↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W  作者: ちーす
施設編
PR
7/22

5.能力

「君たちの、今後についての話をしようと思う」


…俺たちの、今後?


「そんなに身構えなくてもいいよ。でも、今のうちに

話しておこうと思ってさ」


(今後…ってなんだろう?)


「みんな、今が13歳でしょ14歳になったら、

アレがあるんだよ」


(アレってなんだ?)


他3人は目を輝かせている…ということは、俺が

無知なだけだろう。


シェルが嬉しそうな声を上げる。


「能力(スキル)鑑定か…!」


能力(スキル)…確か、前にロウさんに教えて

もらった。この世界では、14歳になると神から

特別な力を授かるらしい。


特性(ユニーク)との違いは、その力の種類にある。


特性はその人自身に変化を与えるイメージだ。

クラの場合は暗闇で技能が上がる。

人によっては腕が増えたりするらしい。


一方の能力(スキル)は、できることが増える。

透視できたり、念力が使えたり…

こっちは割と幅広い。


一応こういった違いはあるものの、どちらも細かい

定義はないらしい。


結局はいつその力を手に入れるかだ。


「今は10月だから、あと2ヶ月でみんな14歳だね」


(そういえば、こっちの世界は数え年だったな)


「それで、11月から王都に向かおうと思うんだ。

そこでしか、能力を見てもらえないからね」


(王都…!)


「王都って、移動に1ヶ月もかからないんじゃ

ないですかー?」


レナリアが疑問の声を上げる。


「うん、何もなければ遅くても2週間くらいだけど、

念のためにね。それに、みんなも王都を楽しみたい

でしょ?」


つまりは、俺たちを楽しませるための粋な計らい

ということだ。


アンはとても楽しみそうにしている。


(どうせもうスイーツのことで頭がいっぱい

なんだろ)


俺がニヤついていると、こちらに気づいたアンが

睨んできた。怖い。


「そういうことだから、楽しみにしておいて。

じゃ、解散!」


そう言って、ロウさんは部屋を出ていった。


(能力か…!)


久々の異世界らしい名前に心が躍る。

スキルという響きがもうカッコいい。


「みんなは、どんな能力が欲しいんだ?」


俺が問いかけると、各々が答える。


「ウチは魔導師になりたいから、魔法系だな」


「俺は冒険者志望だし、剣術か肉体系かな!」


「私は先生目指してるし、何でも〜」


(みんな自分のなりたいものから逆算してる感じ

なのか)


「ベルデくんはどうなの?」


「どうなの…って聞かれても、俺はまだ

みんなみたいに夢とか見つけられてないし…」


この世界に来てから、今を生きるのが精一杯で

今後のことを考えたことがほとんどなかった。


(この世界が嫌いなわけじゃないけど、やっぱ元の

世界に帰りたいよな…)


流石にそれを皆の前で言うことはできず、

黙ってしまう。


「まぁ、生きてきゃその内、なりたいもんくらい

見つかるだろ」


そういうものだろうか。でも、夢って案外そういう

ものかもしれない。


元いた世界でも、いつからかは分からないけど

気づいたら夢を抱いてて、その夢を追って日々を

過ごしてた。


「そうだな」


元いた世界に帰るにせよ帰らないにせよ、こちらの

世界で何か追えるものはあった方がいいだろう。


(そういう意味じゃ、王都に行けるのは貴重な経験

になるかもな)


