲う。
間もなくして僕の視点は下降し、まるで場面を繋ぎ合わせるように気づけば地面に転がっていた。
慌てて体を起こすが、近くに見えたのはアゼムの後ろ姿。僕のことには気づいているようだが、背中を向けたまま杖に手を翳している。
「少し……気温が下がるかと思います。お気をつけて……!」
彼の杖の先からは、みるみる膨れ上がっていく莫大なエネルギーがここからでも感じ取れる。
深呼吸する彼は、軈て呟くように口を動かした。
「『裁冰』《アイシクル・ジャッジ》」
激しい輝きを放って一気に解き放たれたそれは、一瞬にして風向きをねじ曲げ、周囲を凍てつかせ、霧を撒き散らした。
降り続いていた雪は既に止んでいたにも関わらず、気づけば周囲の景色も、気温も、雪が降った直後のように一気に低下する。
そして、かかっていた霧が払いのけるように、そいつが姿を現した。
「……その、程度か」
お楽しみいただけましたか?
ドゥームズデイ最強界隈
では、次は第六十六審でお会いしましょう。




