第六十二審 『残された謎』
失踪です。
ハルサと無事合流出来るとも思わないですよね。
「……はぁ、また君か」
隣に並んで歩いていた彼女が目の前の人影に向かって呆れ気味にそう言うと、目の前のそいつが姿を現した。
後頭部で結われた臙脂色の髪、そして刀。間違いなく剣聖の『堺 オトギ』だ。
「はい、また私です。前に会った時から一ヶ月くらい経ちましかね?」
「その筈だね。今日はどうしたんだい?前回のリベンジをしたいのなら残念だね。ハルサは今ここにはいないんだよ」
「見れば分かりますよ。私はそのような目的のためにこの場所を訪れた訳ではありませんから。申し訳ないですが、他の七聖からあなたを足止めして欲しいと頼まれてるんです。断る理由もありませんでしたから、頼まれたように目的地へ向かった迄。他意はありません」
「……まぁ、雪で視界が悪い状況だ。行動を起こすのなら今だと考えてもおかしくは無いか。もし、『この天候すら君たちが裏から手を回して操作していた』のならかなり話は変わってくるけどね」
「さぁ?そこまでは答えられないですね」
「いいよ。答えてくれるとも思ってないから」
彼女はそう言うと、少し後ろで控えていた私に流し目で何かを伝えようとしてくる。
「とはいえ、君に二人も人員を割くのはかなり非効率だと思うんだよね……!」
彼女が屈んで地面に片手で触れた瞬間、地面を思い切り蹴って走り出した私は、一気に最高速度に到達する。
抱えていた杖を振りかぶりった私を、鞘から刀を抜いて迎え撃とうとする彼女の目の前まで迫り、振りかざそうとした瞬間、僕の足元の地面が一瞬にして大きく変形した。
その衝撃は私を大きく空中に投げ出し、勢いのまま直進し続け、着地したのは近くのビルの屋上。振り返ることも足を止めることも無く、向かっていた方向に再度進み始める。
「健闘を祈ります」
──────
「私は君たちと同じように、君たちを殺したりするつもりはないよ。君らの目的が分かるまでね」
「残念ながら、それに対してあまりいい返事は出来そうにないですね。ですが、計画が進んでいくうちにいずれ分かると思いますよ」
「とはいえ、このまま君と向かい合ったまま時間を稼がれるのも癪だね」
「『暴鬼』《ゴッズ・アンガー》……!!」
「そう来ると思ってたよ……!」
食い気味にそう言うと、空から私に降り注ぐ雷を、瞬時に詠唱して展開した結界で受け止める。
同時に、私は大きく横に移動しながら手元に取り出した鎌を振り上げ、刀を構える彼女との距離を詰めた。
振りかざした鎌は受け止められ、その間からは激しく火花が散る。
「あなたには依然として謎が多いです。ですが、あなたの実力は本物であると私の過去が証明しています。あなたが七聖に選出されないのは何故なのでしょうか?」
「おや、七聖である君なら知っていると思っていたんだけど、そうではなかったのかい?」
「……それなら、『そういうこと』なのですね」
「そうだね。逆に私が『そちら側』だとでも?」
「そう聞かれれば、私にできることは首を横に振ることだけです。しかし、いくら私や他の七聖よりも長く生きているとはいえ、七聖に選出される条件まであなたが知っているのも些か不思議ではありますがね」
「そりゃあ、君が見ているのはあくまで君が生まれてからの私でしかないからね。私の一生を知る人間は存在しないと言って差し支えない」
彼女が私の鎌を弾き返し、私はその衝撃のまま、一度大きく後ろに後退する。
だが、私は間髪入れずに再び距離を詰め鎌を振るい、同じように激しい打ち合いが続いた。
「あなたほどの手数を持っていながら、まだ実力を出し渋るのですね」
「さぁ、何の話だか。私がどれだけの手数を持っているかなんて私しか知らないのに、何故君は私が出し渋っていると言えるのかな?」
「私が答えるまでもないでしょう。未だにどういう異能力なのかも私には分かりませんが、少なくともあなたほど多彩な戦い方ができる人間はこの世には存在しません。断言できます」
「おや、七聖である君にこんなことを言われるなんて、鼻が高いね」
「そもそも、私にもあなたに勝算があるとはとても言えません。負けるビジョンだってもちろん見えています。『あの青年』に斬られた時と違って……」
そう言うと、彼女の刀を振るう手に一気に力が入る。
一振を受け止めた私は衝撃を受け流そうとして、再度距離をとった。
「……教えて頂けるのであれば、教えてください。守秘するのであればそれで構いません。彼は一体何者なのですか」
その問いに、私は大きくため息をついた。
「残念ながら、私たちにも大したことは分かってないよ。強いて言うのなら……近いうちに、君たち七聖の実力を超えるかもしれない……そのくらいだね」
お楽しみいただけましたか?
アゼム曰く、シーカ領にいる七聖はあと一人ですね。
では、次は第六十三審でお会いしましょう。




