6.目標と旅立ち
―俺たちが能力を得て、しばらくが経った。
この世界では自立するのは15歳かららしい。
ロウさん達的には施設に残るのもアリと言って
いたが、甘え過ぎると罪悪感があるので、俺も自立…
というか、少なからず何か目標を見つけようと
奮闘している。
1番変化が見えたのはレナリアだ。
彼女は教師志望らしいから、もちろん勉強を教える
必要がある。
なので最近は俺との魔法特訓を離れて勉学に
励んでいる。
アンは魔導士を目指しているらしく、日々魔法の
訓練を重ねている。
彼女の【発火】は使い勝手が良いようで、とても
楽しそうだ。
気になって本人の了承の下一度だけ水をかけてみた
ことがあるが、元の体に戻るだけだった。
痛みも特にないらしいので、
大きなデメリットは無さそうだ。
シェルは魔法から離れて剣術の鍛錬をしている。
【魔人殺し】の対象である魔人がもうどこにも
いないことに気づいた時には絶望していたが、
冒険者になること自体はずっと前からの夢だそうだ。
みんなちゃんとそれぞれの目標に向かって
努力している。
俺は、何か惹かれるものを見つけるために
街に出たり、ロウさんに旅の話を聞いたりした。
が、特に惹かれるものを見つけることは
できなかった。
――
悩んだ末、俺はクラのもとに来ていた。
【暗闇】を使った彼女なら、何かいいアドバイスを
してくれそうだ。
「それじゃー、ちょっとまってねー」
クラが袋を被る。
「もう大丈夫ですか?」
「はい。今日は、どういったご用件でしょうか」
「えーっと、俺、今後何を目標にして生きていけば
いいか分からなくて。あぁ、別に精神的には安定
してるんだ。ただ、みんなみたいに夢とか持てたら
もっと生活が楽しいかなって…」
クラは少し考えてから話し出した。
「あなたは、スミレさんのことはご存知ですか?」
また出てきた名前に唾を飲む。
「はい。昔、うちの施設にいたことは知ってます。クラ…さんも、スミレさんと面識があるんですか?」
「もう4年も前にいなくなってしまいましたが、
よく覚えていますよ。スミレさんもあなたと同じ
転移者で、その体の名前を教えてあげたのですが
『私はヨコヤマスミレだ』と言って聞きません
でした」
(あぁ、なんだか会長らしい。変に頑固というか、不器用というか)
「その、いなくなってしまったって、どういうこと
ですか?」
前は、アンから旅に出たと聞いた。
「それが本題です。彼女は自らが元の世界に帰る
方法を探すため冒険者になりました」
(冒険者…!)
「もしあなたが彼女に会いたいと望むなら、冒険者
になるのを志すと良いと思います」
前、シェルから聞かされた。冒険者は、世界で1番
自由な職だと。
(そのせいで放浪者と揶揄されることもある
らしいけど…)
「もちろん、それ以外の道もあるとは思いますが、
特にあてがなさそうなので…」
まぁ、そうだよな。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、役に立てて良かったです」
そう言ってクラは袋を脱いだ。
「じゃ、ぼーけんしゃがんばってねー」
この温度差にはいつも風邪を引きそうになる。
――
そういうわけで、シェルに俺がひとまず冒険者を
目指すという旨を伝えると、めちゃくちゃ喜んで
くれた。
今まではかじっている程度だった剣術を本格的に
習い始めた。
本当は魔法使いでやりたかったが、なんとアンも
冒険者になるらしい。
なんでも、「実践が足りなさすぎるから、ある程度
は経験を積まないと魔導士には程遠い」とのことだ。
つまり最初はこの3人で冒険することになる。
ただ、パーティは基本的に4〜6人が良いと
されているため、どこかで仲間を見つける必要が
出てくる。
(人数不足なのに俺とシェルの役割がまったく同じ
剣士なのはどうなんだ…?)
その悩みを解決するため、俺は今とある技を練習
している。
その技は…お楽しみだ。
また、単純な戦闘技術だけでなく、能力の練度を
上げるための訓練もしている。
ただ訓練らしい訓練をしているのはアンとレナリア
だけで、俺は隙あらば時間を確認する習慣をつけた
だけだ。なんでも、練度を上げるにはひたすら
量をこなす必要があるとか。
シェルに関しては練度の上げようがなく何もして
いない。
驚くべきことに、最も能力を成長させたのは他の
誰でもない俺だ。
なんと【時計】の新たなる力を発見してしまった!
