第三審 『闇討ち』
失踪です。
ℵ←このマークは段落分けをしたい時に使ってる時が多いです。それ以外に何か特別な意味があったりはしません。
「『妄執』、『喪失』、『果たされぬ過去との調和』……第一拘束解除。力を貸せ、妖刀」
直後、鞘から刀身が覗いた瞬間、周囲に紫色の光が満ちる。
同時に、オーブのようなものが辺りに浮かび、僕は数秒間に渡るほど大きく深呼吸した。
軈て浮かんでいたそれらが消えると、刀を引き抜き、紫色に発光する刃を軽く振るって、目元を覆っていたそいつに刃先を向ける。
「……かかってこいよ」
睨むように僕を見るそいつは、その言葉が癪に触ったのか、こちらに距離を詰めようと地面を蹴飛ばした。
……が、取るに足らない動きだ。
「遅すぎる」
大きく空間を切り上げた瞬間、その刀からは紫色の斬撃が打ち出され、そいつの片腕を切り落とした。
無人の郊外にそいつの悲痛な叫び声が岈する。
「こんなはずじゃない……そんな顔をしているな?勝手なもんだな。戦いという場において、『狩られる側』の意識がお前には足らない」
ゆっくりと前に進み出る僕を前に、地面に膝を着くそいつはただ顔を伏せるだけ。最早動こうとすらしていなかった。
僕は鞘に刀を納めた後、それでそいつの首元を殴打する。
……気を失っただろうか。力なく倒れ込んだそいつを見下ろし、僕は再び通信機のスイッチを入れた。
「聞こえてるか、ルナ。終わったぞ」
『お疲れ様。さっきはどうかしたのかい?』
「まだ標的が残っていた。それなりに手強かったが、今度こそ全員片付けた筈だ」
『じゃあ任務完了だね。後で清掃員を手配しておくから、君は帰ってくると良い』
それに短く相槌を打って、僕は通信機の電源を切り、肩の力を抜いて息をついた。
久しぶりに刀を抜いたからだろうか……いつにも増して疲労感が大きく体に伸し掛る。
「初任務にしては、上出来だっただろ……」
呟いて、歩き出そうとした瞬間、微かな違和感に気がついた。
だが、時すでに遅し。その一瞬のうちに生じた強烈な目眩でバランスを崩し、僕は地面と衝突する。軈て、意識は徐々に薄れていった。
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『君……の……い』
『君の……せいで……』
『君のせいで……私は……』
『私……は……』
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そうして僕は反射的に飛び起きた。
頬を伝う汗。額に張り付いた髪。乱れた息を整えようと、額に手を当てて深呼吸を試みる。
「だ、大丈夫?」
隣からそう聞こえる。
視線だけを動かし、その方向を見ると、心配そうな顔をして僕の顔を覗き込むホタルの姿があった。
彼女に気づいた僕は、少しずつ落ち着きを取り戻し、大きくため息をつく。
「大丈夫だ、落ち着いた」
「うん、それはいいんだけど……凄く魘されてたよ。何か夢でも見てたの?」
「あぁ、この上ない悪夢をな。スラムにいた頃から度々同じような悪夢を見ていたんだが、あれの正体は僕にも分からない」
「そうなんだ……。多分、過去に関係があることなんだろうけど。悲しい感情は……すごく伝わってきた」
「あれが悲しいものなのかどうかも、僕には少しだってわからないけどな」
ベッドに座ったまま改めて部屋を見渡し、刀が置いてあることと、ホタルが僕の隣の椅子に座っていることを確認すると、ふと初歩的な疑問が思い浮かんだ。
「あれ……お前はなんで僕の部屋にいるんだ?」
「いやあの……ルナに看病するように頼まれて。ほら私サポートチーム所属だからさ!君の怪我も私が治してあげたんだよ?興味本位で入って来ちゃったとかじゃないから!にしても、君の両腕、何ヶ所も罅割れてたんだよ。よくあんな状態で戦えてたね」
「……そうか。医療担当って言ってたもんな。それはそうと、ホタル。僕はどのくらい眠ってたんだ」
「えっと……丸一日?」
前に刀を使った時と変わっていない……か。
再びため息をつく僕に、彼女は話を振ってくる。
