第三十六審 『光あれ』
失踪です。
なんとストックしていたこの先のストーリーを紛失。本当に災難です。
交差する刃、散った火花の影響で、そいつの手元が照らされて顕になる。
一度刀を弾き返すと、そいつは再び霧の中に姿を消した。
そうして再び周囲に神経を張り巡らせる。
僅かに感じる足音。空気の流れから、僕は大きく掌を薙いだ。
すると、微かに何かに触れた感覚。
一瞬訪れたその感覚と同時に、異能力の発動を体が感知する。
それを最後にそいつの気配は後退していき、徐々に霧が薄くなっていった。
僕が触れたであろう露出していた片腕の一部は灰色に変色し、罅割れた箇所はバラバラに崩れていく。
「……欠損はしてないか、ラッキーだな。僕の能力は『死壊』《デス・トラクション》、起こる現象はお前が体験した通りだ。詠唱は必要ない。……それと、この霧によるジャミングはお前の仕業だな。お前の異能力は電気を操る。そんな異能力を持つお前が霧を発生させられるなら、この現象の原因だと考えても納得がいく」
「それがどうした。スマホ離れのきっかけを提供してくださりありがとうございますとでも言いに来たのか?」
「どれだけ脳天気な思考をしていたらその結論に至るんだ。僕はそこまで現代人じゃないんでな」
そいつは再び刀を構え、大きく深呼吸をする。
「『神威』《レット・ゼア・ビー・ライト》」
そいつの片腕はほとんど機能不全に陥っただろうが、もう片方の手で構えた刀は徐々に放電し始め、禍々しく輝きを放っていた。
……流石に、これは近づくことが出来ない。
刃を交えれば、感電して瞬殺だろう。
あまりにも相手が悪い。そう思わずには居られなかった。
歩き出したそいつは少しずつ歩く速度を上げてこちらに近づいてくる。
こうして僕は、刀を構えたまま少しずつ後退する以外の選択肢を失った。
ℵ
「そっちじゃないよ」
「ほらこっち」
「こっちだって」
どれが本体なのかも分からず、四方から聞こえる同じ人間の声に頭を掻き乱されながら、俺は拳を振るい続けていた。
どこに現れるそいつの姿も、変わらずピストルを持っているが発砲する様子は見えない。
そのため、俺が見ているのがただの偽物なのか、影分身したこいつ自身で、こちらに干渉することもできるのか分からなかった。
だが、見た感じ全ての個体に実体はあるようで、俺の攻撃はこいつらにも届く。
「勘が鈍いねぇ。こんなのも見破れないなんて」
「黙れ……!」
そう言った個体の顔に俺の拳が叩き込まれ、それは地面に倒れる前に白い光を淡く放って消え去った。
また偽物か……。
この状況で本物を探し出すのは、生い茂った草むらの中から一本の針を探し出すような、まさに至難の業そのものだろう。
「クソっ……!」
近くの建物の上に立っていたそいつがこちらにピストルを向けているのが視界に飛び込んできた。
咄嗟に体を捻り、顔のすぐ横を通過していく弾丸は、首元を掠めて通過していく。
……となると、分身は他者に攻撃可能なわけだ。
つまり、攻撃が加えられないからこちらへのアクションを起こしてこなかったのではなく、揶揄われていただけなのだろうか。
だが、まずい。
こうなってしまうと、実質この状況は多対一になるため、必然的に俺が不利な状況に立たされていることになってしまう。
……いや、冷静になれ。
見たところ、先程から分身の数は四体を上回る様子は見えない。となれば、この数が分身の限界である可能性もある。
そして恐らく、この中にいる本体を探し当てない限り、分身は数を減らそうともいくらでも湧いてくるため、この戦いは終わりを迎えることはない。
そうこうしているうちに、四方向から飛来するいくつもの弾丸。
防御の手段を持たない俺は、回避するだけの状況に持ち込まれてしまう。
見切るのに必死になっていたその瞬間、同時に複数の弾丸が目と鼻の先に迫る。
回避は……厳しそうだ。
そのままそのうちの一発が俺の腹に打ち込まれ、血液が飛び散る。
すると一度、周囲にいたそいつの分身が姿を消し、再び背後から声が響いた。
「言っておくけど、この中から本体を探し出すのは無理だよ。君を馬鹿にしているとかじゃなく、単純に不可能だ。だからこの勝負、俺が負けることは無い」
「本当に喋るのが好きだな、お前は」
「君はそうじゃないんだったっけか。というか、そもそも俺の目的は君を始末することじゃないし、このままだと千日手だ。ちなみに、君にはこの状況を打開する策があるのかな?」
「……さぁな」
そう言うとそいつは嘲笑し、再びその姿は徐々に掠れて消えていった。
こいつの動きを見れば分かる。こいつはまだほとんど本気を出しちゃいない。
そもそも、こいつの異能力があまりにも面倒だ。本当にこの中に本体が紛れているのか疑ってしまう程に。
それか何か他のカラクリがあるのか……。
そう考えながら、俺はもう何度目か、周囲を見渡して気配を感じ取ろうとする。
すると、視界に入ってくるそいつの分身。
それらは全てこちらに銃口を向けていた。
腹部から発される痛みを堪えてすぐさま地面を蹴り、迫る弾丸を回避しつつそいつらとの距離を詰めて一人ずつ落としていく。
一人、二人、三人……と。
……一人、足りない。
それに気がついたのも束の間。思考に駆られた一瞬のうちに、俺の背後から一発の銃声が鳴り響く。
お楽しみいただけましたか?
18時に間に合わない日は30分遅れで更新します。
(今回は間違えて公開した挙句、非公開にする方法が分からなかったのでこのまま行きます)
では、次は第三十七審でお会いしましょう。