しかも3つもだ!それは…
タイマーとストップウォッチとアラーム。
クソが。
――
能力鑑定から1年。
俺らの、旅立ちの時だ。
俺にとっては1年と少ししか過ごしていない
場所だが、他は訳が違う。
ここが家であり、学校であったのだ。
全員ボロボロに泣いている。
俺は流石に泣いてない。両目が汗でびっしょりな
だけだ。
レナリアは、この施設を出るのは俺らより後らしい。
「先生になる前に生徒を経験しなくては」
ということで、王都にある学校に通うそうだ。
少なからず、しばらくは出会うことがないだろう。
「アンちゃん、またね」
そう言ってレナリアはアンに抱きつく。
いつもなら拒絶するだろうが、今日は違かった。
赤面するアンの顔を見ようとしたが、
既に泣いていて耳まで真っ赤だった。
シェルはロウさんと話している。
「はい、これ」
ロウさんが何かを渡したようだ。
(俺だけ、誰にも構ってもらえない…)
そう思っていると、クラがやってきた。
「ベルデくん、これ、あげるー」
クラの手には、折り畳まれた紙があった。
なんだろう、と思い開いてみる。
メッセージカードの類かと思っていたが、そうでは
ないようだ。
そこには、クラの字がびっしりと書いてあった。
「それねー、クラが、スミレちゃんのいる
るーとを考えたんだぁ。がんばったから、
さんこーにしてね」
字を読むと、スミレさんが今まで、
そしてこれから辿るルートが書かれていた。
(これは…感謝しないとな)
クラを抱き上げる。出会った時と比べて
姿はそこまで変わっていない。
(俺らがいなくなれば、
クラが最年長なんだよな)
少し不安は残るが、楽しくはやっていけそうだ。
「それじゃあ、また」
俺たちは、施設を背にして歩き出した。
――
かっこよく旅立ったものの、もう晩なので隣町の
宿屋で今日は一泊する。
ロウさん達に金貨を10枚ももらった。
この世界の経済の感じだとだいたい10万円くらい
だろう。
多いか少ないかはよく分からないが、前の世界も
含めて今まで触れたことのない金額だ。
宿屋に着き、チェックインをする。
「銀貨5枚になります」
(…まずい)
今は支払えるが、これでは後20日ほどしか保たない。
とりあえず金を払い、部屋に向かう。
毎日銀貨5枚が消えるとして、少なからず月に
銀貨150枚程は稼ぐ必要がある。
それで食品だったり、装備だったりを買うとすると…
とてもハードモードだ。
(そもそも銀貨150って金貨1.5だろ?冒険者は
最初のうちは金貨1稼げたらいい方ってロウさん
言ってたぞ!?)
これは…野宿生活だな。
――
翌朝、とりあえずみんなで冒険者登録をしにいく
ことになった。
この街の冒険者ギルドでできるらしい。
今までは見てるだけだった建物の中に
いざ入るとなると、少し緊張する。
シェルが扉を開けた。
まず男女比は8対2くらい。これはいい。男の大半は
イカついゴリマッチョだ。心なしか俺たちを
睨んでいるような気もする。
冷や汗ダラダラで職員のいるカウンターまで向かう。
視線が怖い。
不幸中の幸いか、職員さんは優しそうな
女の人だった。
「どうされましたか?」
「あの…冒険者登録をしに来ました」
「あぁ、新規登録の方ですね。それではこちらを
書いてお待ちください」
紙には、まず個人情報を記入する欄。名前、特性、
能力などを書いて次を見る。
どうやら同意書のようだ。
同意書には、いろいろと怖いことが書いてあった。
要約すると、
『冒険者は危険な職業です。あなたたちが死んでも
私たちは一切の責任を負いません。』
ってことらしい。
そりゃそうだけど、急に死の存在をちらつかされる
と流石にビビる。
書き終わりしばらく待っていると、職員さんが
戻ってきた。
「ご記入ありがとうございます。回収させて
いただきますね」
そう言って、手際よく俺たちの紙を回収する。
「それでは、もうしばらくお待ちください」
2人の顔を伺う。シェルは憧れの冒険者になれる
ことに期待を寄せている。一方のアンは特に何も
気にしていなさそうだ。
(マッチョにビビってるのは俺だけかよ…!)
俺だけが怯えながら待っていると、再び職員さんが
戻ってくる。
「こちらが、冒険者カードになります。紛失して
しまった際は、再発行に料金がかかりますので
ご注意ください」
(ついにこれで俺らも冒険者か…!)
シェルはまだ何も成し遂げていないのに心の底から
嬉しそうだ。
(これが見れただけで、来た甲斐があるな)
「おい、ちょっとコッチ来い」
いきなり背後からマッチョに声をかけられた。
(来なきゃよかった…)




