第8話「楽園の名はアヴァロン、そして土塊の兵団」
ドワーフの一族が仲間に加わったことで、俺たちの拠点は一気に活気づいた。
ドーガンを筆頭とするドワーフたちは、まさに創造の申し子だった。俺がスキルで掘り出した高品質な鉱石を使い、彼らは寝る間も惜しんで槌を振るった。
「カイよ! 見ろ! お前のスキルで作った土から精製した『大地鋼』で、最高のクワを打ってみたぞ!」
ドーガンが、完成したばかりのクワを自慢げに見せてくる。
それは、黒光りする美しい農具で、驚くほど軽く、そして尋常でないほど頑丈だった。試しにそのクワで地面を耕してみると、まるで豆腐でも切るかのようにサクサクと土が入っていく。作業効率が倍以上になった。
彼らは農具だけでなく、俺たちのために頑丈な武具や、便利な生活道具も次々と作り出してくれた。エリナは魔法の詠唱を補助する杖を、ルルは身を守るための軽い胸当てを贈られ、大喜びしていた。
人が増え、村が豊かになっていくのは喜ばしいことだ。
だが同時に、新たな問題も浮上してきた。防衛の問題だ。
これだけ豊かで目立つ村になれば、いつ悪党や魔物に狙われるかわからない。以前のようなごろつきならまだしも、大規模な盗賊団や、強力な魔物の群れが来たら、今の戦力では対処しきれない可能性があった。
「防衛のための兵力が欲しいな……」
俺がそう呟くと、エリナが難しい顔で言った。
「兵、ですか……。エルフの戦士をここに常駐させることも可能ですが、あまり事を大きくしたくはありません。それに、我々は森を離れることを良しとしませんから」
「だよな……」
どうしたものかと思案していたとき、俺はドーガンたちが粘土をこねて、酒を飲むための杯を作っているのを見て、ふと閃いた。
(土壁や家が作れたんだ。粘土をこねて、人形だって作れるんじゃないか?)
つまり、ゴーレムだ。
土や石でできた、魔法の巨人。俺のスキルなら、生み出せるかもしれない。
思い立ったら即実行だ。
俺は広場に移動すると、スキルを発動させた。
イメージするのは、屈強な兵士の姿。身長は二メートルほど。全身が硬い岩石で覆われ、命令に忠実に動く、頼れる守護者。
「いでよ、我が兵団! 大地の守護者!」
地面が盛り上がり、みるみるうちに人型を形成していく。
手足が生え、胴体ができ、頭部が形作られる。そして、ゴゴゴ……と音を立てて、土と石でできた巨人が一体、ゆっくりと立ち上がった。
周囲で見ていたルルたちが、感嘆の声を上げる。
完成したゴーレムは、俺がイメージした通りの、無骨で力強い姿をしていた。
俺は試しに、命令してみることにした。
(よし、まずは……右手を上げてみろ)
心の中で念じると、ゴーレムは少しぎこちない動きで、ゆっくりと右腕を持ち上げた。
(成功だ!)
続けて、歩行、敬礼、その場で腕立て伏せなど、いくつかの命令を試してみる。
ゴーレムは、俺の命令を完璧に理解し、忠実に実行してくれた。
「カイ様、すごいです! お人形さんが動いてます!」
「これは驚いたな……。カイ、君は本当に規格外の存在だ」
「ほう! こいつは頼もしい番兵になりそうだわい!」
ルルもエリナもドーガンも、大興奮だ。
これなら、村の防衛を任せられる。
俺は調子に乗って、次々とゴーレムを生み出した。
数時間後には、総勢三十体からなるゴーレム兵団が、村の広場に整列していた。その光景は、なかなかに壮観だ。
「よし、お前たちには、今日からこの村の警備を命じる!」
俺がそう宣言すると、ゴーレムたちは一斉にガシン! と敬礼のポーズをとった。
だが、これだけのゴーレムをただ遊ばせておくのはもったいない。
俺は、彼らに平時の仕事を与えることにした。
「お前は、畑の水やり担当な」
「君たちは、伐採した木の運搬を頼む」
「そこの君は、ドーガンの鍛冶場で、ふいごを踏むのを手伝ってやってくれ」
ゴーレムたちは文句一つ言わず、それぞれの持ち場へと散っていく。
クワを器用に持って畑を耕すゴーレム。巨大な丸太を軽々と運ぶゴーレム。ドワーフたちと一緒に槌を振るうゴーレム。
その光景はどこか愛嬌があり、村の子供たちがその後ろをついて回るようになった。
特に、農作業を彼らに任せて最適化できたのは大きかった。おかげで俺は、新たな作物の研究や、村の設備投資に、より多くの時間を割けるようになった。
ある夜、俺は徹夜で作業を続けるドーガンに声をかけた。
「ドーガン、徹夜で鍛冶をするのは禁止だ。良い武具を作るには、魂の休息という『メンテナンス』が必要なんだ。俺はかつて、休むことを忘れて心が壊れていく奴らを山ほど見てきた。このアヴァロンでは、絶対にそんな思いはさせない」
ドーガンは目を丸くした後、太い指で目頭を拭って静かにうなずいた。
村の発展は、さらに加速していく。
エルフとドワーフが協力して作った美しい住居が立ち並び、畑には色とりどりの作物が実る。夜はライトリーフの光が灯り、広場ではいつも誰かの笑い声が響いている。
噂を聞きつけ、人間からの迫害を逃れてきた獣人族の家族などが、少しずつ移り住んでくるようにもなった。
そんなある夜、俺たちは完成したばかりの村の集会所に集まっていた。
「これだけ大きな集落になったのだ。そろそろ、名前が必要ではないか?」
エリナの提案に、みんながうなずく。
「うーん、名前かぁ。『カイ村』とか?」
「カイ様のお名前、素敵です!」
「いやいや、安直すぎるだろ……」
「ふむ……全ての種族が争わず、豊かに暮らせる理想郷。まるで、古の伝説にある『アヴァロン』のようじゃな」
ドーガンが、自慢の髭をなでながら言った。
アヴァロン。伝説に謳われる、英雄が眠る常春の楽園。
「アヴァロン……」
その響きに、俺たちは顔を見合わせた。
「……いい名前ですね。私たちの村に、ぴったりです」
エリナが静かに微笑む。
「アヴァロン! かっこいいです!」
ルルの赤い瞳が、夜の闇の中で嬉しそうに揺れた。
「決まりだな。今日から、この村は『アヴァロン』だ!」
俺がそう宣言すると、集会所は大きな歓声と拍手に包まれた。
爆ぜる焚き火の音が夜空に吸い込まれていく。炎に照らされた広場では、エルフとドワーフが同じ火を囲んで酒を酌み交わし、異なる種族の笑い声が重なり合う。かつて居場所のなかった者たちの熱気と、夜風に混じる焚き火と肉の焦げる匂いが、俺たちの間を吹き抜けていく。




