第二十二審 『アンフェア』
失踪です。
暑くなって来ましたね。勘弁して欲しいです。
あのメリーゴーランドが回り始めてから、妙な感覚が体を伝っていた。
それは、体に蓄えられた力を無理やり引っ張り出されているような……そんな感じたことの無い感覚だった。
考えているうちに、目の前のそいつの姿が一瞬にして消える。
それを目の当たりにした僕は、周囲を見渡す間もなく近くのそいつらに告げた。
「ケイ、ミロク、後衛を頼めるか?」
静かに頷きを返す二人、横目で隣にいたバアルに視線を送った。
「バアル。僕と前に出てくれ」
「あぁ、構わん」
「なら、お前たちは距離を取りながら展開して───」
「ハルサ!前だ!」
横目で後ろを見ながら話していたため反応が遅れてしまったが、それに気がついた瞬間反射的に体を逸らして、目の前に迫ったそいつが振るう刃物が目と鼻の先を通過していく。
「『懴撃』《グロウ・スラッシュ》……!」
見計らって手を構えたケイがそう唱えると同時に、振るわれていたそいつの刃物は、突如として目の前を通過していった不可視の何かに弾き返された。
そいつはそのまま少し距離をとって佇む。
「死にたくないならしっかり警戒しろ。相手の格の違いを理解していないのか?」
こいつは……恐らく気配が感じとれない訳じゃない。瞬間移動の類でもなさそうだ。
移動速度が規格外すぎて、気配を感じとることができても体がそれを追うことができないのだろう。
「ハルサ!行くぞ!」
覇気を込めたその声で僕に呼びかけるそいつに合わせて、僕は構えと共に、大きく深呼吸して柄に手をかけ詠唱。刀を一気に引き抜いた。
途端に周囲を浮かび始めるオーブ。
紫色に発光する刀を振りかぶり、駆け出した僕は目の前のそいつに向かって大きく刀を振るった。
振り抜いたタイミングで周囲を浮かんでいたオーブが消え去るが、やはり容易く避けられてしまっていたようだ。
尚も刀を振るい続けるが、そいつはそれを軽々と回避し続けながら僕に問い掛け始める。
「随分珍しい武器を使ってるんだねぇ。それとも、これは君の能力によるものなのかな?恐らく君が刀を引き抜いたタイミングで周囲に浮かび始めたオーブが、今の現象の鍵なんだろうね。例えば、君が刀を抜いてオーブが浮かんでいる数秒間、自分以外の全ての時間の進行速度が低下する……とか。君だけが速くなっているともいえるのかな?ただ相手が悪かったね。速度と結界術しか取り柄がない僕にかかれば、それを回避する程度造作もない。でも確かに、初見での対処は難しいね。剣聖の彼女も、さすがにこれは予想出来ていなかった────」
「随分お喋りなことで……!」
距離が開いた隙を突いて大きく刀を振り上げると、そこから打ち出された紫色の斬撃が、そいつの頬を掠めて通過していった。
溢れ出した血を手の甲で拭いながら、そいつは再びナイフを握り直す。
「……やるね」
「七聖ともあろうお方に褒められるだなんて光栄だな」
嘲笑気味にそう言うと、そいつの背後に拳を振り上げる何者かの影が現れた。
軈て振り下ろされた拳はそいつの背中に直撃し、同時にそれを中心にして周囲の空気を揺るがすほどの凄まじい衝撃波が一瞬にして通過していく。
目にも止まらぬ早さで弾き飛ばされたそいつは、その先にあった施設の壁に叩きつけられ、大きく砂埃が巻き起こる。
……やはり、間違いない。いつもより妖刀の出力が高くなっている。
いつもは負荷をかけすぎないように抑えているため、そういった意図はないのだが、無意識のうちに出力が上がってしまっていたのかもしれない。それか、もしくは……。
未だに甲高い音を上げながら回り続けるメリーゴーランドに視線を向けると、回りだした時よりも少しだけ速度が上がっているような気がした。
そう考えていた瞬間、接近してきていたその気配に気が付き、咄嗟に刀を薙ぎ払う。
回避を繰り返すそいつに向かって、赤色の何かが数回の破裂音と共に飛来し、そいつはナイフを振るってそれを弾き返すが、そのうちの一つはそいつの腹部に打ち込まれて血が飛び散る。
音の方向に視線を向けると、ピストルを構えたミロクの姿がそこにはあった。
弾かれて地面に転がった弾丸からは煙が立ちのぼっており、蹌踉めくそいつの腹部からは肉が焼けるような音が聞こえる。
俯いたそいつは小さく笑い声を漏らしはじめ、軈てその声は高笑いへと変貌していく。
それを目の当たりにした僕らは揃って構えをとるが、そいつの後ろにあるメリーゴーランドに異変が生じていることに僕は気がついた。
「まだまだショーはこれからだよ!さぁ、僕と一緒に朽ちるまで廻り続けようじゃないか!!」
お楽しみいただけましたか?
この世界線には、個々のそれぞれの異能力の他に、後から習得できる『術』が存在します。そのうちの一つに結界術が含まれますが、習得難易度がとても高く、ものにできる人間はひと握り。ましてや実践で積極的に使っていけるレベルにまで到達できている人間は数える程しかいません。どれだけ鍛錬を積んだとしても、その領域に辿り着けない人もいます。
また、このような術を習得した人、術を中心に戦う人のことを『術師』と呼びます。
本編に入れれるかわかんなかったのでここで解説しちゃいました。
では、次は第二十二審でお会いしましょう。




