第7章:突破されるドアと無法地帯
――ガンッ! ドサッ!
玄関の薄いスチールドアが、外からの暴力的な蹴りで大きく歪んだ。
郵便受けの隙間からは、酒とタバコと脂ぎった体臭が混ざり合った不快な臭気とともに、何人もの男たちの興奮した息遣いが流れ込んでくる。
「咲良ちゃん、居留守使ってないで早く開けてよ!」
「神谷のおもちゃだったんだろ? 俺らにも味見させろよ!」
下卑た怒号と笑い声が廊下に反響する。
咲良はベッドの脇で膝を抱え、震える指でスマートフォンを握りしめていた。警察に通報する番号を押そうとしたが、指先が激しく痙攣して画面をまともにタップできない。
(神谷さん……! 神谷さんなら、助けてくれるはず……!)
極限の恐怖の中で、咲良がすがりついたのはサロンの講師であり、愛人でもあった神谷だった。震える手で通話ボタンを押す。
数回の呼び出し音の後、奇跡的に通話が繋がった。
「神谷さん! 助けて……! ネットの人たちが、私の部屋の前に……! ドアを壊そうとしてるの……!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら叫ぶ咲良。
だが、受話器から返ってきたのは、かつて甘く囁いてくれた声とはまるで別人のような、冷徹で無機質な男の嗤い声だった。
『……本当に愚かな女ですね、咲良さん』
「え……?」
『配信で玩具を露出させるような致命的なミスを犯した時点で、あなたの利用価値はゼロです。サロンの宣伝役としては十分なデータを取らせてもらいましたが、これ以上あなたと関わるメリットはありませんよ』
「そんな……! 私、神谷さんの言う通りに夜通し配信して……!」
『ええ、おかげで私のサロンは“短時間睡眠の超人を育てた実績”として大盛況です。でも、今のあなたはただの“ネットに晒された性奴隷”。……さようなら。二度と電話してこないでください』
「待って、神谷さん! お願い、見捨てないで――」
プツッ、と無情な切断音が響いた。
直後、神谷のLINEアイコンが「メンバーがいません」に変わり、連絡先が完全にブロックされたことを告げていた。
使い捨てられたのだ。
最初から自分は、男のサロンビジネスの実験台であり、見せ物に過ぎなかった。絶望が冷たい鉛のように胃の底へ落ちていく。
――バキッ!!
凄まじい破壊音とともに、ドアチェーンが引きちぎられた。
外側から強引に押し開けられたドアの隙間から、何本もの腕が雪崩れ込んでくる。
「いたぞ! 部屋の隅で縮こまってる!」
「うわ、マジで本人じゃん! 生配信回せ!」
暗闇の部屋に、無数のスマートフォンのライトが一斉に照射された。
押し入ってきたのは、四、五人の見知らぬ男たち。ネットの特定情報を見て駆けつけた野次馬、変質者、アンチたちだった。男たちは興奮で目を血走らせ、レンズを咲良の顔や身体へと容赦なく突きつけてくる。
「いやああっ! 来ないで! 出て行ってぇっ!」
悲鳴を上げて逃げようとする咲良の腕を、乱暴な力で掴み上げられた。
引き倒され、冷たいフローリングに押し付けられる。複数の男たちの重みと、粘つく手つきが咲良の四肢を力ずくで押さえ込んだ。
「暴れんなよ。世界中にお前の淫乱な姿が晒されてんだから、今さら純情ぶるなよな」
「ほら、脚開けよ。ショートスリーパーの秘密、俺たちにもたっぷり見せてくれよ」
逃げ場のない密室。
レンズのフラッシュが激しく点滅する中、咲良の服が無惨に引き裂かれる音が部屋いっぱいに響き渡った。




