第五十二審 『内部腐食』
失踪です。
なんかこれから暑くなるらしいですね。
「……『彼女』は、後者に該当する。彼女に勝てると胸を張って言える私の知人や、この組織のメンバーは、恐らくいない。それだけ危険な存在なんだ。君たちが任務の続行を選択しなくて本当に良かった。そうしなかったら、確実に君たちの命は今頃なかったよ。かと言って、今回の件をそのまま野放しにする訳には行かない。奴らの目的は恐らくシーカ領への侵入だ。私を含めたこの組織の中の実力者を上から何人か連れて、該当地域からシーカ領内部にかけて捜査してみることにするよ。それと、君と彼女の関連性については、残念だけど分からないね」
「あの人は、『私はあいつらとは違う』って言って、『次は命を保証しない』とまで言ってた。つまり、あの人はRebellion側だけど、私たちを殺そうとしてくるってことだよね」
「そうなるだろうね。彼女がRebellion側に付いていたのがかなり意外ではあるけど、目的は依然として不明だね。君たちを狙ってる可能性は低いだろうけど、気をつけた方がいい」
「そっか……。ごめんね、時間取っちゃって。報告は以上だよ。また何かあったら呼んでね」
私はそう告げて、手を振るルナに手を振り返しながらその部屋を後にした。
ℵ
そして、数日後。
ルナは何人かのメンバーを引き連れて、拠点を出て行った。
曰く、僕らが調査した例の件について、再び調査しに行くらしい。僕らには待機するように命令が出されていた。
やることもなかった僕は、会議室にいくつか掲示されている、期限未指定のフリーの依頼を消化していくことにする。
目に止まった一枚の書類を確認すると、『事件を解決してくれる人を募集。まずはここに電話をかけるように』と記されている。
……本当にそれだけ。情報はこれしか記載されていなかった。
気になった僕は番号に電話をかけると、数コールもしないうちに依頼主であろう人物の声が聞こえてきた。
内容は単純、指定した場所で待っている、そこで詳しく話す。とのこと。
書類をよく見てみると、小さく住所のようなものが記載されていたため、その場所に交通機関を利用して向かうと、意外なことに二時間程度で到着することが出来た。
僕らが住んでいるこの島国は、過去に人間が絶滅する寸前まで追い詰められたらしい。
最近は、人間が再び数を増やし始めるに至るまでのどこかの段階で異能力というものが発足した可能性が有力視されている。
そのため、異能力そのものの歴史はそこまで長くないはずなのだが、文明は急速に発達。
過去に人々が地道に積み上げてきた最盛期よりも、現在の方が高い技術力を有している可能性すら存在しているらしい。
ただ、人口はどうにもならないようで、まだまだ当時と比べれば遠く及ばないと聞く。
まぁ、戦闘能力を持たない人間は、毎日死と隣り合わせである場合もあるのだろう。一概に便利な世の中になったとも言い難いのだが……。
そうやって歩いているうちに指示された場所周辺に到着したが、依頼主と思われる人物は見当たらない。
周囲を見渡しながらゆっくりと歩いていたその瞬間、背後に何者かのあまりにも濃い気配を感じ取ってしまった。
「次は無いと、言ったはずだ……!」
咄嗟に振り向き、そいつと目が合った瞬間に、僕の顔は大きく歪んだ。
そこで漸く、自身が罠に嵌められたことに気がついた。
前、調査の時に鉢合わせた奴だ……!
最悪のタイミングだ。ここは前調査した場所からはかなり離れているはずなのに、どうして……!
そいつは空中に生成された『裂け目』から杖を振りかぶりながら、今まさに飛び出そうしているようで、半身はまだ裂け目の中。
怒気を孕んだ声と、高圧的な彼女の高圧的な表情を一度に確認した僕は、咄嗟に刀を引き抜こうと手をかける。
だが、そんなものよりもそいつが抱えている杖を振るう方が比較するまでもなく早かった。
「拾った命ならば、大切にしておけば良かったものを……。抜け出せるものなら、抜け出してみろ。仲間を、惜しむのなら、死に物狂いで……な」
気づけば僕が立っていた地面は、そいつが姿を現した裂け目と同じ見た目をしたものに置きかわっていた。
抵抗することもできず、重力に従ってそこに落ちていく僕が最後に見た光景は、僕を見下ろすそいつの姿だった。
お楽しみいただけましたか?
遂に新章が始まった感じがします。
では、次は第五十三審でお会いしましょう。




