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第9章:完全な心身の破壊と放置

 朝の冷たい光が、カーテンの引きちぎられた窓から容赦なく差し込んでいた。


 部屋の中には、吐き気を催すような異臭が立ち込めていた。乾きかけた体液、酒の残り、汗、そして破られた家具や衣類の残骸。

 男たちは夜明け前に散々咲良の肉体を弄び、部屋の金目のものやペンタブレット、下着などを戦利品のように持ち去って姿を消していた。


 床の上に、咲良は打ち捨てられていた。


 手首には結束バンドが深く食い込み、擦り切れた皮膚から血が滲んでいる。全身は青黒い痣と擦り傷で覆われ、太ももの内側は白濁した体液で汚辱にまみれていた。下半身は激痛のあまり感覚が麻痺し、指先一つ動かすことすらできない。


 だが、肉体の損傷以上に致命的だったのは、彼女の脳だった。


 限界を超えた不眠、暴力的な絶頂の強制、そして恐怖と恥辱。それらの劇薬を数日間にわたって注ぎ込まれ続けた咲良の脳内では、睡眠と覚醒を司る神経回路が完全に焼き切れていた。


「あ……ぅ……あ……」


 どれほど疲弊し、生命の危機に瀕していても、まぶたを閉じることができない。

 目を閉じようとすると、脳髄の奥でパチパチと火花が散るような幻覚が走り、身体がビクンと激しく痙攣する。体内にまだあの冷たい玩具が埋め込まれているかのような、幻の振動が骨を揺らし続ける。


 眠りたいのに、眠れない。

 死ぬほどの眠気に脳が引き裂かれそうになりながら、覚醒の呪縛から逃れることができないという、生きたまま味わう拷問。


 ――ガタガタッ、と廊下から慌ただしい足音が響いた。


「おい、ここだ! ドアが開いてるぞ!」

「救急車呼べ! 警察に通報だ!」


 異変に気づいた近隣住民の通報を受け、警察官と救急隊員が部屋になだれ込んできた。

 踏み込んだ隊員たちが、凄惨な室内の有様と床に転がる咲良の姿を見て、息を呑んで絶句する。


「大丈夫ですか!? 意識はありますか!」


 担架が運び込まれ、隊員が咲良の顔を覗き込んだ。

 だが、その呼びかけに咲良の瞳は反応しなかった。焦点の合わない濁った瞳で、天井の蛍光灯を見つめたまま、血の気の引いた唇を小刻みに震わせる。


「……わたし、おきてます……」


 掠れた、乾いた声が喉から零れ落ちた。


「寝てない……まだ、描ける……ショートスリーパー、だから……見せて、あげる……」


「ダメだ、錯乱している! バイタル低下、至急搬送しろ!」


 隊員たちの焦燥した怒号が飛び交う中、咲良の身体は毛布に包まれ、担架へと固定された。

 だが、救出されたという安堵感は微塵もなかった。


 アパートの外へ運び出される際、集まってきた野次馬たちのスマートフォンのレンズが一斉に咲良へ向けられた。シャッター音が幾重にも重なって鳴り響く。

 彼女の尊厳も、才能も、正気も、すべてはあの長い夜の中で完全にすり潰されていた。残されたのは、二度と眠ることのできない、壊れた肉の塊だけだった。


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