第四十八審 『後悔のない選択』
失踪です。
珍しいチル回。
ケイにとってのセラム、タクトにとってのハルサ、ハルサにとってのルナは同じようものなのかもしれないですね。
目が……覚めた。ここは……。
「……見慣れた天井だな」
ここは拠点内の自室だ。ひと目でわかる程には見覚えがあった。
そして、近くに人の気配。
視線のみをその方向に向けると、数日ぶりに見る顔がそこに佇んでいる。
するとそいつも僕が目を覚ましたことに気づいたようで、少し驚いたように目を見開いた。
「ハルサ、目を覚ましたんだね!ここに運ばれてきてからずっと眠ってたから心配したんだよ」
そう言われ、気を失う直前の記憶が蘇る。
「そうか。僕は誰にここまで運ばれてきたんだ?」
「えっと……。確か、領主様の護衛の『鴻 ケイ』って人だったかな。怪我の理由とかは聞けなかったけど、君たちどっちも傷だらけの状態でここを訪ねてきたんだから驚いたよ」
ということは、あいつは僕を殺さないという選択をした訳か。態々ここまで運んでくれるだなんて律儀なもんだな。
「君の怪我なんだけど、どうにも少し不思議なんだよね。体表の切り傷は関しては普通だったんだけど、君が目を覚まさない原因の傷がどうしても治せなくて。いや、もっと高度な治療ができる人なら治せるとは思うんだけど、傷に対して何か手が加えられてるような感じだったんだよね。まるで糸が複雑に絡み合ってるような……で、それを一つ一つ解いていかないといけない感じで、私にはかなり厳しかったよ。それでも最低限のことはしてたし、目を覚ましてくれて安心できたよ」
その彼女の話には、いくつも引っかかる点があった。
僕は回復を阻害するような異能力を持つ人間に出くわした記憶はないし、最も、そんな人間から攻撃を受けていればもっと早く効果が出ているものだろう。
つまり、いちばん有力なのはケイとの戦いで何かが起こったという可能性。
他に考えられる可能性としては、僕自身が知らずのうちに自分の体に何かを施していたか、どこかで受けた攻撃に込められていた異能力が時間差で発動したかの二種類。
僕自身、僕のことについてよく分かっていない節があるため、正確なことも分からない。
僕が戦闘時に使っている『あれ』は、僕自身の能力なのか、刀に込められた力なのか、使っている僕自身にも分からないのだ。
ため息をつき、考えたって分からないその問題を頭から払い除けた。
「お前らは僕がいない間何をやってたんだ?」
「特段大きい任務をこなしてたりしてた訳じゃないよ。多少任務で外に出たりすることはあったけどね。他の人たちも同じように見えたけど」
ということは、領土の境界に現れた組織の人間は本当にルナだけだった可能性が高いか……。
そこでふと、もう一人重要な人物を見落としていることに気がついた。
「……そういえば、一人見慣れない奴が拠点にいなかったか?」
「あぁ、あの人?あの人もかなり怪我は酷かったね。私は手を加えてないし、話したりもしてないからあの人についてはよく分かってないんだけど」
「あいつは新しい行動隊のメンバーだ。任務の途中で元々入ってた組織に捨てられたらしく、僕が拾ってやった。ルナに話は通してあるから、名前くらいは本人の口から聞いといた方がいいかもしれないな」
「あ、あの人が新しいメンバーなの?!現地で何があったのかすごく気になるんだけど……」
「……まぁ、気が向いたら話すさ」
そこまで言った僕はベッドから立ち上がって体の動作を確認した。
……特に問題は無さそうだ。感覚もいつもと何ら変わりない。どうやら治らなかった傷は自然に治ってしまったようだ。
大きく伸びをしてから自室のドアノブに手をかけて、横目で彼女と目を合わせた。
「いくつかやることがあるから、僕はもう行くよ。ありがとう。ホタル。また頼む」
すると彼女は、若干困ったように呆れが混ざった笑みを浮かべながら手を振って、部屋を出ていく僕に別れを告げた。
お楽しみいただけましたか?
次のパートまではギリ平和かもしれない。
では、次は第四十九審でお会いしましょう。




