第12話「王国の使者と、独立の狼煙」
南の砦での一件から一月後。
アヴァロンには、王国からの正式な使節団が訪れた。
率いているのは、宰相の側近であるという、見るからにエリート然とした文官だった。彼は、俺や村の代表者たちを前に、王からの親書を芝居がかった仕草で読み上げた。
その内容は、俺の予想通り、そして最悪のものだった。
要約すると、こうだ。
『アヴァロンの功績は認める。よって、その功に報い、王国の直轄地として庇護してやろう。村の代表者カイには、名誉男爵の位を与える。ただし、村の生産物、鉱物資源の管理権は、全て王国に譲渡すること。また、ゴーレム兵団は解体し、王国騎士団の指揮下に入ること』
ふざけるな、と誰もが思った。
それは庇護などではなく、完全な支配と搾取の宣言だった。
「……と、いうのが王陛下のご意向である。賢明なる諸君なら、この寛大なる申し出の意味がわかるであろうな?」
使者は、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
俺たちの返事など、聞くまでもないと思っているのだろう。
集会所の中は、重い沈黙に包まれた。
エリナは静かに怒りを湛え、ドーガンは今にも飛びかかりそうな勢いで拳を握りしめている。ルルは、不安そうに俺の服を掴んでいた。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、使者に向かって、はっきりと告げた。
「お断りします」
その一言に、使者の笑みが凍りついた。
「……な、なんだと? 聞こえなかったな。もう一度言ってみろ」
「だから、断るって言ったんだ。このアヴァロンは、誰にも支配されない。俺たちが、俺たちの手で作り、守っていく。王国だろうと、魔王だろうと、それは変わらない」
俺の言葉に、集会所に集まったアヴァロンの住民たちから、おおっ、という賛同の声が上がる。
使者の顔が、みるみるうちに怒りで赤く染まっていく。
「貴様……! 王陛下の決定に、逆らうというのか! それが何を意味するか、わかっているのか!?」
「ああ、わかっている。戦争、だろ?」
俺は、静かに言い放った。
「五千の兵? 笑わせるな。お前たちには『サプライチェーン』という概念がないのか。すでに王国の前線は、俺たちが提供したポーションや物資に依存し始めている。俺がその供給の蛇口を閉めれば、魔王軍との戦線はどうなる? それに、無理に奪おうとすれば、俺のスキルでこの土地の恵みを全て灰に戻すこともできる。力で脅せば手に入ると思っているなら大間違いだ。俺たちは、俺たちの楽園を脅かす者とは、誰であろうと戦う。その覚悟は、とうの昔にできている」
俺の覚悟は、住民たちにも伝わった。
「そうだ!」
「アヴァロンは俺たちの国だ!」
「王国なんかに渡してたまるか!」
皆の心が、一つになるのを感じた。
「き、貴様ら……! 後悔するぞ! 必ずや、後悔させてやるわ!」
使者は震える指で俺を指差すと、足早にアヴァロンを去っていった。
嵐の前の静けさ。
王国との全面対決は、もはや避けられない。
使者が去った後、俺たちはすぐに今後の対策を話し合った。
「王国騎士団が攻めてくるとすれば、その数はおそらく数千。まともにぶつかれば、いくらゴーレム兵団でも分が悪いでしょう」
エリナが、冷静に戦力を分析する。
「はっ、数なんぞ飾りだわい! ワシらが作った大地鋼の武具と、お前さんのゴーレムがあれば、負ける道理なんぞねえ!」
ドーガンは、あくまで強気だ。
意見は様々だったが、全員の想いは同じだった。
このアヴァロンを、守り抜きたい。
「みんな、聞いてくれ」
俺は、全員の顔を見渡して言った。
「これは、ただの防衛戦じゃない。俺たちの、独立戦争だ。俺は、このアヴァロンを、どの国にも、どの種族にも縛られない、全く新しい国にしたいと思う」
「国……ですか?」
「ああ。全ての種族が、差別されることなく、笑って暮らせる国。それが、俺の夢だ。みんなは、どうだ? 俺と一緒に、国を作ってくれないか」
俺の問いかけに、最初に答えたのはルルだった。
「はい! わたし、カイ様の作る国が見たいです! どこまでも、ついていきます!」
「私も、同じ気持ちです、カイ。あなたの夢は、今や私たちエルフの夢でもあります」
「当然だ! ワシらは、アヴァロンの民だ! この国のために、ワシの槌を振るおうぞ!」
次々と、仲間たちが賛同の声を上げてくれる。
俺は、もう一人じゃない。
「よし、決まりだ! ここに、多種族共存国家『アヴァロン連邦』の建国を宣言する!」
俺の宣言に、割れんばかりの歓声が上がった。
それは、辺境の荒野に生まれた、小さな国の産声だった。
そして、古き大国に対する、宣戦布告の狼煙でもあった。
来るべき戦いに向けて、俺たちの準備が始まった。俺は、これから始まるであろう激戦の地、アヴァロンの城壁から、王都のある東の空を、静かに見据えていた。




