第三十三審 『Devil's whisper』
失踪です。
友達にアカウントバレました。
「……お前は、ノーヴェル領領主の護衛だな。はぐれた仲間を探しているのか?」
私はその問いに答えず、臨戦態勢のまま目の前に立つそいつを睨み続けていた。
……いや、答えなかったというより『答えられなかった』のだろう。
こいつから溢れ出る威圧感……どう考えても並大抵の妖者ではない。それこそ七聖に匹敵するレベルだった。
先日工場であいつと鉢合わせた時以上に、体はこの場からの撤退を要請している。
だが、赤いメッシュに、黒一色の装い。どこかで見覚えがあるような気がする。
「まず、名を名乗るところからだな。俺は『パラサイト』、Rebellionの幹部だ」
「そんなこと聞いてない。お前は何を目的に私の前に現れた」
圧倒的な威圧感だが、敵意は感じ取れなかった。だが、それが現状と噛み合わない、不自然な点ともなってしまっている。
私を始末しに来たのでなければ、何をしに目の前に現れたのだろうか……?
「お前はそこまで何に怯えている?別に、俺はお前を殺しに来た訳ではない。俺たちの役目は侵入者の足止めだからな」
「であれば、始末してしまうのがいちばん早いだろう。私を今ここで殺さない理由はなんだ」
「死なれると困るからだ……まだな。芽を摘むには時期尚早だ。他の奴らを足止めしているこっちのメンバーはどうしているか分からないが、少なくとも俺みたく会話を試みている奴なんていないだろうな。もう既にどこかで戦いが始まってると思うが……。大抵の人間は、『勝てない相手』に勝負を挑むほど、命知らずじゃないだろう。だからこうやって敵意を見せていなければ、話し合う時間さえもとっている」
そいつの態度は一貫して落ち着いていて、淡々と喋り続けた。その間も私は構えを解かない。
「だが、お前が戦いたいと言うのなら話は別だ。できることなら生かしておきたいが、死を望むと言うならくれてやるのが俺のやり方だ。お前は……どうだ?」
そう問われるが、私の中の答えは依然として変わらない。
戦わなくていいのなら戦いたくなんてない、今すぐにでも逃げ出したかった。
「……私たちを始末したいわけではないのなら、なぜお前らは私の行く手を阻む。何を目的としている?」
「残念だが、目的を明かすことはできない。お前たちの行く手を阻む理由は、そうだな……」
そいつはそう言うと、少し考える仕草をした。
「今、お前たち四人の中で唯一誰にも行く手を阻まれていない奴がいる。……誰か、わかるか?」
そう問われ、瞬時に一人の顔が頭に浮かんだ。
私たち四人の中で唯一、素性が全くと言っていいほど割れていない人物。
それだけではあるが、私がそいつを怪しむには十分すぎるのだ。
「あいつを目的地に到着させる必要がある。そこに、お前たちの応援が入ると俺たちの計画の実行は困難になる」
「なんで……あいつを……」
「それも答えられない。それはほとんど俺たちの目的を聞いているようなものだからな。にしても……ここにお前を通すにはまだ少し早いな。まだお前にはここでじっとしていて貰わないとならん」
その言葉に私は身構えるが、そいつが取りだしたのは、なにか金属の光沢が目立つ、道具のようなもの。武器には見えなかった。
そいつはそれを地面に投げ捨て、もう一度私に向き直る。
「……黒幕は案外、お前の近くにいるかもな」
思わず、思考が固まってしまった。
その言葉はまるで、私の思考を見透かしたかのようで、だからこそ驚きを隠しきれなかった。
「俺はそろそろ失礼する。仲間に先に見つけて貰えることを祈るんだな」
吐き捨てて、ここから立ち去ろうとするそいつを、慌てて追いかけようとしてしまうが、突然足元に異変が生じる。
咄嗟に視線を下に向けると、先程あいつが投げ捨てた金属の塊のようなものが、今まさに形を変えようとしている最中だった。
……まずい。
瞬時に感じとって体を反らすと、それは融解し、私を囲うようにして地面に広がったそこから、鉄柱を生成して行く手を阻んだ。
私は傍から見れば、牢屋の中に閉じ込められているように見えただろう。
そこから動けなくなった私に目もくれず、夜の闇に消えていくそいつは、私に聞こえるくらいの声量で一言、何かを告げていった。
「殺されなかっただけ感謝するんだな」
お楽しみいただけましたか?
この作品に登場する女性キャラの平均身長は実は結構高いです。(現状ルナがいちばん高い)
では、次は第三十四審でお会いしましょう。




