第百八審 『刻の追跡』
失踪です。
もう時間がありません。
「そうなんだ。再現したと言っても、同じ過ちは犯さないようにしたかったんだろう。一つは中心部に、三つは外部に露出している。それぞれ破壊することが、ここにいる全員が助かるための最低条件だ。制限時間は今から『約三分』。これを過ぎると今度こそ時間切れになる」
僕ら二人を見ながら告げられた彼の言葉に頷くと、少しだけ笑顔を見せた。
「そっちは任せたよ。僕はあれの動きをどうにか妨害できないか試してみる。ちなみにあれは今、展開されている結界にぶつかって、進路を妨害されている状態だ。察するに、結界はどの道もう長くは持たないだろうけど、今の状態だと、君たちの攻撃は結界に阻まれるから、仕掛ける時はこの領土を覆っている結界を解除することになる。準備が出来たら声をかけてくれ」
結界を解除、ということはかなりのリスクが伴う。焦っても仕方の無い状況ではあるが、慎重にならざるを得ない。
「私はこっちを、ハルサも他のどちらか一つを頼むよ」
「あ、あぁ」
そもそも、近づいてきているとは言えまだ対象との距離はかなり離れており、僕はこの距離に対応した攻撃手段など持ち合わせていない。
ルナはどうせ何か持ち合わせている。心配無用だと思うのだが、僕はどうするのが正解なのだろうか。
そんなことを考えていた時、視界の隅に緑と赤の光がちらついた。
「エーレ……アスター……?」
僕が保有している聖霊と、フレアから預かっている聖霊だ。
その聖霊たちが、『任せろ』と言わんばかりに僕の周囲を舞った。
「君、聖霊術師だったのかい?随分と多彩だね」
そんな僕の姿を見て、意外そうにイザナギは言った。
聖霊術式というのは、そんなに才能が必要なものなのか……?
「『食屍龍』、出番だ」
ルナの声と同時に、建物全体が揺れ、咆哮が轟いた。やはり何か策があるようだ。
僕は聖霊たちに再度視線を向ける。
「お前たち、やれるのか?」
どことなく、その問いかけに肯定の意思を感じ取れた。とは言えこういった経験はない。とりあえず僕が狙うべき対象である一つの核に狙いを定め、それに向かって手を構えてみる。
すると、その両隣に聖霊が構え、これまでよりも強く輝きを放ち始めた。
「……準備完了だ」
「私も大丈夫。いつでもどうぞ」
「じゃあ、カウントが零になったら解除する。集中しな」
僕の頬には汗が伝い、固唾を飲んだ。
「三」
「二」
「一」
「エーレ、アスター─────」
「『食屍龍』─────」
一気に空気を吸い込み、構えた手に力を込める。
「……零」
「「放て!!」」
響き渡った二人の声。射出されたそれらによって、とてつもない衝撃波が放たれ、激しい輝き共に周囲の空気を震わせた。
僕の手元から放たれた二色の光束は、螺旋状に捻れて目にも止まらぬ早さで直進していく。
狙いは定まっている。このまま行けば核に直撃するのは間違いないだろう。
現段階で、残り時間は二分を切ろうとしている。
その瞬間、僕らが放った光束は狙い通り核に直撃。正確に中心部分を貫通し、生じた衝撃波により破片が飛び散ったのがここからでも分かる。
ふたつの核は跡形もなく粉々になり、残りは周囲を漂うものと、中心部に存在するもののみ……なのだが、ここで問題が生じた。
一連の流れで生じた激しい衝撃により、対象となる太陽が回転。若干軌道が逸れてしまったらしい。
本来、それ自体はなんの影響もないはずなのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
「核が…… !」
回転してしまったことにより、僕らの位置からでは、外部に露出していた核を目視できなくなってしまった。
「イザナギ、核の位置は?!」
「特定はできる。でもこの位置から狙うのは至難の業どころじゃない」
会話に割り込むように、僕らが立っている地面そのものが大きく揺れる。
轟音と共に、この階層の壁が丸ごと吹き飛び、一面の外の景色が視界に映りこんだ。
イザナギも、ルナも、オルタでさえも、この状況は考慮しきれていなかったのだろう。
既に、残り時間は一分を切った。
迫り来る偽りの太陽をただ直視していた時、なにかの気配を感じ取って咄嗟に周囲を見渡すが、それらしいものは見当たらない。
再度空を見上げると、見覚えのあるいくつもの巨大なオブジェクトが畝った軌道を描きながら一気に空へと伸びていくのが見える。
陽の光を反射するその正体は『氷』だった。
それを目で辿り、根本周辺を凝視すると、蒼く輝く何かがそこにはある。
「アゼム……?」
お楽しみいただけましたか?
四章まで一部に入れるか迷ってるところです。
では、また次回。