――


その後の1ヶ月は、特に何もなくいつも通り

過ごした。


とはいえ、魔法の練習や体づくりは

元々ハードなため、実力は上がっただろう。


狭い馬車の中で、俺たち4人とロウさんは、

王都に向かっていた。


もう慣れてしまったが、ロウさんの風貌は

どう見ても異質だ。


常にフードをしていて目元が見えない。


見た目で人を判断するのはよくないが、到底

こんなに明るい性格をしているとは思えない。


今まで触れてこなかったが、思い切って聞いてみる。


「ロウさんって、どうしていっつもフードを

被ってるんですか?」


「あぁ、ベルデくんには言ってなかったかもね」


そう言うとロウさんはフードを外す。初めて見る

ロウさんの目に驚く。


左目は綺麗な青色をしているが、右目には眼球と

いえるものが見つからない。完全な空洞だった。


「驚かせちゃったかな?」


「どうして…?」


思わず質問してしまった。けれど、ロウさんは

笑顔で答えようとしてくれた。


「それはね…」


そこまで言ってロウさんは動きを止める。


溜めを作ってるというより、別のことを考えている

ような姿だ。


「どうしたんですか?」


「すみません、一度馬車を止めていただけますか?」


ロウさんが御者に声をかける。


するとすぐに馬車が止まる。


「一回外に出ようか」


ロウさんの顔は真剣だ。


従って、馬車から降りる。辺りは丁度森のようで、

木が茂っていた。


ロウさんがアンに声をかける。


「アンちゃん、何か見えるかい?」


アンは首を横に振る。


「この辺りには、何も…っ!あっちだ!」


アンが向こうを指差す。


そちらを見ると、茂みが少し揺れていた。


(よくアレに気づけたな…)


そう思うほど、それは微細な揺れだった。


すると突然、その揺れは大きくなり、

こちらに迫ってきた。


(何か来る…!)


その揺れの正体が姿を現す。


それは、イノシシのようだった。

しかし、その頭部には角が生えている。


(これが魔物ってやつか…?)


「みんな下がって」


ロウさんはそう声をかけると、

いつの間にか片手に剣を持っていた。


(いつあんなの持ってきたんだ?)


ロウさんが地面を蹴る。

そのままその魔物を一刀両断する。


その剣を振る速度は、とてつもなく速かった。

なんとか視認することはできた。


しかし、視認することができたからこそ、

ロウさんの剣術の上手さが

とてつもないものだと分からされる。


魔物は真っ二つになった状態で静止し、

しばらくすると煙となって消えた。


ロウさんは魔物のいたところから

何かを拾っているようだ。


「今のが魔物?」


俺の疑問に、シェルが答えてくれた。


「いや、今のは魔獣だろうな。

 魔物は、魔王が支配してる魔族だ」


魔物、魔獣、魔族…

似たような言葉がたくさん出てきて混乱する。


「まず、魔族っていうのは、魔力によって

 生み出された化け物のことだ。

 で、知性が低くて自分の意思で動く

 魔族は魔獣。

 知性関係なく魔王により支配されている

 魔族を魔物。

 人型で知性が極めて高い魔族が魔人。

 で、魔王は世界唯一の魔人だ」


(うーん…?)


なんとなく分かった気もするし、

何も分からなかった気もする。


「まぁ、今理解してなくても

 生活していけば自然と覚えるよ」


シェルが苦笑いする。


そんな話をしていると、ロウさんが

拾い上げたものを見せてくる。


(石…にしか見えないよな)


「これが魔石っていうんだ。

 今回はそんなに強い魔物じゃないから

 本当に石みたいだけど、強ければ強いほど

 綺麗で宝石みたいな魔石を落とすんだ」


(なるほど)


きっと綺麗な魔石は高く売れたりするのだろう。


「さ、馬車に戻ろう」


馬車が動き出すと、ロウさんが

さっきの話の続きをしてくれた。


「この目はね、僕が冒険者をやっている時に

 奪われちゃったんだ。それが原因で、

 冒険者を辞めちゃったんだけどね」


そういえば、前に元冒険者だという

話をしていた気がする。


(だからあんなに剣術が上手いのか)


「施設の子には、一応目がないことは

 伝えてるんだけど、怖がる子もいるから

 普段は隠してるんだ」


「そういうことだったんですね」


そういえば、とロウさんの周りを見る。

どこにも剣が入るような荷物はなさそうだ。


「今度はどうしたんだい?」


「あの、さっきの剣ってどうしたんですか?」


「あぁ、アレは僕の能力だよ」


…ということは、武器の出し入れが

可能とか、そういうことだろうか。


隣からシェルが声をかけてくる。


「ロウさんの能力は凄いんだぞ!

 【創剣】っていう能力で、いつでも

 その手から剣を作れるんだ!」


シェルは興奮気味だ。

一方のロウさんは少し恥ずかしそうだ。


「そういえば、どうしてさっき魔獣がいるって

分かったんですか?」


「それは僕の特性だね。【魔族探知】っていって、

近くに魔族が何匹いるか分かるんだ。場所までは

分からないけどね」


(特性のおかげか。よく考えたら俺はみんなの

特性については知らないな)