「そういえば、君が目を覚ましたら来るようにルナから言われてるんだった。行こっか」
そう言って立ち上がってドアノブに手をかける彼女を追うように、僕も刀を手に取って立ち上がった。
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そうして僕たちはまた会議室を訪れ、今日もルナから説明を受けていた。
任務について……かと思ったが、切り出された話は全く別の話だった。
「初任務も終わって君の実力もなんとなくわかったし、そろそろ君たちを行動隊に配属しようと思ってね」
「初耳なんだが、行動隊ってなんだ?」
「あれ、そういえば君には説明してなかったっけ。行動隊っていうのは、複数人で任務に出る時のために予め組んでおくチームみたいなものだよ。現存する行動隊は二つ。基本的に五人以上で構成されてる」
「つまりは、僕ら以外にも無所属の奴がいるってことか?」
「まぁ、無所属の人は居ないことは無いけど、今から新しく君たちだけで行動隊を結成しようと思って」
「え?ってことは……」
「そう。一旦君たち二人だけで新しく行動隊を結成させてもらうよ。メンバーに関しては……誰かが勧誘してくるのを待ってもいいけど、君たちが任務の最中に誰かを連れてくるのもアリってことにしてる。その辺は君たちに任せることにしようかな。ちなみに、ホタルにはもう説明してあるからそっちは気にしなくていいよ」
道理でさっきから黙って話を聞いていた訳だ。
横目で彼女の表情を伺い、目が合うと笑顔を浮かべた。
「ともかく、今日の任務の話に移ろうか。折角だし君たちには二人で一緒に任務を受けてもらおうかな。最近、領土内のとある森の周辺で行方不明者が後を絶たないらしくて。君たちにはその調査をお願いしたい。戦闘になるかもしれないから、離れて行動しないようにね。一時間後には出発できるように準備をしておくこと。頼んだよ」
それに対し、僕らは同時に返事をしてからルナに別れを告げて部屋を後にするのだった。
にしても今回は行方不明事件と来た。やはり栄えている場所でも安全の保証は出来ないようだ。
ℵ
そしてその日の影が伸びてきた時間帯。僕らは指定された場所に向かい、歩いて調査を開始していた。
既に日は落ち始めており、木々の隙間から夕日が差し込んでくる。
「そういえば、お前はなんでこの組織で働いてるんだ?」
「ここで働いてる理由かぁ……。私は元々施設出身で、両親のことなんてほとんど覚えてないんだよね。勿論、何も思い出せない訳じゃないんだけど、もう随分前のことだし、二人とは施設に入ってから一度も会ってないから。でも、数ヶ月前に突然施設から追い出されちゃってね。理由も詳しくは教えてくれなかったけど、追求しちゃいけない気がして、私は仕方なく施設を出てその辺で適当に生活してたところでルナと会ってここに勧誘されたって流れだよ」
「そりゃ、気の毒だな。まぁ実際路上で生活しているよりも、ここで働いていた方が余程いい生活ができるだろうしな」
「そうなんだよね。あそこでルナと会ってなかったら、私今頃どうなってたんだろうなぁ」
そんなことを話しながら歩いていると、少し開けた場所に出る。
もう既に辺りは橙色に染まり始め、夜が近づいてきているのが感じられた。
……だが、どうにも少し違和感がある。
まるで元々何かがここにあったかのような、そんな虚しさのようなものを覚えてしまう。
「何も無い、か。どうする?もうかなり歩いてきちゃったし、日も落ちてきてるからもう引き返すっていうのも手だと思うよ。何も情報が得られなかったのは少し残念だけど」
「……まぁ、そうだな。とりあえず今日は一旦引き返そうか。この場所は、今度また来よう」
「じゃあ、帰ろっか─────」
「屈め」
「……え?」
「いいから!早く!」
刹那、僕は腰に携えていた刀を手に取り、暗闇から突然姿を現した矢を弾き返した。
お楽しみいただけましたか?
一話一話を名前をつけていくのって結構難しいんですね。毎回結構悩んでます。
では、次は第四審でお会いしましょう。




