第三十九審 『「彼」の形見』
失踪です。
設定資料の更新中にスマホを付けたまま気絶していました。
空気を切り裂くように放電する刀を構えたそいつが少しずつこちらに近づいてくる。
あまりの圧力に、僕は距離を保とうと、足を擦るようにして無意識に後退してしまう。
この相手で接近戦は正に命知らず。残機があるやつのやることだ。
かと言って、僕は遠距離での攻撃手段を持っていなければ、このレベルの妖者相手に簡単に逃げ切れるとも思えない。
……かなり、詰んでいる。
「助かりたければ『神にでも祈って』おけ。もしかしたらこの状況からでも生きて帰れるかもな」
そう言ったそいつが僕に向かって刀を振りかざそうとした瞬間、聞き覚えのある声がどこかから響いた。
「飛ばされないように屈んでください!」
刹那、目の前のそいつの後方から吹き荒れた突風に、そいつは僕の横を通過して大きく吹き飛ばされた。
僕は咄嗟に腰を低くしてその場を凌ぐ。
軈て風は過ぎ去り、顔を覆っていた両腕を退けると、見知った顔がそこには立っていた。
周囲を見まわして気づいたが、薄く周囲にかかっていた霧が吹き荒れた風によって払い除けられ、視界は明瞭さを取り戻していた。
「すみません、様子を見ていて遅れました。でも、彼の異能力に関する情報はある程度掴めましたよ」
「……と言うと?」
「彼の異能力は電気を操るものであると、見ればすぐにわかると思います。しかし、先程まで周辺にかかっていた霧にもトリックが仕組まれていたんです。彼が放つ電気を漂う霧に伝わせて、攻撃範囲の増強を行っていた。この要素によって恐らく彼の異能力は強化されていたはずです。それを今彼諸共吹き飛ばしましたから、先程と比べて攻撃範囲は目に見えて落ちていると思います」
言われてみれば確かに理屈は通っている。
その証拠に、そいつの刀の輝きは見るからに弱まっていた。
「クソっ……。面倒なことしやがる……」
地面を転がっていたそいつは、立ち上がるとそう吐き捨て、もう一度片手で刀を構え直した。
隣の彼女は周りに聞こえないように声量を絞って僕に耳打ちする。
「私が後方支援します。巻き込まれないようにだけ気をつけてください」
小さく頷き、僕も今一度刀を構えた。
ℵ
「最近の子は……元気でいいねぇ。手がかかるところは考えものだけど」
そこに立っていたのは、どこか見覚えのある白い髪の女。こいつは確か……。
「凩……ルナ……?」
「おや、正解だね。君は確かミロクの護衛をしてたっけ。ミロクから緊急で連絡が来て、『連絡が取れないから応援に向かって欲しい』って頼み込まれて。それで来てみればこの状況、多対一かと思ったけどそう言うことでは無さそうかな」
そう言うと、そいつはどこからともなく片手に大鎌を出現させ、軽く振るって構えてみせる。その姿にはどこかぎこちなさを覚えた。
加えて、その鎌にはかなり年季が入っており、所々劣化して錆びついているように見える。
「恐らくこの四人の中から本物を探し当てなきゃならないんだが、本体も分身も姿を消したりできるようで、かなり難航している」
「盤面を掻き乱すことも、火力を出すこともできる異能力ってことか。相性次第ではかなり面倒だね。それと、私からあまり離れないように。じゃないと君を守ってあげられないからね」
そう告げられ、俺は首を傾げながらも簡単に返事を返した。
続けるように、彼女は声量を抑え、加えて言葉を並べる。
「……まず、君には告げておかないとね。恐らく、この勝負は決着がつかない。どちらかが力を全て使い果たすか、撤退する以外で戦闘を終了することができないだろうね。加えて、相手を撤退に追い込むのもこのままの状況じゃ無理だ。君には申し訳ないけど、ハルサが全てを済ませてくることを信じて、私たちはここを抑えるしかない」
「さっきからお前は何を言っている……?意味が全くわからないんだが。決着がつかないと解っているのならハルサの方に応援に向かうのが最適解じゃないのか」
「いや、それはもちろん考えたよ。でも、彼が向かって行った先には既に、彼だけを歓迎するかのように、巨大で分厚い結界が展開されていて、部外者は立ち入れないようになっていてね。もう一人の男の子の方はもう応援が到着してたから、私は君の元に向かおうと思った訳さ。それと、どう言う訳か、Rebellionは現状私たちを殺すことはできないらしい。だからこのまま戦っても君がやられることは無かっただろうけど、念には念を。癇癪を起こした結果殺されても困るし」
「……まあ、なんとなくは分かった。とりあえず俺たちは死なないようにすればいいんだな」
「つまりはそういうこと。死ななきゃ勝ちさ」
俺は指の関節を鳴らし、少し口角を上げてにやりと笑ってみせた。
お楽しみいただけましたか?
時々、なんでこんなに複雑な異能力にしたんだろうと自分でも思うことがあります。
では、次は第四十審でお会いしましょう。