「せっかくだし、3人もどんな特性もってるか

教えてくれないか?」


「よし!俺の特性は【瞬発】だ!一時的に自分の

身体能力を上げられる。特にインターバルは

ないけど、体力を食うから使い続けられて

3秒がいいところかな」


何かと汎用性の高そうな特性だ。体力を大きく

削ることを考えると、体力の前借りをするような

原理なのか?まあ、この世界で原理とか考えても

意味はないか。


「はいはーい!私の特性は…【未来視】!」


おお…凄く強そうな雰囲気を醸し出している。


「文字通り未来が見えるよ!」


なんだか説明が簡素だ。まあ、それ以上言うことは

ないのかもしれないが…せっかくだし遊んでみよう。


「じゃあ、俺が今から出す手の形は当てれるか?」


適当にパーとかにしようか。


「無理だよ」


…?聞き間違いだろうか。


「私に見えてるのは、ベルデくんがパーを出す

未来…」


なんだ、見えてるじゃないか。それならやっぱり

さっきのは聞き間違い―


「―グーを出す未来、チョキを出す未来、

意地悪で何も出さない未来、それから…ああ、

もういいって顔してるね」


「もういいっていうか、どういうことだ?」


「私に見えるのは、正確には未来じゃなくて

今から起こり得る可能性なの。だから見える姿は

幾つにも重なってて、今回みたいな単純なものなら

まだしも、魔法の模擬戦とかになると使い物に

ならないんだよね…。だから今日は久しぶりに

使ったよ!」


いくつにも枝分かれしている…本当に可能性を見る

特性なのか、それともバタフライエフェクトは

実在したのか…面白いな。


「ウチの特性は【極視】だ。なんて言えばいいんだ?

こう、目が良くなる」


目が良くなる…極とかついてる割には地味だな。


「遠くのものがハッキリ見えるし、【極視】を

使ってる間は全部がヌルヌル動いて見える」


ヌルヌル…解釈が合っているか分からないが、

おそらく画素とフレームレートが大幅に増えた

カメラのようなものなのだろう。


(だからさっき魔獣の位置に気付けたのか!)


「最後は俺か…俺は、特性の名前が【W(ダブル)】

ってことくらいしか分からないな」


「それなら、【W】がどんな特性なのかみんなで

考えてみようぜ!」


「でも、ダブルってどういう意味だ?ウチは

そんなの聞いたこともないし…」


「私もー」


シェルとロウさんも、顔に分かりませんと

書いている。ダブルって単語はそこまで難しくも

ないよな?


というか、そもそも俺のつけてる指輪に込められた

翻訳魔法でこの世界において普遍的な言葉に

変換されるはずだし、変換されなかったのは

固有名詞くらいで…


ふと、頭の中で一つの仮説が浮かんだ。


「シェル、俺が今から指輪を外して合図を

出すから、その後に【W】って言ってみてくれ」


「?分かった…」


そっと指輪を外す。


(さあ、どうなる…?)


シェルに指でOKサインを出す。それを確認し、

シェルが言葉を発する。


「ダぶル」


思わず鳥肌が立つ。イントネーションはまるで

違えど、それは俺のよく知る言語だった。


つまり、俺の特性【W】は、英語だ。字面だけで

考えると変だが、明らかに異様だといえる。


とはいえ、今考えても解決しなさそうな問題なので、ひとまず心にしまい指輪をはめる。


「ダブルっていうのは、俺がもといた世界の言語だ。

意味は…2を表すと思ってくれればいい」


そう言うと、皆一瞬驚いたような顔をしたが、

すぐに考え出した。


「分身とかできたらかっこよくないか?」


「実は成長速度が2倍…!」


「二重人格だったりすんじゃねーの」


どれもあまりしっくりくる案ではない。その後も

色々な案が出たが、ほとんど大喜利大会だった。


そんな和気あいあいとした雰囲気のまま、俺たちは

移動1日目を終えた。


…1日目と言ったものの、この移動の2週間は

特にトラブルなく過ぎていった。


定期的に魔獣がおりその度にロウさんが対処して

くれた。


ただ、ここら辺でこんなに魔獣がいるのはおかしい

らしい。


これは魔王が復活する予兆に違いない…!


