第二審 力の解放
失踪です。
また3000文字を超えてしまいました。
区切りがいい所で終わるようにしているので、話によって長さが結構変わってくるかもしれません。
そうして、僕は指定された地区の郊外まで足を運んでいた。
淀みきった重たい雰囲気。辺りを見渡してみるが、僕が生活していたスラム街と同じくらい荒れ果てている。ここの治安も良いとは言えないようだ。
通信機だけ渡されて現地に赴いた訳だが、人の気配はあまりないように感じる。
ルナ曰く、領主からの治安の改善に関する依頼は定期的に来るものらしく、重要任務という訳でもないのでプレッシャーを感じる必要はないとのこと。
恐らく、戦闘系としての力量を一旦計ろうとしているのだろう。まぁ、だとしても僕は目的さえ達成出来ればいいと思っているため、そこまで気にしてはいないが。
「気づかれていないと思っているのか?潜伏なんて姑息な真似してないで出てきたらどうだ」
その言葉は、一見無人に見える街路にただ岈するかのように思われた。
だがその数秒後、周囲のいくつかの物陰が蠢き始める。僕は視線を巡らせると同時に腰に括っていた刀を鞘ごと取り外す。
軈て僕と対面するように、現れた三人の男が行く手を塞いでくる。
「気づかれていたとは、兄ちゃん、勘が鋭いね」
「時間稼ぎか?僕はお喋りしに来たんじゃない。なんで僕の後をつけていた?」
「なんでと聞かれてもな。ここは俺たちのナワバリなんだ。自分たちの家に無断で侵入してくるやつをただほっとくと思うか?」
「さぁ、僕には家なんて無いからお前たちの考えは到底理解できない。土足で失礼するぞ」
そう言って鞘に収まったままの刀を構えると、そいつらは音もなく僕との距離を縮めてくる。
かと思った瞬間、そいつらの姿が揺らぎ、一気に周囲の景色と同化した。
だが、目を凝らせば空間の歪みが確認できる。姿を完全に消すことは出来ていないようだ。
それに、三人とも同じ形で姿を消している。全員同じ能力……という事はさすがにあり得ないだろう。
瞬時に気配を察知し、迫ってきたそいつが振るったほとんど不可視の斬撃を感覚で回避する。
見たところ、得物のサイズは大きくない。一般的なナイフだろうか。
再び振るわれたナイフを刀で受け止め、腹部を蹴飛ばした。
その瞬間、蹴飛ばしたそいつの実体がはっきりと見え、グリッチのようなノイズが走ると、再度姿が消えたことに気がつく。
そいつが瓦礫に衝突する音と共に、背後から向かってくるナイフを姿勢を腰を落として回避する。
身を翻した翻した僕は、再度ナイフを薙いできたもう一人に鞘に収まったままの刀を振るう。
そいつは何度も振るわれる刀を受け続けるが、僕は執拗に、ナイフではなくそれを握る手を狙う。刀が当たると手元を中心に、そいつの姿が先ほど見たものと同じように明滅する。
大きくナイフを弾き返し、体勢を崩した瞬間、僕の左の拳がそいつの頬に直撃した。
ナイフを弾き返した際もその姿は明滅し、吹き飛び、地面に倒れ込むと同時に再度姿が消えるそいつから目を逸らし、周囲を見渡す。
「なるほどな……」
……だが、あと一人の姿が見当たらない。
こいつらと同じように姿を消しているものだと思い、目を凝らして辺りを確認してみると、それと思しき人影が少し離れた場所に確認できた。
「見えているぞ……!」
その辺から拾い上げた適当な石を最後の一人が確認できた方向に投擲すると、何も無いはずの空間で何かにぶつかって落下した。恐らく直撃したのだろう。
「ビンゴだ」
僕は僅かに空間が歪んでいるその方向に地面を蹴って大きく距離を詰めて刀を振るう。
すると、それを受け止めたであろう刃物との間に微かに火花が散る。
「お前の異能力は恐らく『指定したものの視認性を下げる』ものだったんだろう。だが、本来は対象を複数選択することは難しかったんじゃないのか?だから異能力の精度を落とし、自分以外の対象は人為的に動かされた物と接触すると実体が顕になるというデメリットを付与することで、本来成し得ない対象の複数選択を可能にした。違うか?他の奴は僕の刀をナイフで受け止めた時も姿が一瞬顕になっていた。だがお前はどうだ。現に今僕が振るった刀とお前のナイフが接触しているが、お前の姿は顕になる様子を見せない。加えて、僕が投げた石に直撃しただろう。ナイフではなく、その体に。なのにお前の姿は一度たりとも確認できない、こう考えればこの説の整合性がとれる。とどのつまり、言ってしまえば能力の発信源はお前だ。お前を落とせば前たちに勝ち目は残されていないも同然。言ってしまえばお前たちは、とうに詰んでいる」
