第六十三審 『咆哮』
失踪です。
ちょっとずつヒントを小出しにしていきます。
彼女は『そうですか』と短く返事をして、表情を崩さない私の目を見つめて、再び構えた。
恐らく、彼女は私が彼女の命を狙うつもりはないと分かっている。それは私も同様だ。
だが、お互いに達成しなければならない目的がある。それを差し置いてただただ馴れ合いをするなど以ての外。
「悪いけど、今『あの子』を失うとかなりマズいんだ。少し本気を出させてもらうよ」
「望む所……!」
言い切ると同時に深呼吸する私に、そう言った彼女は私へと距離を詰め始めるのに対し、私は声を大にして告げた。
「『食屍龍』《グール》、飯の時間だよ!!」
ℵ
僕は何度目か、気づけばそいつの目の前に立っていた。
いや、前のように場所を無理やり変えられた訳では無い。ただ突然そいつがそこに現れた。
ただ、今回は僕をこの領土に転送した時とは少し雰囲気が異なる。
「……『二』、お前は、この数字の意味を、知っているか?」
「質問の意図が読めないな。もう少し詳しく説明してくれ」
「この領土における、この数字の、意味だ。お前は、知らないのか」
如何せん、意味は分からない。
こんな質問をする理由も、この領土において『二』という数字が何を意味するのかも。
沈黙を続けていると、そいつはため息をついて再び喋りだした。
「お前は、知らないんだな。となれば、お前の組織の、リーダーは、意図してお前に、教えていないのか、そもそも、知らないのか」
「……で、結局どういう意味だったんだ」
「この領土に、この島国を揺るがす規模の、厄災が訪れるまでの、残りの日数だ」
「意味が分からないな」
「分からないなら、分からないままで、いい。ただ、お前の立場上、どの道、知ることになるだろう」
「そんな本当かどうかも分からない情報をわざわざ僕に告げるためにここまで来てくれたのか?」
「……いいや、私には私の目的が、ある。お前を、『回収』、しに来た。お前たちの組織のリーダーは、お前の元へ、向かう最中で、別のオペレーターに、足止め、されている。彼女は、手強い。相応しい人員が、対処しているが、長くは、持たないかもしれない。早く、済ませるぞ」
やはり……『始末』とは言わない。
前例を含めた傾向からして、やはり僕を殺そうとはしてこないのかもしれないが、今回は相手は意図して僕への接触を試みてきた。加えて来訪者は『あの時の女』だ。
こいつがかなりの危険人物だということはもう既に通達されている。それに正直、こいつには勝てる気がしない。
そして、こいつは前に『命の保証はしない』旨を僕に告げた。
今回、こいつはこう言っているが、僕の命が狙われないと言い切るのはとても難しいだろう。
「『欠落葬送』《アレキシサイミア》……死んでも、恨むなよ」
「『妄執』、『喪失』、『果たされぬ過去との調和』……。上等だ、かかってこい」
ℵ
降り注いでいた雪が空中で大きく速度を緩め、周囲にはオーブが浮かぶ。
しかしその直前に、あいつは何かを察したような動きを見せていた。もしかするとこれは通用しないのかもしれない。
そう思いながらも、僕は大きくその場で刀を振るった。
飛んだ斬撃がそいつのもとへ飛来し、今まさに直撃するという瞬間に三秒間が経過。ほとんど静止していた雪が再び動き出し始めると同時に、響き渡るその衝撃音と、大きく砂埃が舞った。
結果は……予想通り、何らかの妨害を行ったのか、そいつには傷一つ付けられていなかった。
ただ、結界などではないように見える。
あの短時間のうちに先読みで対応をされていたあたり、やはりかなりの実力者なように思える。もしくはそういう類の異能力を持っているのか……。
これから来るであろう攻撃に備え、刀を構えた僕を視界に捉えたまま、そいつは片手に持っていた自身の胸あたりまである大きさの杖を、大きく振るって掲げた。
その瞬間、そいつの背後の空間がまるで紙を手で裂くように、乱雑に切断痕を残して引き裂かれる。
間もなくしてそこから飛び出してきたのは、月の光すら取り込んでしまいそうなほど黒いシルエットに包まれた触手のようなもの。
それらは一斉にこちらへ向かってくる。
僕は紫色に輝く刀を大きく振り上げた。
お楽しみいただけましたか?
食屍龍だ!!!!!!!!!!
では、次は第六十四審でお会いしましょう。




