第五十三審 『大サービス』
失踪です。
頼むからもう暑くならないでくれ(n回目)
「珍しいね、電話だなんて。なんの用かな」
……
「勿論。彼はちゃんと目的地まで来てくれたみたいだしね」
……
「そうだなぁ……。僕にはやることも特にないし、折角だから彼と遊んでこようかな」
……
「分かってるよ。彼は只者じゃない。一対一で僕らが負けることこそないだろうけど、如何せん実力が未知であることには変わりない」
……
「そうかい。なら、君が表舞台に出てくるのは、まだ先なのかな?」
……
「残念だね。じゃあ、そろそろ切るよ。僕もそろそろ動くことにするかな」
ℵ
……目を、覚ました。
いや、そもそも気を失っていたのか?
僕は確か、ここに来る前にあいつが作り出した裂け目に飲み込まれて……。
そこまで考えると、ふと周囲を見渡した。
見た感じはいつも生活している場所と何ら変わりないように見えるが、どこか異様な雰囲気に違和感を覚えてしまう。
とりあえず路地裏を抜け、もう一度周囲を見渡してみる。
……見覚えはあまり無いように感じるが、見た感じ普通の繁華街だ。おかしいところは無いと思うのだが……。
そう考えながら歩いていると、視界の外から何者かに呼び止められる。
「そこの兄ちゃん!飲み屋探してたりしない?」
「いや、まだ昼間だぞ?それに僕は未成年なんだが……」
「いいからいいから!今ならお客は君だけだよ」
言われるがまま腕を掴まれ、そのまま店内に連れ込まれてしまう。
店の中は彼の言うとおり客はおらず、なんなら店員も彼しかいないように見える。
「さ、座って。君には特別にサービスしてあげよう」
そう言って僕をカウンター席に座らせ、近くにあったグラスと瓶を手に取って、手早くこちらに差し出してくる。
そいつの容姿は、目にかかるくらいの少し長めの茶髪に、色素が薄めのサングラス。着ている服にまで視線を向けると、今まで感じていたいた違和感の正体に気がついた。
この領土の人間は、他と比べて服装の系統が違う。
明確に何がとは言えないが、強いて言えば僕やルナと似た装いだ。
「……手荒くして悪かったね。どうしても君に聞きたいことがあってさ」
「僕に聞きたいこと?会って数分も経ってないのにか?」
「ああ、そうさ。これは君にしか分からないことだからね」
そう前置きして、目の前の彼は一度息をつく。
「……君、どこの領土から来たんだい」
刹那、明らかに心臓が大きく鼓動した。
鋭い視線を感じる……何故この一瞬で外部の者だということが読み取れた……?
「どうしてわかった?って顔をしてるね。まぁ、長年この領土に住んでる者の勘ってやつだよ」
「……ノーヴェル領から。ただ、本意じゃない」
「本意じゃない?それはどういうことなのかな」
「僕は依頼を受けてそれを元に動く、いわゆる何でも屋で働いているんだが、先程敵対していた人間と鉢合わせて、その直後に恐らく異能力によって強制移動。目を覚ました場所から歩き回ってるうちにお前に捕まったって訳だ」
「なるほどね……噂は本当だったみたいだ。現在、この領土に外部からの不法侵入者が現れた影響で、不要不急の外出は控えるように公に報道されていたんだけど、周りの雰囲気を見る限り、そんな感じはしないだろう?」
肘をカウンターにつきながらそう言って店の外を眺める彼と同じように、僕も外を眺めた。
……確かに、緊急事態という感じはしない。
これがこの領土の日常的な光景だと言われたら普通に納得してしまうだろう。
「なら、僕を捕らえるために店に連れ込んだのか?この店のサービスは手厚くて感激だな」
「そんなんじゃないよ、話を最後まで聞きな。一般的に報道されているのは『外部から立ち入った集団が領土内を徘徊している』という内容だ。君は集団で行動していた様子は見えなかったし、第一もし君がその集団のうちの一人だとしても、僕から何かしようとは思っていなかったしね」
話を聞く限り、僕は別の領土に流されてしまったのだろう。それに『不法侵入』という言葉にも引っかかる……。
「そういえば名乗り忘れてたね。僕のことは『イザナギ』と呼んでくれ」
「そうか。じゃあ、イザナギ。この領土の名前を教えてくれるか」
「この領土の名前かい?まぁ来たことが無いのなら分からないのも無理ないね。ここは『シーカ領』。君が来たノーヴェル領の、すぐ隣の領土だよ」
お楽しみいただけましたか?
七月に突入。今月は先月のPVを追い越すのを目標に行きます。
では、次は第五十四審でお会いしましょう。




