第四十三審 『絶対的三秒間』
失踪です。
ハルサについて少し言及してあります。
私は……無力だ。
この期に及んで、私は恩人に恩返しすらすることが出来ないなんて。
私は自分を囲む檻の中で屈んで地面を見つめていた。
私が向えないとなると、恐らくハルサがあの人の元に向かうことになるのだろうが、あいつは上手くやってくれるだろうか。
私がこの有様だと、あいつが負けた時の保険がない。認めたくないが、あいつの実力は本物だろう。七聖に匹敵するとも聞いた。
私の実力はあいつに及ばないかもしれないが、あいつが一番にあの人の元に向かうのはプライドが許さなかった。
だが、改めて考えた今、それはあまりにも自分本位で勝手だったことに気付かされてしまう。
「はぁ…………。私、どうしたら……」
その瞬間、何かが私の視界に映り込む。
咄嗟に顔を上げてみると、緑色の光の塊のようなものが目線の先に漂っていた。
その異質な存在にはどこか覚えがあった。
これは確か……。
「聖霊……?なんで……あいつが連れていたはずじゃ……」
その瞬間、これまでに想像していた『最悪の状況』が頭の中で反響する。
まさか……あいつが負けた……?
その言葉が脳裏に過ったとき、私は既に鉄格子に掴みかかっていた。
「おい聖霊!ハルサはどうした!セラム様は……」
そこまで口に出して静止をかけた。
聖霊に問いかけたところで返事など帰ってくるわけがないだろう。
「……質問を変えよう。あんた、私をここの外に出せたりしない?」
問いかけるが、当たり前のように聖霊は返事をしない。
だが、その動きから、どことなく肯定の意志を感じ取ることができた。
そんなことを考えているうちに、その聖霊の輝きは少しずつ強くなり始め、何かを察した私が鉄格子から手を離して少し後ろに下がると、弾ける金属の音と共にその聖霊は私を囲んでいた鉄格子の一部を吹き飛ばした。
その箇所から外に出ると、聖霊は先行するように私の前を通過していく。
着いてこい……ということだろうか。
そうであると信じて、私はその聖霊の後を追うことにした。
ℵ
「これで決着だ。三下」
その声も度重なる爆発音で掻き消され、僕以外に届くことなく失せた。
しかし、これより到来する三秒間は、完全に僕にとっての独擅場。繰り広げられるは絶対的三秒間。
それを唱えたと同時に再び刀を引き抜き、激しく紫色に輝く刀身が姿を現した。
同時に、周囲の景色が一変し、オーブが漂い始める。
……この空間で僕にとっての三秒間。お前にとってはどれだけ短い時間のうちの出来事なんだろうな。
煙と火花で視界は黒く染め上げられるが、僕を襲うであろう爆風を見切って蛇行しながら最後にそいつの姿が見えた場所へと距離を詰めた。
煙を突っ切り、ようやく晴れた視界には、そいつの姿が明確に確認できる。
すれ違いざまに刀を大きく振るい、僕は再びそれを鞘に納めた。
その間……約三秒。
同時に周囲が普段通り動き始め、血が飛び散る音と共に僕の背後にいたそいつは倒れ込んだ。
「……勝負あったな」
前を向いたままそう告げると、背後から弱々しい声が聞こえてきた。
「君の捜し物は、この部屋を出たところにあるよ……早く行くといい」
息も絶え絶えそういうそいつを一瞥して、僕は歩いてその場を離れていった。
ℵ
「おや、領主様と傷だらけの救世主様がお帰りみたいだ」
そう聞き覚えのある声がした方向を見ると、バアルと数日ぶりに見かけるルナがそこには佇んでいた。
「悪い、遅くなった。でも、ちゃんと連れ帰ってきてやったぞ」
「あぁ、よくやったよ。私も、ミロクから協力するよう頼み込まれてここまで飛ばしてきたんだけど、私が手を煩わせるまでもなかったかもね」
「怪我とかはしてないのか?」
「はい、大丈夫です。怪我ひとつありません。いつもと変わりませんよ」
そんな会話をしている中、先程から気にしていた『あること』を確認するため、ルナに一言を告げた。
「あとひとつ済ませないといけない用事があるから、セラムはそっちに任せても大丈夫か?」
「勿論。早く済ませてきちゃいな。私たちはほかのメンバーを引き連れてミロクのところに向かっておくよ」
「助かる。頼んだぞ」
そう告げて、僕は彼女らが僕に背中を向けて遠ざかっていくのを眺め、しばらくしてから身を翻して再び建物の中へ戻って行った。
お楽しみいただけましたか?
現状ハルサは記憶が無いので地雷の存在しない無敵人間です。
では、次は第四十四審でお会いしましょう。




