第四十審 『吹き荒れる疾風、漂う狂気』
失踪です。
今日は悪いことがあったので腹いせにボリューム増しです。(あと四十話記念)
「今回の作戦は、貴様の采配によるものだと聞いているが。どうだ、進行状況は」
「……まず否定しておくが、計画したのは俺じゃない。『あいつ』の指示のもと、この場所で自由に行動しろと告げられている。それと、状況はかなり良い。今のところ全てが掌の上だ。あとはあの白い髪の男、あいつの戦いの行方を見届ける」
「あの青年か。一見に過ぎぬが、奴は只者ではない。あの場にいた誰よりも怪しげな異彩を放っているように見えた」
「それについては同感だ。そうで無ければこのような作戦は行われていないだろうからな。まあそんなことはいい。その青年に加えて不確定要素は『あの女』なんだが……。それさえ上手くいけば全て計画通りだ」
「あぁ、あの女か。不確定要素になりうると言うことは、奴には何か仕掛けていたのか?」
「あとは本人の意思次第だがな。しかし、正直その工程はおまけ程度のものだ。思い通りに動いてくれ得るのならありがたいってくらいだな。そこまで望んじゃいない」
「つまりは、お前がそこまでするほどの利益が生じるということだな?」
「それも確かなことは言えないがな。選択肢は多いに越したことはない、そのための行動とでも思っておけ」
「……そうか。そこまで理性的な考えを持っているとは思わなかったな」
「…………俺はまだやることがある。失礼させてもらうぞ」
ℵ
建物に入った先にある階段を駆け降りていくと、異様に広い場所に出た。
その部屋の奥には見覚えのない何者かが佇んでおり、僕に気づいているようには見えない。俯いて無表情のまま固まっている。
とりあえず前へ進み出ると、床や壁はかなり頑丈そうな素材でできているのが、幾度となく反響する自分の足音から感じ取れる。
「……よくここまで辿り着いた。ここがこの一件の終着点だ」
顔を上げて嫌な笑みを浮かべるそいつと目が合い、感じ取った狂気に僕は無意識のうちに足を止める。
少し長めの青い髪と目、眼鏡、白衣……こいつ、今までのやつとは違う。
恐らく、人としての何かが欠落している。
「いくら噂が立っている君とは言え、彼女を突破してくるとは流石に驚きだね。まぁでも、一筋縄では行かなかったみたいだけど。君のその姿を見れば分かるよ、全身傷だらけ。血も止まっていないだろう。そんな状態で連戦なんて可哀想……なんて思ってないけどね。君がやることは簡単さ。僕を倒す、そうすれば君たちが血眼になって探している領主様は返してあげよう」
「そうか、ならさっさと済ませるぞ」
食い気味にそう言うと、僕はずっと片手に抱えたままだった刀を構えて、目線の先にいるそいつを睨みつけた。
「いいよ。かかってきな」
そいつもそう短く答えると、手のひらから球体に近しい赤い結晶のようなものが生成される。
軈ていくつか作り出したそれらを地面に放り投げると、突如として激しい光を放ち始めた。
咄嗟に危険を感じ取って両腕で顔を覆った瞬間、連鎖的に爆発音が鳴り響き、とてつもない爆風が吹き荒れる。
白煙が周囲に満ちる中、僕は微かに見えたそいつに向かって大きく刀を振るった。
打ち出された紫色の斬撃。それは軌道に残されていた煙を全て払い除け、一直線にそいつの元へ向かっていく。
そして再度響き渡る衝撃音。切り裂かれた白煙の隙間からそいつの姿がはっきりと伺えた。
「なるほど、そういう異能力か。かなり焦ったよ。危うくゲームが終わっちゃうところだった」
どうやら直前で避けられてしまったようだ。
何事もなかったかのように佇むそいつは、先程起こった爆発に巻き込まれていたはずなのに傷一つ受けていない。
「何を驚いた顔をしているんだい?もしかして、一手目から僕が自爆を図るとでも思ったのかな?悪いけど、そこまで馬鹿じゃないよ」
そう言いながら、さらにそいつの手元には同じような赤い結晶が握られていた。
とりあえずわかったことは、あいつが握っているあれはそれなりの規模の爆発を起こす。
そう言う異能力なのかは分からないが、あの赤い結晶は自らの手で生成することができるようだ。
加えて、どうやらあいつはその結晶の爆発による損傷を受けないらしい。つまり、自爆する心配をせずに僕へ攻撃することができる。
「さぁ、まだまだここからだ……!」
気づけば無数に握られていた結晶をそいつは周囲にばら撒き、それらは軈て先程と同様に輝きを放ち始める。
咄嗟に距離を取ろうとした瞬間、吹き荒れた爆風に煽られ、僕は大きく後退した。
着地して、煙の中から姿を現すそいつの様子を見ながら状況を確認する。
……このままでは、あいつに近づくことすらままならないだろう。何か解決策はないのだろうか。
見た感じ、あいつは接近戦を得意としているようには感じられないため、接近すれば優位な状況に持ち込めるかもしれないのだが……。
そいつが結晶を抱えてこちらにゆっくりと近づいてきた瞬間、僕は一つの策を思いついた。
失敗すれば致命傷を受けるのは確実だろうが……このまま逃げ回り続けても、爆発に巻き込まれれば負けの一方的な戦いになりかねない。
そう決心し、そいつがその結晶を投擲した瞬間、僕は即座に地面を蹴って距離を詰める。
ただ、これだけでは爆発に巻き込まれて終わりだろう。
僕は爆発寸前まで迫った一つの結晶を前に足を思い切り振り上げる。
「落とし物だ!今すぐ返してやるよ……!」
僕は速度を保持したまま地面に落ちていた結晶をそいつに向かって蹴飛ばした。
一瞬のうちに目の前に迫った結晶。そいつの顔から始めて余裕が薄れる。
僕の読みが正しければ、こいつはこの結晶の爆発によるダメージを受けない。だが、目の前を覆う火花と煙に抗う術は持たないだろう。
そして爆音と共に散る火花と煙。
僕はそれを一直線に突っ切り、辿り着いたそいつの目の前で、振りかぶっていた刀を振り下ろした。
だがそれは、そいつの咄嗟の回避と同時に、握られていた結晶の爆風で距離を離され、頬を掠める程度に収まる。
軈て流れ出した血を手の甲で拭って、そいつはまた先程のように笑みを浮かべ始めた。
「……君、なかなか策士だね。噂されている程の実力はしっかり持ち合わせているみたいだ」
再び刀を構える僕はその言葉を聞き流し、神経を集中させ始める。
……かなり、体は限界に近い。
負った傷も未だに痛む。そもそも使い慣れていない刀を使っている状態でそれなりの強者と連戦となると、やはり厳しいものがある。
「今度は僕から行かせてもらうよ……!」
お楽しみいただけましたか?
たまにはコメント欲しいな〜〜〜〜〜〜
では、次は第四十一審でお会いしましょう。




