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何でも屋に招かれた記憶喪失で妖刀使いの僕は、全ての依頼を切り刻もうと思います。  作者: 失踪 -Sisso-
第一部 『黎明奇譚 Restart The World』

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第十五審 『躾』

失踪です。

なんとこの作品がランキングに載ったらしいです。

そんなまさか。

「ようこそお越しくださいました。あなたが来訪予定の方ですね。どうぞこちらへ」


ルナから伝達された場所へ足を運んでみると、目に入ったのは少し大きめの屋敷。玄関をノックして少し待機していると、側近と思しき女に屋敷の中へ案内された。

僕が領主の家と聞いて想像していたものとは異なっており、かなり開放的な印象を受ける。各所に設置されている窓からは傾き始めた日光が余すところなく差し込んでいた。

辿り着いた扉の前で、僕の前を歩いていた彼女は数回ノックする。


「失礼します」


扉が開くと、同じように窓から差し込んできた光がその隙間から漏れ出る。

見回してみた感じ、領主の家と聞いて思い浮かべるような大きな屋敷とは程遠く、かなり家庭的に感じてしまう。

そんな部屋の中に置いてある椅子に、何者かが腰掛けているのも目に入って来た。


「お越しいただきありがとうございます。どうぞお掛けください」


促されるまま対面の椅子に腰掛け、前を歩いていた女は腰掛けている彼女の後ろに立った。


「はじめまして。私はノーヴェル領領主、『樺 セラム』です。お気軽にセラムとお呼びください。こっちは私の護衛の『(おおとり) ケイ』です」


その紹介に預かったそいつは、何も言わずに僕に対して軽く頭を下げた。


「仕事の内容について、ルナさんから聞いていますか?」


「護衛とだけ聞いてるな、それ以外のことは何も」


「おい、口の聞き方─────」


「大丈夫です。客人の前ですよ、慎んでください」


割って入ろうとしてきた側近の言葉を(さえぎ)り、軽く注意すると話を続けた。


「それなら、少し詳しく説明しておきましょうか。明日、アイン領の領主と面会の予定があります。あの方には申し訳ないんですが、アイン領はお世辞にも治安が良いとは言えないので……。そこであなたに依頼したいのが私の護衛というわけです」


アイン領とは、ここノーヴェル領に隣接する領土のこと。治安が悪いという話も前にどこかで耳にした気がする。


「それはいいんだが、なんでぽっと出の僕にわざわざ依頼しようだなんて考えたんだ?それに、そこのそいつは護衛なんだろう。僕に依頼しなくたって何とかなったんじゃないのか?」


「まぁそれはそうなんですけど、先日近衛塔での一件がありましたし、最大限警戒しておくべきかなと思いまして。それに、ここ数日間、ケイは働き詰めでしたし、少しでも負担を軽くするべくあなた方に依頼させていただきました」


「……まぁ、なるほどな。それと、ルナからは『僕個人に依頼してきた』と聞いてるんだが、その理由を教えてくれるか?」


「それも先日の近衛塔の一件の影響です。七聖の一人と戦って撤退させるほどの実力だったと聞いているので。それに、それほどの実力をお持ちなら、あなたの事もある程度知っておくべきかなと思いまして」


まぁ、筋は通っている。

七聖がそれだけ名高いものであるのなら、その一人を撤退に追い込んだ僕はそれなりの実力者として見られていてもおかしくはない。

だとするなら、それに少しでも対抗できていた僕を、彼女らとしても警戒せざるを得なくなってしまうのだろう。


「なるほどな。元々の護衛はその間は休ませたりするのか?」


「そうしてあげたいのも山々なのですが……。やはり彼女がいないと安心できなくて、この件が済んだら休暇を与えるってことで、本人には申し訳ないですけど今回の面会にも着いてきてもらうことになっています」


「了解だ。今日は他に何かやることはあるのか?」


「そうですね……。そういえばまだお名前を聞いていませんでした。教えていただいてもよろしいですか?」


「ハルサだ。前提としてだが、僕は出身であるスラムにいた頃より前の記憶が全て欠落している。過去のことは何を聞かれても答えられない」


「そう、ですか。ありがとうございます。今日のところはもう帰っていただいて大丈夫です。集合時刻は後ほど連絡致しますので、また明日お越しください」


そう言って席を立った彼女に案内され、二人に見送られながら僕はその家を後にした。外に出ると今にも消えそうな橙色の光が僕を照らす。

……もう夜が近いな。そう考えながら周囲を見回しつつ歩いていると、ふと背後に気配を感じ取る。


「……なんの用だ」


振り向くことも無く察した張り詰めた雰囲気。

背後にいるであろうそいつに問いかけると、高圧的な声色で返事が返ってくる。


「問おう。お前は何者だ」


「それは僕がいちばん知りたいことだな。さっきも言ったが、僕には過去の記憶がまるで残っていない。だから今の僕にはその質問に答える(すべ)がないんだが……それとも、お前が教えてくれるのか?」


「馬鹿を言うな。私が言いたいのはただ一つだ。お前の存在が彼女に危害を及ぼすようなら、私は真っ先にお前を始末する」


「そうか。勝手にどうぞ。……まぁ、お前程度が僕を始末できるとは考えにくいが」


「なんだと────!」


距離を詰めようとしたそいつに合わせて刀を手に取って振り返り、鞘に収まったままの刀の先をそいつに向ける。


「よく吠える犬だな。領主はどんな(しつけ)をしてるんだか。お前の愛する領主様が自分以外の護衛を雇うのがそこまで気に入らなかったか?」


言葉を連ねる(ごと)に、動きを止めたそいつの僕を突き刺す視線は段々と強くなっていく。


「お前の実力がどれだけのものかは知らないが、威勢は一人前だな。吠えることができるうちに吠えておけよ」


そう僕は吐き捨てて、鼻で笑いながら振り返り、その場を後にした。

……柄にもなく少し苛立ってしまった。

まぁ、凶暴な犬には躾が必要だ。これで良かったということにしておこう。

お楽しみいただけましたか?

新章開幕。早速護衛とバチってますね、波乱の展開が待ち受けている予感がします。


では、次は第十六審でお会いしましょう。

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