第五審 『叛逆者』
失踪です。
セリフが長くなるとどうしても文脈が怪しい箇所が出てきて嫌になりますね。
「そうなんだな。だったら、今日僕が遭遇したあいつは……」
僕がそこで言い淀んだ瞬間、彼女の一言が耳に飛び込んできた。
「彼のランク区分は、『S』だよ」
それを聞いた僕は驚きを感じたが、あの時のことを思い返すと、そこまで意外なことでもないような気がする。
「それと、彼に関する情報はほとんど割れていないんだよね。異能力に関しても、本名などの個人情報についても明らかになっていない。そんな彼と対峙して無傷で帰ってこれただなんて奇跡以外の何物でもないよ」
「なるほどな……。そのRebellionっていうのはどういう組織なんだ?」
「それも色々な説が飛び交ってるけど、結局確かな情報は存在していない。あの組織は目的も、メンバーに関しても全てが謎に包まれてるんだ。短く言えば、何も分からないって言うのが現在の状況かな」
確かに、パラサイトと名乗った男からは唯ならぬ気配を感じ取れた。
あれは有り触れた有象無象などとは訳が違う。会話しているだけで汗が滲みそうなほど。他の人間たちとは隔絶した存在なのだろう。
「そういえば、あいつらも僕らと同じ理由であの場所に訪れていたらしい。もしかしたら、あいつらも例の行方不明事件に悩まされていたのかもな」
「なるほど、それであそこにいたのなら納得がいくね。話は変わるけど、今日の任務に関する収穫は何かあったかい?」
「申し訳ないが、ほとんど無かったに等しいな……。まぁ、手がかりに繋がりそうなものは見つけたんだが」
「なるほどね、分かった。明日から数日間は君たちは休日のはずだから、ゆっくり休むといいよ。ちなみにこの組織の名前は『BetterTomorrow』だよ。所属を聞かれることがあればそう答えるといい」
去り際にそう言うと、彼女は休憩室を後にした。
それを横目に僕は残っていたコーヒーを飲み干して、大きくため息をつくのだった。
ℵ
それから、数日間経っただろうか。
僕はあの時感じた違和感を忘れられずに、再び前辿り着いた場所へ向かっていた。
深まる夜の中、闇に包まれた周囲に最大限注意を払いながら森の奥へと進んでいく。
落ち葉を踏み締め、時折枝が折れる甲高い音が無人の森の中に響き渡る。
暫く歩くと、視界が開け、今まで木々に遮られていた月光が僕を照らした。
だが、今この場で月光に照らされていたのは、僕だけではなかったようだ。
「こんなものが……たった数日間で……?!」
目の前に聳え立っていたのは、巨大な屋敷。
驚きを隠せないが、今はそんなことをやっている暇などない。
連日の行方不明事件には、間違いなくこの屋敷が関連しているだろう。僕は既にそれ以外の可能性を考えられなくなっていた。
とりあえず、屋敷の扉に手をかけてみる。
鍵は……かかっていないようだ。そのまま扉を開けると何者かの人影が視界の先に現れる。
咄嗟に刀を構えるが、僕の前でお辞儀をするその人影は、姿を見せると同時に声をかけてきた。
「ようこそお越しくださいました。土足のままで構いません。どうぞこちらへ」
あれは……メイド?
まるで客人が来ることが分かっていたかのような対応だったが、僕がここに来ることは把握されてたって言うのか……?
一旦、そのメイドの後を追ってみることにしよう。そう考えた僕は、刀から手を離して屋敷の中を歩き出した。
そうして辿り着いた部屋の中に案内されると、僕は思わず呟いてしまう。
「これは……どういうことだ……?」
視界に映った光景は、テーブルを囲む人々の姿。
かなりの人数がそこに居るのに、その場所には物音一つ聞こえず、人々は地蔵のように真っ直ぐ前だけを見ていた。
明らかに普通では無い状況に、少しの間思考に駆られてしまうが、僕は彼女に促されるまま空いていた席に座らされる。
テーブルにはそれぞれ料理が置かれているのが確認できた。すると、そのメイドはその広間にあったステージに立つ。
「本日はお集まり頂きありがとうございます。卓上のお食事はどうぞお召し上がりください。今夜は俗世を忘れ、お楽しみいただけると幸いです」
言い終えてお辞儀をするメイドに、僕を除いた周りの人間は、先程までの静寂が嘘であったかのように全員拍手をし、歓声が上がる。
不気味な光景だ……。僕以外の人間、全員が催眠術に罹ったかのように、談笑しながら食事を楽しみ始めた。
まるで周囲を警戒している僕が異常であるかのようで、疎外感を感じてしまう。
そんな状況から数十分経っただろうか。
結局僕は一度も食事に手をつけることは無かった。なにか盛られてるかもしれないとも思ったが、周囲の人間を見る限り考えすぎだったようだ。
すると、再びあのメイドがステージに立って周囲の人間に何かを呼びかけ始めた。
……そういえば、この広間にはかなりの人数がいるように見えるが、メイドは今そこにいる一人しか見当たらない。この屋敷の業務を全て一人でこなしているのだろうか。
「お食事はお楽しみ頂けましたでしょうか。宴も酣ですが、最後までお楽しみ頂けると幸いです」
その呼び掛けから、僕は漂ってくる嫌な予感に無意識に身構えた。
刹那、会場の照明が一気に消灯される。
困惑の声が上がるなか、僕はそっと腰に携えられた刀に手をかけた。
「『弔魂』《リターンズ・オブ・ソウル》」
僅かに聞こえたその声に反応した瞬間、どこかから何かが飛び散る音と共に悲鳴が上がる。
その数秒後、再度照明が点灯した。
……が、そこに映し出されていたのは極めて凄惨な光景だった。
飛び散った赤黒い鮮血、転がった肉塊。手足はそれぞれ片方ずつ胴体から切り離され、それは最早人の形を保っていなかった。
同時に、血腥さが鼻腔を貫く。
だが、その場にいた全員、気にしていたのはそこでは無いだろう。
その姿が顕になった瞬間、幾つもの断末魔の叫びが岈する。
そこに居たのは、人の形をした化け物だった。
僕よりも数十糎大きい巨体。返り血を浴びた灰色の肌。
それを見るなり、僕は携えられていた刀を手に取っていつでも動けるように構える。
逃げ惑い、会場から出ていく客人達とは対を成すように、僕はその場に構えて留まり続けた。
……今、刀を抜くべきだろうか。
いや、仮に今これを使ったとしても、それは博打に他ならない。
この館にいるこいつのような化け物が一体だけとは限らない上に、こいつは明らかに異能力によって顕現している。何らかの理由で攻撃が通らない可能性もあるだろう。
だとすると、刀を引き抜いた後の僕が先日のようにどこかで気を失ってしまった場合、確実に命は無い。
「……さすがにこんなところで死ぬのは御免だな」
そう呟くと構えを解いて駆け出し、流れに乗じてその場を後にした。
お楽しみいただけましたか?
今回は異能力の詠唱が登場。僕の作品では漢字+カタカナのルビで基本的に表現していきます。(漢字の読みがそのまま《》内の読み方になってるみたいな解釈で大丈夫です)
それを踏まえるとハルサの詠唱って、一体なんなんでしょうね。
では、次は第六審でお会いしましょう。




