第五十五審 『Everything Frozen』
失踪です。
氷系の異能力ってかっこいいですよね
「正解。僕のこと覚えててくれたんだ」
そう言いながら、両手を後ろで組んで僕の近くを歩き始めた。
「ここまで追ってくるなんて、そんなに僕のことが気になってたの?」
「……」
「まぁ、どっちでもいいけど。せっかくだし、君がわざわざここまで来たのなら、君にも見てもらおうかな」
独り言のように呟きながら歩いていった先の地面には、街灯の僅かな光を黒く反射している何かが撒かれているように見えた。
そいつがそれを踏みつけて歩くと、水が跳ねるような音が聞こえる。
「暗くてよく見えない?でも安心して、これから明るくなるから……!」
そう言ってそいつが取り出したものを目の当たりにして、僕は咄嗟に地面を蹴って走り出した……だが、その時にはもう遅かった。
そいつが手に持っていた火のついたマッチは、僕が阻止するよりも早く地面に落下してしまう。
「さぁ、ショータイムだ……!」
刹那、足元に広がっていた油にマッチの炎が引火し、瞬く間にそれを辿って周辺の建物数軒は燃え盛り始める。
闇夜を照らすように轟々と燃え広がるそれに気がついたであろう歩行者達の声。この光景に呆気にとられていた僕をそいつの問いかけが引き戻した。
「……ちなみにだけど、この建物の中には『まだ人が取り残されてる』かもしれない。こんな時、君ならどうするのかな?」
今までの雰囲気とは打って変わって、笑みが剥がれ、目を見開いた表情に、落ち着いた冷たい声色で、見下ろすように僕に問いかけてくる。
その瞬間、建物の中から悲鳴が外にまで響き渡る。残念ながら、こいつの言葉は嘘ではなかったようだ。
嫌味のようにそう言ったそいつに、僕は歯を食いしばりながら一歩前へ進み出ようとした瞬間、何者かの気配が轟速で接近していることに気がついた。
それが限界まで迫ってきた刹那、瞬きをしたその僅かな時間のうちに周囲一帯がまとめて氷漬けになってしまっていた。
灯されていた炎は一瞬にして消し止められ、視界に映っていた構造物はほとんどが氷に埋め尽くされた景色の中央に、何者かが佇んでいるのが見える。
それは軈て僕に近づいてきて声をかけてきた。
「怪我はありませんか?行動隊γの新人さん」
「え……?なんで僕のことを……」
「詳しいことは後で話します。今はとりあえず、目の前の標的に集中しましょう。私はあなたの味方です」
そう言った彼は、袖を通さず肩にかけたコートと、首元まである後ろで括られた濃い灰色の髪を靡かせると、僕に笑顔を見せ、アウトレイジがいる方向に向き直った。
そいつの表情からは先程までの余裕綽々とした表情が剥がれ、一変して圧を感じさせるような態度をとり始める。
「へぇ……僕の盤面を崩すか。度胸があるね、『術師』さん?」
何かを察したのか、僕の少し前に立っていた彼はその言葉が言い終えられるよりも早く前へ進み出て、僕にだけ聴こえるような声量で告げた。
「あなたはここで見ていてください。もし私があなたの視界に収まらないほど遠くへ移動した、もしくは敗れたのなら、ルナさんに連絡を、そして撤退をお願いします」
「連絡なら、今────」
「残念ですが、あの火の手を消し止めるために、周囲の電波を司る電線を丸ごと凍らせてしまいました。なので、行動に移すのならこの場を離れてからというのが必須条件になります」
なんだろうか、彼からは七聖とは違った強者のオーラを、立ち振る舞いや言葉遣いなどの節々から溢れんばかりに感じ取ってしまう。
「では、失礼致します。暫し待機を」
僕に背を向けたままそう言う彼は、持っていた大きな杖を地面に二回叩きつけると、僕の周囲に結界が構築されていく。
歩いていく姿を、僕は結界越しに見守った。
お楽しみいただけましたか?
彼には人の心がないの?
では、次は第五十六審でお会いしましょう。