冗談でそう言うと、ロウさんに軽く叱られた。


というか魔王は存在こそするものの大昔に

封印されてしまったらしい。


平和なのはいいけど、面白みがない。そう思って

しまうのは、まだどこかこの世界を他人事のように

捉えてしまっているからだろうか。


――


少し長い旅を終え、俺たちは王都に着いた。


「とりあえず、ホテルに行こうか」


王都の姿は、今までの場所とは変わり、全体的に

石を基調とした街並みをしていた。


「建物デケー!」


シェルがまた興奮して声を上げる。


こうすると、初めて東京に来た時を思い出す。


王都は東京と比べればもちろん劣るが、その空気感

は引けをとらない。


「ここがホテルだよ」


そこにあったのは、他の建物と比べ

圧倒的な大きさのあるホテルだった。


ホテルに1番興奮していたのはレナリアだ。


「受付でっかーい!」


「部屋でっかーい!」


「ベッドでっかーい!」


レナリアが騒ぐたびに少し恥ずかしい気持ちに

なったが、修学旅行みたいなものだと考えれば

こんな反応にもなるか。


(…にしても、このホテルに2週間くらいは宿泊

するのか…)


特別高級だったわけではないが、接客もいいし

決して安い場所ではないはずだ。


「ロウさん、費用って大丈夫なんですか…?」


恐る恐る聞くと、ロウさんは笑顔で答えてくれた。


「この時期だと、国が無料で宿と移動代を提供して

くれるんだ」


「全部ですか…?!」


「うん。特性と違って、能力には危険なものも多い

から。ちゃんと判明させたいんだろうね」


国がそれだけの金をかけてでも判明させる価値は

あるらしい。


その日は、もう夜遅かったので寝ることにした。


――


翌日からは、俺たちは自由に王都を巡った。


といっても、俺は特に行きたい場所もなかったので

基本的に誰かの後ろをついていっただけだ。


アンのスイーツ巡りに付き合わされたり、シェルと

冒険者ギルドに入って追い出されたり、レナリアに

おつかいを頼まれて迷子になったり。


…最後のは俺の過失だが、かなり振り回された。


その過程で色んな職種を見てみたが、ピンとくる

ものを見つけられないまま大晦日になってしまった。


今日の年越しのタイミングから能力鑑定が

始まるらしい。


街は年末ということで祭りをやっていた。


これまた日中はアンのお祭りスイーツ巡りに

付き合わされた。


馴れない人混みに疲れて、いつの間にか宿で眠って

しまっていたようだ。時計を見ると、もう22時を

指している。


(そろそろか…)


服を着替え、準備をする。


2時間前といえど、早めに準備をしておいて

損はないだろう。


(そういえば、みんないないな…)


流石に先に行ったということはないだろうし…

いったい何をしているのだろう。


そう考えていると、部屋の扉が開いた。


そこには、手には大量の食べ物を持ち、おそらく

祭りを最高に楽しんだ後であろう俺以外の仲間たち

がいた。


「あー、起きてたんだ」


レナリアが気まずそうに声を上げる。


「うん…」


気まずい空気が流れる。別に俺抜きでお祭りに

行ったことを咎めるつもりはまったくない。


どちらかというと、早めに準備をしている俺と

ついさっきまで祭りを楽しんでた彼女らとの

空気感の差がこの気まずさを作っている。


(これじゃ、まるで俺が能力鑑定をとてつもなく

楽しみにしているみたいじゃないか…!)


実際かなり楽しみなのだが、俺だけ浮かれてると

思われるのは少し癪だ。


そんなことを考えていると、アンが吹き出した。


「お前…まだ2時間前なのに準備って…ガキすぎる

だろ…!」


アンがそう言うと、周りの奴らも笑い出す。 


ロウさんは苦笑しながら喋る。


「3人ともベルデくんを笑ってるけど、そろそろ

準備しないと間に合わないよ…?」


3人が狐につままれたような顔をする。いい気味だ。


その後は、急いで準備する3人を

笑顔で紳士的に見守っていた。


途中、レナリアに炎魔法を出された時は流石に

ビビった。ちびるところだった。


全員が準備を終えた。時計を見ると、もう23時だ。


能力鑑定の受付自体はもう始まっている。


「それじゃあ、行こうか」


ロウさんに案内されて鑑定の会場まで向かう。


先程までの祭りが嘘だったかのように街は静まり

返っている。


王都では年末は22時まで騒いで、そこから翌日の

8時までは静かに過ごすらしい。


(よくわからん風習だが、多分俺らみたいな子供が

メンタルやられないようにするための配慮みたいな

ものか?)


よく考えれば、これから授かる能力によって俺の

今後の人生が決まるわけだ。


(ってなると、こっちの世界の人生はかなりの

運ゲーだよなぁ)


街が静かなので、俺たちも特に会話はしなかった。沈黙したまま、俺たちは会場に着いた。


「ここからは、これより14歳になられるお子様のみ

でお願いします」


受付の人にそう言われて、ロウさんと別れて奥の

部屋へ進む。


扉の奥にあったのは、信じられないほどに広い

部屋…というより、空間だった。


床も壁も天井も真っ白で、微かに光を放っている。


(これも魔法とかなのか…?)


