第四十四審 『Heroic Stance』
失踪です。
英雄的な姿勢。
「…………誰かと思えば、ノーヴェル領の英雄様じゃないか。今更僕になんの用だい?」
僕は地下に戻って、力なく壁にもたれかかって座っているそいつに屈んで視線を合わせていた。
斬った腹部から流れ出た血液が、地面に血溜まりを作り上げている。
「お前には聞かなければならないことがある。このまま放っておくわけには行かない」
腰に携えていた刀の柄をそいつに向けて地面に置き、一息ついてから再び話し始めた。
「まず……だ。やはり気になるのはお前らの目的なんだが……」
彼はその僕の言葉を遮るように鼻で笑った。
「敵である君に教えるとでも?」
「だよな……。なら、戦いが終わったあともここに残り続けていた理由はなんだ。ここに残っていたら、こうして戻ってきた僕がとどめを刺す可能性も否定できないだろう」
「僕自身、もう死のうが何も変わらない。ただそれだけさ。君らが戦っていたRebellionのメンバー、どれも強敵だっただろうね。それにはちゃんとした理由がある。君らを足止めしていたのは全て『パラサイト』率いる遊撃部隊のオペレーターだからさ。あの部隊には選りすぐられた強者が集められている、苦戦するのも無理はない。ただ、恐らく君たちは誰も致命傷を負っていないはずだ。なぜなら僕たちは『君たちを殺そうとしていない』から。……いや、『殺せない』と言った方が正しいかな。彼らと僕に共通するのはその不殺のルールだけ。僕はあの部隊のオペレーターでなければ、認められた強者でもない。異能力も欠点が明確」
話を聞きながら思い返してみると、確かに近衛塔奪還作戦を行ったあの時を彷彿とさせるように、有象無象の数は見張りなどのみに絞られていたように見えた。
「でも僕はここで領主を助け出そうと向かってくる君と戦うように命じられた。不殺の縛りがある僕には実質勝利なんてものは存在しないし、最初から負けが確定した戦いだった。彼らは僕が君に殺されるということを前提としていただろう。領主の身柄はこちらの元にあったんだ、君があの場で僕を殺していてもなんらおかしくは無い。僕が捨て駒として扱われていたのは火を見るより明らかだ。今のRebellionに僕が戻る場所なんてないよ」
「……それが、お前がここに残っていた理由なんだな」
戦ってわかったことなのだが、こいつは明らかにその辺の有象無象よりも強い。攻撃範囲が広く、燃費も良さそうだった。
そんな人間を容易に切り捨てられるだなんて、Rebellionにはどれだけの勢力が集まっているんだ……?
そこで、僕はとあることを思いついた。
もしかしたらこれは許されないことなのかもしれない。だが、なんとなくなんとかなりそうな気がする。
「……お前、名前は」
「…………『鵲……タクト』」
「タクト、お前に行き場がないのなら僕が提供してやる。僕の行動隊に、入らないか?」
ℵ
導かれるまま、私は全力で走った。
息が切れても、どれだけ苦しくても足を止めることなど私にはできなかった。
あいつが敗れたのなら、これからあの人に何があろうと阻止できるものはいないことになる。
いや、この段階であの人にリベリオンが一度も手を出していないことを保証することも、私にはできない。
目の前の緑色の光を必死に追いかけて、もうどれだけ経ったのだろうか。
軈て動きを止めた聖霊に、私も足を止めて周囲を見渡してみる。
だが、そこで目に入った光景はとても信じることが難しいものだった。
「あいつは……!」
そこで目に映ったのは、ハルサが見覚えのある何者かに肩を貸して、どこかに歩いていっている様子だった。
どちらもかなり怪我をしているようで、多くの傷跡に加えて出血も止まっていない箇所があるのが伺える。
しかし、確かに見覚えがある。あの体格、私の目に狂いはないはずだ。だが、だとすると何故……。
何故、あの人を攫った人間とハルサが二人で歩いている……?
お楽しみいただけましたか?
今回の戦犯、決定の瞬間。
では、次は第四十五審でお会いしましょう。