そう告げると、表情は見えないものの、苦し紛れに大きくナイフを振るってくる。
「隙を見せたお前たちの負けだ」
言うと同時にそいつが握っていたナイフを弾き飛ばし、無防備になった首元を刀で殴打した。
姿の見えないそいつがいた方向から地面とぶつかった音がした数秒後、戦っていたそいつらの姿が明らかになる。
地面に伏せたままこちらに視線を向けるそいつらと目を合わせ、表情を崩さずに告げた。
「まだやるか?」
怯えたような表情で後ずさるそいつらを鼻で笑い、背中を向けて僕はその場を後にした。
耳につけていた通信機のスイッチをいれて独り言のように呟く。
「まず三人、先に進む」
ℵ
先ほどのような奴らを出会った傍から投げ飛ばし、粗方探索し終わった時、僕は耳に当てていた通信機のスイッチを入れた。
「大体地図通りに探索し終わったが、そろそろ戻っても大丈夫か?」
「一人でこれだけの人数を相手にできるだなんて、私もここまでとは思ってなかったよ。今日はもう帰ってきても大丈夫。お疲れ様」
「あぁ、じゃあそろそろ戻─────」
そう言いかけた時、何者かがこちらに迫ってくる気配を感じ取った。
気配の数は一人分、しかし……こいつは他の奴らとは明らかに雰囲気が違う。どうやら実力者がまだ潜んでいたらしい。
「……なぁ、ルナ。この仕事、残業代は出るか?」
「え?ま、まぁ働きに応じてって感じではあるけど……」
「了解。期待してるぞ」
そう言って一方的に通信機の電源を切ってその方向に向き直り、刀に手をかける。
軈て姿を見せたそいつに、構えを崩さずに固唾を飲んだ。
「ここは随分と静かになった……。誰の仕業だろうなぁ?」
「仲間の仇を討ちに来たってことか?笑えるな」
「他人の家に上がってるってのに、マナーがなっていないようだな……!」
その瞬間、不意を着くように地面を蹴り、僕との距離を一瞬にして大きく詰める。
速い……振りかざされた拳を咄嗟に上半身を反らせて回避するが、もう少し遅ければ鼻を失っていたかもしれない。
腹部を蹴り上げ、刀を振るって胸元を全力で殴打した……はずなのだが、そいつは怯む様子ひとつ見せない。それを見た僕は瞬時に距離をとった。
「どうした、余裕がなさそうに見えるな。言っておくが俺のランク区分はAだ。お前に興味なんて無いが、ここにいた奴らを全員一人で片付けていただろう。少しは楽しませてくれよ」
嘲るようにそう問いかけるそいつは、気味の悪い笑みを浮かべる。対して僕はその言葉を鼻で笑ってみせた。
どうやら、こいつは身体強化系の能力者らしい。だとすると現状打撃しか攻撃手段を持たない僕としては最悪の相手と言えるだろう。
不利対面もいいところ……これをどう切り抜けるか、解決策を練ろうと必死に思考を巡らせる。
「どうした、考え事か」
刹那、迫ってきたそいつに咄嗟に対応しようと刀で防御を測るが、そいつの拳を受け止めるにはあまりにも脆かった。
吹き飛ばされ、近くの建物に衝突する。
地面に膝を着き、噎せながらも再び立ち上がって手元を確認した。
……刀は折れていない。寧ろ折れそうなのはそれを抱えていた腕なくらいだ。
このままだと、僕は恐らくこいつには勝てないだろう。つまり、生きて帰れる保証は無い。
「初任務に失敗だなんて、あまりにもダサすぎるな」
まさか、一発目からこんな事になるとはな。
腹を……括るとしよう。
僕は刀の鞘と柄をそれぞれ抑えて胸の前に地面と平行に構え、ゆっくりと迫るそいつを前に、目を閉じて大きく深呼吸をした。
「『妄執』、『喪失』、『果たされぬ過去との調和』……第一拘束解除。力を貸せ、妖刀」
お楽しみいただけましたか?
投稿頻度に関してですが、まだ迷っているのが現状です。
毎日投稿をしたとして、どこかで崩れる未来が見えるような気がするので、不定期ということにしておきます。
2日に1回とかになるかもしれません。
では、次は第三審でお会いしましょう。