他3人も驚いた顔をしており、この世界の

常識というわけでもなさそうだ。


それから30分ほど待機していると、大人が1人

入ってきて説明を始めた。


「えー、みなさんには、これから能力鑑定を受けて

いただきます。自分の名前が呼ばれたら目を閉じて

3つ数えてください。そうしたら神授者のいる部屋

に飛ばされます。その後の詳しい説明はそこで

します。というわけで、もう少しその場で

待っていてください」


必要最低限の説明しかないし、話している人は

どこか気だるげだ。


(そもそも神授者って誰だ…?)


シェルに質問すると、


「神授者っていうのは、生まれつき神から特別な

力を授けられた人のことだよ。俺たちには

分からないことが分かったり、見えないものが

見えたりするらしい」


とのことだ。


つまり、能力を見ることのできる人間がその神授者

ってヤツなわけだ。


(待てよ…あの時は信じられないことだらけだった

から気にしてなかったけど、クラってもしかして

神授者なんじゃ…)


クラは俺の特性の名前や、精錬魔力量を見ていた。


(あんな普通に生活してていいのか…?)


アンに聞いてみようと、アンの方を向く。


アンはそこにはいなかった。

周りを見渡しても、どこにも姿はない。


アンの名前はまだ呼ばれていない。というか、

まだ誰も呼ばれていない。


不思議に思っていると、突如。


『ベルデさん』


声が聞こえた。瞬時に目を瞑る。


(コイツ、俺の脳内に直接…!)


人生で一度は言いたかったセリフを

思い浮かべながら3つ数える。


3…2…1…


再び目を開けると、先程とは違いかなり暗く狭い

部屋に来ていた。暗闇に目が慣れていないため何が

あるかはよく見えない。


しかしその気配だけでそこに人が1人いることは

分かった。


「ベルデさんで間違いありませんね?」


声的に、女の人のようだ。


「はい。ベルデです」


「これより、能力鑑定を始めます。

 しばらくじっとしていてください」


言葉に従い、その場で姿勢を正してじっとする。


3分ほどそうしていると、女の人が口を開いた。


「少々お待ちください」


そう言って、女の人はおそらく扉があるであろう方

へと消えた。ガチャリと鍵の掛かる音がする。


(閉じ込められた…!)


少しずつ暗闇に目が慣れてくる。どうやらここは扉

以外に出入り口はないらしい。今は完全な密室状態

というわけだ。


そんなことを考えながら5分ほど待った。


すると今度は数人がこの部屋に現れた。


数人は何かを話しているようだが、会話の内容は

聞こえない。


(もしかして僕、また何かやっちゃいました?)


さらに10分ほど待たされた。


すると、数人は消えて元からいたであろう女の人

1人になった。


「手間取ってしまい申し訳ありません。能力鑑定の

結果をお伝えします」


(ゴクリ…)


「まず、原因は分かりませんがなぜかベルデさんは

スキルを2つお持ちのようです」


(スキルが2つ…!?)


おそらく異例の事態だが、女性は淡々と話を続ける。


「ひとつ目は【時計(クロック)】。その場での正確な

時間を把握できます」


(…なんかしょぼい)


この世界では何故か割と時計が普及しているので、

この【時計(クロック)】の出番は少なそうだ。


「ふたつ目は【無(エンプティ)】」


(エンプティ…!超かっこいい!)


これは期待できそうだ。


「【無(エンプティ)】は…何もないです」


「…はい?」


思わず声を出してしまった。


「あなたの能力の空き枠です。双方の同意があれば、

他者からその人の能力を譲り受けることが

可能になります。また、片方が望めば強制的に

本来の所有者に能力が戻ります」


(なるほど…!かなり幅が広そうだな)


