第四審 『寄生生物』
失踪です。
闇夜の森の中、ハルサ達を襲撃してきたのは一体何者なのでしょうか?
刹那、僕は腰に携えていた刀を手に取り、暗闇から突然姿を現した矢を弾き返した。
漂い始める白煙と、前方から迫る異様な雰囲気に、慌てて僕は通信機の電源を入れる。
「ルナ。敵襲だ」
『聞こえてるよ。数はどのくらい?』
「分からない。ただ先程から僅かに見える奴らの服装を見るに、黒に身を包んだ、白い仮面の奴らが何人も……ってところだ」
『分かっ……今どの辺に……』
会話の最中、唐突にノイズが鳴り響く。
この雰囲気に加えて、それはこの状況で僕の焦りに拍車をかけるには十分すぎるものだった。
「おい、どうした!ルナ!聞こえてるか!」
そう叫ぶように問いかけたのもつかの間、前方で破裂音のようなものと共に何かが輝いた瞬間、反射的に体を逸らしたが、飛来した何かに通信機を破壊されてしまう。
「ホタル。先に逃げろ。今はお前を守ってやれる自信が無い」
「え、でも……」
そんな会話をしているうちに、再び複数の方向から矢が飛来する。
素早く身を翻して一本ずつ刀で叩き落とし、飛来した方向に黒い影を確認すると、その方向から少しずつ遠ざかろうと後ずさっていく。
そしてさらに先程と同じように破裂音がすると同時に何かがこちらに向かってくる。
咄嗟に振るった刀がそれを叩き落としてから確信したが、あれは弾丸で間違いない。
ホタルは僕の後ろに隠れているが、これがいつまで続くだろうか……。
既に日が落ち、暗くなった周囲から飛来するそれらを弾き返し続けながら、先の見えない現状が僕の不安を煽る。
その瞬間、感じ取ったのは背後からのひとつの気配。
振り返った瞬間に鈍器を振り上げているのが確認できたが、奴の狙いは僕では無かったようだ。
「ホタル!」
呼びかけようとするが、それも虚しく彼女はそれに首元を打たれて倒れ込んだ。
鈍器を振り下ろしたそいつを刀で殴打し、隙ができたところを蹴飛ばすが、周囲から感じる気配は少しずつ近づいてきているように感じる。
周囲の物陰からそいつらが詰め寄り、その姿が顕になった時、僕は倒れ込んだ彼女を庇うように構えることしか出来なかった。
「止まれ」
前方から声が響く。
その声の指示通り、周囲のそいつらは一斉に武器を構えたまま動きを止めた。
すると、暗闇から何者かが現れる。
ピストルのリロードをしながら現れたそいつは、仮面は付けていないものの外套を羽織っており、周囲の人間と同じように黒服に身を包んでいる。
「お前ら、ここで何をしている」
「質問をするならまず名を名乗れ。僕にだってその程度の礼儀はあるぞ」
「……そうだな。俺は『パラサイト』Rebellionのメンバーの一人だ。改めて聞くが、ここで何をしていた」
「行方不明事件の調査をしていただけだ。それが何か問題でもあるのか」
「……俺たちと同じ……か。まぁいい。ここでお前たちと戦う理由は無い。引き上げるぞ」
「おい!まだ─────」
そう言って周囲のそいつらは武器を下げ、この場を後にしようとする中、僕は刀に手をかけて引き留めようとするが、パラサイトと名乗ったそいつは気づけば僕の耳元にまで接近して来ていた。
「俺たちは無駄な争いをしたいわけじゃ無い。だが、お前がこの場で対立を選ぶというのなら、俺たちとしてもお前を始末するしか無くなる。それは互いの為になるか?」
目にも止まらぬ早さで近づいてきたそいつは、囁くようにそう言いながら、刀を抜こうとしていた僕の手を上から抑えるように手袋を付けた手を添えた。
「冷静さを欠くな。その行動はお前の未来を切り裂くことになるぞ」
何事も無かったかのように立ち去ろうとする周りの奴らに合わせて、その男も僕に背を向けて歩き出した。
「……そんな目で俺を見るな。いつかやり返してやろうと、そう考えているだろう。復讐に駆られた人間が辿り着く場所は須らく同じだ。改めろ。青年」
