表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何でも屋に招かれた記憶喪失で妖刀使いの僕は、全ての依頼を切り刻もうと思います。  作者: 失踪 -Sisso-
第一部 『黎明奇譚 Restart The World』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/100

第六十審  『行きつけの店』

失踪です。

行きつけと言えるほどの店ってあんまりないんですよね。

しばらく宛もなく歩き回っていたが、周囲の景色は変わらないまま。

吹雪とは言えないが、積もりもしない雪。人通りの少なさ、営業している店も少ないため、周囲の景色も単調だった。


流石に少し、寒さが体に堪えてきたな……。

そう考えていた最中、雪で若干悪くなった視界の奥に、人影が現れたのに気づいた。

ただ、近づいてくるその姿に生気は無く、覚束ない足取りでただ歩いている。そんな様子だった。


見るからに様子がおかしい。一応話を聞いてみるか。


声が届く距離まで近づいてきたそいつを前に、僕は一度立ち止まった。

少しづつ、こちらに近づいてくるそいつのシルエットに色がついていく。

腰あたりまである、後ろで結われた桃色の髪。黒、白、そして自分の髪と同じ色を基調とした衣服。自分の顔と同じくらいの大きさの、頭上に伸びた(つの)……。


「おい、ちょっといいか─────」


その瞬間、そいつの姿を目の当たりにした僕は、咄嗟に刀を手に取った。

そいつによって振るわれたものが僕の体を切り裂く寸前、瞬時に構えた刀でそれを受け止める。


「鎌……?!」


まずそんな言葉が出てしまったが、その鎌を受け止める僕の両腕には既にそんな余裕はなかった。


「嘘……だろ……?」


圧倒的な力で押し返される僕の両腕は、徐々に震えが(あらわ)になっていく。

流石にマズいと察した僕は、一度鎌を受け流し、こいつの腹部を全力で蹴飛ばして無理やり距離をとった。


乱れた呼吸、くすんだ瞳……。限りなく無表情に近いそいつの姿はまず間違いなく普通では無い。

直前まで感じ取れなかったはずの底知れない威圧感が、目の前のそいつからは感じられるようだった。


やむなしか……そう考えて刀を引き抜こうとしたその瞬間、先程まで数メートル距離をとっていたはずのそいつの姿が気づけば目の前に迫っていた。

反射的にその動作を中断し、鞘に収まったままの刀で振るわれる鎌を弾き返す。


激しく散る火花。休む間もなく振りかざされ続けるその鎌を迎撃するので手一杯で、僕は刀を引き抜く時間すら貰えなかった。

それに、一撃一撃が途轍(とてつ)もなく重たい……。しっかり体重をかけて打ち返さなければとても受けきれない。


対応しきれなかった一筋の斬撃が、僕の頬を掠めて通過していく。

僕はその代わりに生じた一瞬の隙に、神経を集中させて詠唱し、刀を引き抜くと、紫色に輝く刀身が姿を現した。

……恐らく、このスピードで動く相手には悠長なことをしている余裕は無い。アウトレイジと戦っていた時と似ている。


そいつの動きが加速する前にと、僕は刀を大きく振り抜いた。

それはそいつの胴体に直撃すると、一気にかなりの量の鮮血が飛び散り、続いて放った蹴りによって大きく後方に吹き飛ばされる。

鎌を地面に突き立ててブレーキをかけ、勢いを殺したかと思えば、そいつの動きがピタリと止まった。

その様子を身構えたまま視界の中心に捉えていると、あることに気づいた。


「……なるほどな」


たった今受けたはずの巨大な切創(せっそう)が、目にも止まらぬ速度で再生していく。

それを眺めていた、ものの数秒のうちに完治してしまった。

再び動き出すと読んだ僕は再び構えるが、その後の展開は僕の予想とは大きく異なっていた。


「……あれ、私……」


そう言ったそいつは周囲を見渡し始める。

血が飛び散った地面、手に抱えている鎌、刀を構えたまま静止している僕へと、順番に視線を動かしていく。

すると、唐突に焦りだしたかと思えば僕に頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!私、異能力の影響で、その……」


そこまで聞いた僕は何となく察した。

恐らく、異能力か何かの影響で自我を失ってしまていたりしたのだろう。

ともかく、意図して僕と敵対していた訳ではなさそうで安心した。


「にしても、お強いんですね。あの状態の私とやり合えちゃうだなんて……。あ、申し遅れました。私は『(あざみ) カルナ』と申します。先程はご迷惑をおかけして申し訳ございません。お怪我はありませんか?」


「あぁ……まぁ、無いに等しいな」


「それは良かったです!良ければあなたのお名前も教えてください!」


「ハルサだ」


「ハルサさんですね。……唐突で申し訳ないんですけど、食べ物とか持ってたりしませんか?」


言いづらそうにするそいつを横目に、僕はさっき出店にいた薄着の女から何か貰っていたことを思い出した。

(ふところ)にしまっていたそれを取り出して差し出すと、そいつは嬉しそうにそれを受け取る。


「良いんですか?!このお店の揚げ物大好きなんです、ありがとうございます!この御恩は忘れません!」


そう言うと、そいつは再度頭を下げて、僕に手を振りながら再び雪の降る中に消えていった。

一体なんだったのだろうか……。あいつの行動のほとんどが理解に至らなかったため、情報が何も得られなかった。


……まぁ、いいか。

そう切り捨てて、僕は再び雪が薄く積もり始めた道を歩き始めるのだった。

お楽しみいただけましたか?

記念すべき六十話目。毎日投稿六十日目でもあります。

カルナは僕のお気に入りキャラの一角です。


では、次は第六十一審でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