「これで以上になります。それではまた目を瞑り、

3つ数えてください」


言われた通り、目を閉じる。


3…2…1…


目を開ける。


「ぐわっ!」


今度は光に目がやられる。


薄目で周りを見ると、どうやら4人の中で俺が

最後だったらしい。


みんなかなり満足したような表情だ。


みんながどんな能力だったか聞こうとしたが、

ロウさんに止められる。


「みんな気になってると思うけど、話はまた

ホテルでしようか」


――


「さぁ、そしたら、アンちゃんから時計回りに

話してもらおうか」


「ウチの能力は、【発火】だった。体の一部を

火に変えれるらしい」


そう言うとアンは実際に右手を炎に変えてみせた。


ある程度手の形は保っているが、本当に轟々と

燃えている。


「これのおかげで、ある程度の火魔法は無効化

できるらしい」


(アンはメラメ◯の実の全身炎人間か)


流石に能力【溶岩】に体を貫かれて

最後を迎えることはないだろう。


「次は私だね!」


レナリアが張り切った声を上げる。


「私の能力は【反転(リバース)】!無機物を

元の姿に戻せるんだって!」


言い終えるとレナリアは近くにあった高そうな壺を

躊躇なく土魔法で割った。


その後両手を壺の破片にかざす。


すると、壺の破片から光が放たれ、みるみるうちに

元の綺麗な姿に戻った。


「どう?凄いでしょ!」


「レナちゃん、凄いけど勝手に物を壊すのは

やめてね」


ロウさんは笑顔だが声は冷たい。


レナリアはしゅんとなってしまった。


シェルが咳払いをして喋り出す。


「次は俺の番だね。俺の能力は…」


変に溜めをつくるということは、相当自信があるの

だろう。


「俺の能力は、【魔人殺し】」


今までに見たことのない最大限の決め顔でシェルは

そう言った。


「魔人殺し…!?」


1番驚いていたのはロウさんだ。


そういえば、もうこの世には魔人が魔王しか

いないんだったか…?


で、その魔王は今封印されてる…。


要は宝の持ち腐れってことか?


ロウさんは視線を集められて恥ずかしそうだ。


「その能力については…後で色々聞こうか。

最後は、ベルデくんだね。よろしく」


ロウさんが座ってから、俺は話し始めた。


「俺は…能力が2つあるらしい」


みんなが目を見開く。


「ひとつ目は、【時計(クロック)】。

正確な現在時刻を確認できるらしい」


実際に能力を使おうとして、止まる。


(どうやって使うんだ…?)


とりあえず、頭の中で唱えてみる。


【時計】


すると、目の前に文字が現れた。


01:12:24.8


その文字は、だんだんと増えている。


(こんなデジタルな感じなのか…)


すると、アンから声をかけられる。


「お前、ずっと何見てんだ?」


どうやら、俺以外には見えていないらしい。


(ってなると、かなり汎用性低いな)


「今、俺には時間が見えてるんだ。今は1時12分

だな」


アンは興味なさそうに「へー」とだけ返す。


胸が苦しい。


「…で、ふたつ目の能力は【無(エンプティ)】」


その声に反応したのはシェルだ。そうだろう、

かっこいいだろう。


「双方の同意があれば、他者と能力を貸し借り

できるらしい」


つまりは無限の可能性を秘めているということだ。


ただ、みんな興味なさそうな顔をしている。

目に見えて何かができるわけではないので、面白み

がないのだろう。


それを察したのか、ロウさんが口を開いた。


「それじゃあ、試しに僕の【創剣】をベルデくんに

貸してあげようか」


「え、いいんですか!」


場の空気が変わる。


特にシェルは凄く羨ましそうな目でこちらを

見ている。


「それじゃあ、いきます」


【無(エンプティ)】


そう頭の中で唱えると、俺とロウさんの体が一瞬

光った。


(…成功したのだろうか?)


「うん。僕は【創剣】が使えなくなってるね」


(ということは…!)


頭の中で唱える。


【創剣】


すると、俺の両手の上に剣が現れた。


ただし…現れたのは、木刀だった。


(どうして!)


みんな大笑いだが、特にシェルは腹を抱えて

その場に倒れ込んでいる。ただこの木刀では誰にも

勝てなさそうだ。


ロウさんが説明してくれる。


「多分…能力は移っても、練度までは

移らないんじゃないかな?僕も、最初は木刀しか

創れなかったし」


つまり、下位互換になるということか。

なんだこの能力。


(っていうか、能力に練度とかあるのか)


つまり、まだ俺の【時計】もポテンシャルを

秘めているということだ。


(もしかしたら、時を止められたり…!)


頭の中にメイド服を着て奇妙なポーズをキメる

俺の姿が想像される。


そう考えると、少し希望が湧いてきた。


―その後はもう遅い時間だということで、

俺らは就寝した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。