立ち止まり、少し振り返ってそう告げたそいつは、軈て再び夜の闇に溶け込んでいった。
緊張感から解放され、強ばっていた体から力が抜けると、ゆっくりと膝から崩れ落ちる。
とりあえず彼女の安否を確認するが……。問題は無いだろう。ただ眠っているだけのようだ。
彼女の耳に着いていた通信機を借り、電源を入れる。
「聞こえてるか。こちらハルサ」
『ハルサ!大丈夫?!何かあったのかい?!』
「あぁ、なんとかな。電波妨害を受けた上に通信機を破壊されて連絡できなかった。今はホタルのを借りてるが。ともかく、今から拠点に戻るよ」
『良かった……。怪我はない?』
「俺は大丈夫だ。ホタルは眠っているが、外傷は特に無さそうだ」
『……ちなみに、接敵したのはどういう奴だったのか分かる?』
「確か……『Rebellionのメンバー』の『パラサイト』って名乗ってたな。Rebellionがなんなのかも、僕には分からなかったが」
『パラサイト……。なるほどね。彼と接敵して二人とも無事なのは奇跡と言って差し支えないレベルだ。とりあえず今日はもう帰ってきな。それとも、迎えに行った方がいいかい?』
「心配しすぎだ、その必要は無い。もう切るぞ」
『あぁ、お疲れ様。気をつけて帰ってきなよ』
そう言って通信を切り、大きくため息をついた。
……これ、ホタルは抱えて帰るしかないよな。
やっぱり迎えに来てもらった方が良かっただろうか。少し後悔してしまっている自分がいる。
そんなことを考えながら、僕はホタルを抱えてその場を後にした。
ℵ
その日の夜中、僕は薄暗い休憩室の隅で一人、暖かいコーヒーを啜っていた。
この飲み物は、現状ここで働き始めてから飲んだものの中で一番気に入っている。
どこか落ち着きを感じるような、精神的な支えになってくれているような気がしていた。
そんな時、部屋の入口の方から足音が響く。
「……ルナか。ホタルはどんな感じだ」
「大した怪我は無かったよ。さっき一度目を覚ましたけど、今はまた眠ってる。君のおかげだね」
再びコーヒーを啜り、一息つくと、僕は彼女に問いかける。
「……で、僕になんの用だ。なにか用事があってわざわざここを訪れたんだろう」
「そうだね……。今日君たちが遭遇した者について説明しておこうと思って。いずれ説明しなきゃならなかったんだけど、ここまで早く接触するとは私も思わなくてね。まずはランク区分の話からしなきゃならない」
そう言うと彼女は、僕と同じように壁に背を向けて、同じ方向を眺めながら目を合わさずに話を始めた。
「世の中にいる妖者基本的に四段階で実力を元にそれぞれのランクに振り分けられる。一番上がS、一番下がC。そして異能力を持たない者、所謂無能力者は無条件にCに分類される。君が先日腕を切り落としたのはAランクの妖者、上から数えて二つ目の区分だね。正直、Aランクの人間を無傷で圧倒できる時点で君は相当な実力の持ち主だと思うよ」
「褒めていただいてどうも。気になったんだが、Sランクに到達している妖者って結構いたりするのか?」
「いいや、ほんのひと握りもいないよ。Sランクっていうのは、努力とか、経験とか、そういうものを詰んだくらいで手にできる肩書きでは無い。到達できる者は最早、『人ならざる者』だと言ってしまってもいいかもしれないね。Aランクとは一段階しか変わらないように見えるが、天と地程の差がある」
「そうなんだな。だったら、今日僕が遭遇したあいつは……」
僕がそこで言い淀んだ瞬間、彼女の一言が耳に飛び込んできた。
「彼のランク区分は、『S』だよ」
お楽しみいただけましたか?
少し前に書いたものを改めて手直ししながら投稿しているので、しばらくは投稿頻度を維持できそうなのですが、どこで区切りを付けるか、毎度結構悩んでいます。
ちなみにですが筆は早い方ではないです。
では、次は第五審でお会いしましょう。




